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呪いかと思ったとき、考えた方がいいこと


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記事:こんどうなつき(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
実の母親が亡くなったとき、私のお腹には、まだ豆粒くらいにしかならないけれど、子どもがいた。母の余命が10日と言われた日に、妊娠していることがわかった。
 
私は両方の出来事に衝撃を受け、自分に起きている自体を上手く飲み込めなかった。バタバタしている中でもちょっと一人きりの時間が出来ると、温かい部屋の中にいるにも関わらず、雪の中でボーッと氷柱を触っているような気持ちになった。キラリと光りを反射してとても綺麗だが、すごく鋭利で冷たい。子どもが出来たことを母が生きている間にギリギリで伝えられたのは喜ばしく、何かとても神聖なものに自分が触れているように感じた。ただ、ペタンコなお腹の中に子どもがいるという実感はまだ薄く、母が居なくなってしまうという悲しみが、静かに胸に突き刺さるようだった。
 
そんな状態だったので、なるべく心を乱さないように、体を動かすことに集中し、心の面は、他人事のようにぼんやり眺めることで表に出さないようにしていたのだろう。それでも、抑えきれない不安や悲しみがはみ出していたのだろう。
 
だから、普段なら何てことのない散歩が謂く付きの場所を作ってしまったのだと思う。
 
母が余命宣告を受けた日、私はたまたま仕事が早く終わったので、いつも行かない神社へ散歩に行った。
 
母の診察日だったが、珍しく父が付き添ってくれると言った。看病と仕事で忙しくしていた私を気遣って休みを取ってくれたので、私はそれに甘えることにした。その神社は、職場から車で20分くらいのところにあった。存在は知っていたけれど、用事のあるような場所ではなく、今まで縁はなかった。
 
私は特別スピリチュアルなことが好きなわけでも、霊感があるわけでもない。だから、神社の散歩も「広報誌に載っていた写真が綺麗で雰囲気が良さそうだから行ってみようかな。天気も良いし」くらいなものだった。でも、神社に着いたとき、一瞬だが、何となく今まで感じたことのない、変な感じがした。あまり好ましい感覚ではなかったが、「せっかく来たのだし」と神社の散歩を続行することにした。その後は神社の中を歩いていても特に何も起こらなかったし、やっぱり気のせいだったのだと納得した。
 
そうやって能天気に神社を散歩して家に帰ったら、母親の余命宣告と妊娠という事実がいっぺんにやってきたというわけだ。普段は非科学的なものなど信じないが、このときは「呪い」と「奇跡」という言葉が同時に頭に浮かんだ。
 
余命宣告どおり母は亡くなってしまったが、子どもの方は順調に大きくなり、無事に産まれてきた。
 
お腹の中にいるときには想像がつかないくらい、子どもというのはエネルギーに満ちていて、想像以上にうるさくて、可愛かった。だから、神社のことなど考える暇もなかったが、一年くらい経ったころ、ふと思い立ってもう一度行ってみた。
 
「あの神社に行ったのが、良いものをもたらしたのか、悪いものを連れてきてしまったのか、全然関係ないのかは分からないが、子どもが無事に産まれたのだし、とりあえず御礼を言いに行かないと」と思ったのだ。
 
でも、そのときも何故かあまり気乗りがしなかった。「忙しくてそれどころじゃなかった」ことに自分が少し罪悪感を感じていたのかもしれない。相変わらず忙しかったが、義務感のようなものに駆られて行ったというのもある。神社へ着いたら子どもはすごい勢いで泣き、後から熱を出した。日々の仕事で疲れていた夫とも喧嘩になり、散々だった。子どもが泣き続けていたので、ちゃんと手を合わせることもままならなかった。
 
「やっぱり近づいてはいけない場所なのだろうか? 」と思ってしばらく放っておいたが、ある日夫が「散歩でも行こうか。あの何だかごちゃごちゃして変な置物がある神社に」というので再び私たちはその神社に行ってみることにした。
 
すると、今度は若葉が芽吹いていて、子どもは本当に楽しそうにはしゃいでいるし、みんなできちんと手を合わせることも出来た。そして、子どもが「縁切りの瓦」という人々が怨みや憎悪や嫉妬など負の感情を持って投げたであろう瓦をもろともせずにゴジラのようにぐしゃぐしゃと踏み潰しながら屈託のない笑顔を浮かべているのを見たときに思った。
 
「なんだ。全ては自分の心の中を写していただけなのだ。辛い気持ちやどんよりした気持ちのときは、その場所の中の悪い部分に無意識に目が向いてしまうし、楽しくて、気持ちが良いときは明るい側面を見ることが出来るのだ」と。
 
呪いのようなものに出会ったと思っても、結局は自分の中の問題であることが殆どだ。もし本当に呪いが存在したとしても、大切なことは呪いを避けることでも立ち向かうことでも除霊することでもなく、自分の心の中の気持ちが良いと感じる分量を増やしてやることだ。そうすれば、たとえ本物の呪いにかかりそうになっても負けない気がする。
 
 
 
 
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2020-05-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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