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「まだ見ぬ自分」は飲み屋で探す


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:竹下 優(ライティング・ゼミ 平日コース)
 
 
“おきなわにいさん”って、誰だこれ…。
久しぶりに電話帳を整理しようとスマホを開いたところ、
記憶にない、誰かの連絡先が見つかった。
 
沖縄に知人はいないし、沖縄料理屋に勤める友人もいない。
フルネームではなくて、全部ひらがなで入力してある。
ということは…連絡先を聞いた時、私は酔っていた。多分、それもひとりで。
 
そこまで推理した時、はたと記憶が蘇った。
新橋のガード下で出会った、心優しいお兄さんだ!
 
5年ほど前、私は初めての東京出張に浮き足立っていた。
なにせ東京なんて、遠い昔に家族旅行で訪れたことしかない。
会社のお金で、大都会・東京に行けるなんて!
せっかくなら、憧れていた場所に足を運びたいが、日中は仕事。
ショッピングも美術館めぐりも難しい。
 
1人で手軽に楽しめる、東京っぽいこと…
そうだ! サラリーマンの聖地・新橋のガード下に飲みに行こう!
 
「もつ煮」と看板の出た立ち飲み屋にふらりと入ったところ、
20代半ばの女性が1人で訪れるのはたいそう珍しかったようで
店員さんや、常連と思しきワイシャツ姿のお兄さんたちが話しかけてくれた。
 
「待ち合わせですか?」
「いえ、1人なんです。“新橋のガード下”ってやつに、一度来てみたくて」
「へぇ、珍しいですねぇ。遠くからいらしたんですか」
「福岡から出張で…」
 
詳しい会話の内容はこれ以上覚えていないが、
福岡から来たなら、東京では電車の乗り換えが難しかろうと
終電間際に駅まで同行してくれたうえに、
「何かあったら電話しておいで!」と電話番号を書いたメモを渡してくれた気丈なお兄さんがいた。
 
酔いの回った頭で、「お礼のメールを入れなくては…」と電話番号を登録し
翌日、「どうもありがとうございました」とショートメールを送ったっけか。
 
そういう“一期一会”も含めて、私は1人で見知らぬ飲み屋に入るのが好きだ。
クラブでも、バーでもない、“飲み屋”というのがポイント。
「あー疲れた。とりあえずビールね!」というセリフが聞こえてきそうな、
庶民的で、日常の延長にある、そんな店。
 
そこでは、“まだ見ぬ本当の自分”に、出会うことがあるから。
 
テレビの野球中継に一喜一憂する先客の声を聞きながら、お酒を注文する。
「食べ物はどうしましょう?」
私の答えはいつも「オススメは何ですか?」なのだけれど、
さすがに初めて入った店で、この一言だけでは相手も困るはず。
お腹の空き具合や、脂っこい物がよい、サッパリしたいなど
ちょっとした希望を申し添えるようにする。
 
そうやって言葉のキャッチボールをしていると、
店主や常連客が、次第に“酒と肴”以外の球を投げてくれるようになる。
「いやぁ、いかにも“1人酒が好きです”って顔してるねぇ!」と言われる日もあれば
「こんな所に1人で入ってくるような度胸があるようには見えないよ」と笑われる日もある。
初対面の人にはそんな風に見られているんだ…! と、ここで新たな発見に恵まれることもある。
ごくたまに、イラっとする時もあるけれど、そこはサクっと杯を空けて、店を出れば良いだけ。
「どうせ二度と会うことは無いんだから」 そう思えば、心持ちも楽なもんだ。
 
この“気安さ”が、酒に酔った身体や心と相まって
いつの間にか、初対面の誰かさんに本音を漏らしている、ということも、しばしばある。
「家も無い、仕事も無いようなオトコに惚れてしまって、そういえば貸した2万円がかえってこない」
「いまの仕事は好きだけど、このままじゃ、“ココでしか生きていけない”大人になってしまうかもと不安」
なんとなく職場の同僚や友人には話せなかったことを
気がつけば店中に響くような大声で口にしていたことも、一度や二度ではない。
 
へぇ、私ってこんなこと思っていたんだな…。
知らぬ間に口走っていた言葉に、自分が一番驚いていることも。
まるで、鏡の前に立っているように、丸裸の自分に出会える。
 
「姉ちゃん、とことん行きな。苦労しても惚れ抜いてみたいって顔に書いてあるよ」
「その不安は、一生抱えていなさい。選択肢を増やすために色んな挑戦をするのが向いているから」
 
そう、全裸で立っているのは鏡の前ではなく、人前だった。
だからこそ、“自分では見えなかった自分”を教えられるのだ。
「背中にたくさんホクロがあるわよ」とか、
「お尻の大きさが左右で違うのね」とか、
普段、自分では見ることのできなかった特徴を指摘される。
 
もしも家族や友人に指摘されていたら
「そんなこと無いもん!」 と、腹を立てたかもしれない。
けれど、“きょう初めて会った、たぶん二度と会わない人”が相手だと、
案外すんなり受け入れらるから、面白い。
 
さらに、ごく稀にだけれど、
お互いが同じような気持ちで本音を曝け出しあった結果
たったひと晩で、まるで古くからの友人のような、深い絆が生まれることもある。
初めて会ったお姉さんを、1週間家に泊めたこともあったし
ゲストハウスで飲み明かした女性とは、今も連絡を取り合っている。
 
そんな、 “自分探しの旅”とも言える1人酒だけれど
年明けからこの方、涙をのんで“自粛”してきた。
 
しかし、この苦行もどうやら出口が近いらしい。
私はこの“自粛期間”に一体どんな変化を遂げたのか?
まだ見ぬ自分に出会うため、そろそろ心と肝臓の準備運動を始めなければ!
どうです?あなたも、1人酒。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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