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「負け」で入ったやる気スイッチ


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ひろり(ライティング・ゼミ 平日コース)
 
 
「シュバッ!」
 
相手の放ったスマッシュは僕の脇を抜けて一直線に地面に落ちた。
目で追えてはいるが、身体は全く反応できずにいた。
 
「21-6……  ゲームセット」
 
審判役の部員は淡々と試合の終わりを告げた。
僕は呆然とした。まさかこんなにあっけなく負けるなんて。
 
中学に入って始めた部活はバトミントン。
その日はレギュラーの試合に同行することのできる補欠を選ぶための選考試合。
 
僕は自分と同じように中学に入って初めてバトミントンを始めた同級生と試合をして、あっさりと負けた。
 
相手は「キヨシ」だった。本当の名前は「タカフミ」だったが、なぜか皆に「キヨシ」と呼ばれていた。小学校の頃から背が高く、手足は僕より圧倒的に長かった。
 
バトミントン部に入って、いきなり試合をさせて貰えるわけもなく、毎日ひたすら地味なトレーニングに明け暮れていた。
 
そんな中、大会に出るレギュラー部員のサポートのため、下級生から補欠要員が選ばれることになった。試合に出るわけではないので実力はどうでも良いのだが、形式だけ選考という形を取ったのだ。
 
そして僕はキヨシと対戦し、コテンパンに負けた。
 
正直言うと、バトミントンにはあまり興味は無かった。
部活に入った理由も、とりあえず何かの部活に入ってないと格好つかないということと、親から「あんたは痩せてるからバトミントンとか向いてるかも」と言われたことだけだった。
 
だから、入部当初から、あまり一生懸命練習してこなかった。
ランニングは先輩の見ていないところで歩いていたし、素振りも筋トレも適当にこなしていた。
 
「部活に入っている」そのステータスが得られるだけで良かった。
 
だけど、そんなナメた考え方はその日の試合で吹き飛んだ。
何とか勝つだろう位に思っていたキヨシとの勝負でコテンパンに負かされた。
 
オマケに試合後、僕を負かしたキヨシは明らかに僕を格下に扱った。
直接は言わないものの、僕を馬鹿にしたような目や態度が全てを物語っていた。
「お前に負けるとかあり得ないし」そう言っている様に感じた。
 
これが僕の気持ちに火をつけた。
 
親に言われてとりあえず始めたバトミントン。
正直勝ち負けとかに全く興味は無かったが、ここまでコケにされて平気で居られる程無神経ではない。
 
悔しい。とにかく悔しい。
その日は寝付くのに大分時間がかかった。
寝入るまで、どうしたら勝てるのか、真剣に考えた。
 
でも、結局良いアイデアは浮かばなかったので、とりあえず「部活を真面目に頑張ってみる」事にした。
 
「真面目に練習していないから、上手くならないんだ。じゃあ、真面目にやろう」単純だけど、これしか思い浮かばなかった。
 
ランニングは歩くのを止めてちゃんと走るようにし、素振り、筋トレと言った地味な練習も文句を言わず従った。
 
特に意識して取り組んだのは、経験者の動きを見ること。
部活には小学校からバトミントンを始めていて、基本的な技術を身に付けている奴が何人かいた。
 
そいつ等の練習を観察し、どういう風に動けば良いかを盗むようにした。
 
キヨシの長い腕から繰り出される速いスマッシュにどうしたら反応できるのか、
とにかく目を慣らさないといけないのか、分からないなりにひたすら練習した。
 
キヨシはといえば、他の部活の友達の事が気になるのか、メンバーに選ばれて安心したのかあまり部活に顔を出さなくなった。
 
それから2ヶ月後、また新たな大会に出場するためのメンバー選考があった。
 
試合に出られるレギュラーメンバーは上級生でほぼ決まり。
今回も同行する補欠メンバーの選考が行われた。
 
小学校からの経験者組は無条件で選ばれ、残りの枠は一つ。
またしても僕とキヨシのどちらかで選ばれることになった。
 
キヨシは勝ちを確信しているのか、余裕の表情を見せていた。
これまでと同じ様に「こいつに負けるとかまず無い」という表情を見せていた。
 
僕はと言えば、正直緊張していた。
勝てるかな、でも、勝つために練習したぞ。でも、大丈夫かな…… と
二人の自分が頭の中で言い争っていた。そんな複雑な気持ちでいた。
 
前回はキヨシの繰り出すスマッシュに全く手を出せなかった。
目では追えているのに身体がついて行かなかった。
 
試合が始まり、何回かのラリーの後、キヨシがスマッシュを打ってきた。
前と同じように、「シュバッ!」と黒板に白いチョークで勢いよく線を描く様に、シャトルが僕に向かってきた。
 
前の試合の時にはここで身動き取れなかった。
目では追えていたんだ。でも身体が付いて行かなかった……!
 
でも、次の瞬間僕の身体は目でシャトルを追うのとほぼ同時に反応し、
キヨシのスマッシュを跳ね返した。
 
やった……!
 
一瞬そう思ったが、次から次に返されるシャトルに気を取られ、余裕は全くなかった。
 
でも、明らかに前回とは違う。キヨシのスマッシュが見える!
これまでの練習のおかげで、スマッシュのスピードに目が慣れただけでなく、
スマッシュを打つまでのモーションから「どこに打ってくるのか」が
何となく解ってきていた。
 
なので、キヨシのスマッシュがどんなに速くても、打ってくる場所が解れば対処はそれほど難しくなかった。
 
僕にはキヨシの打ってくるシャトルの軌跡が全部見えているような気がしていた。それと同時に、「何でこんな相手に前回負けたんだろう?」という気持ちも少し湧いていた。
 
キヨシのスマッシュをことごとく打ち返し、21-6で僕が勝利した。
 
前回と立場は逆で、今度はキヨシが呆然としていた。
「なんでこんな奴に俺は負けたんだ?」そんな目をしていた。
 
僕は何も言わなかった。
その代わりに「悔しかったらかかってこい!」という顔をしたけど、
ちゃんとキヨシに届いたかはその時は解らなかった。
 
結局、キヨシはその後すぐバドミントン部を辞めてしまい、
友達の居る別の部活に入ってしまった。リベンジされるかと思いきや負け逃げされてしまった。
 
僕は、このことをきっかけにして思った。
「面白くないことであったとしても、頑張って続けていれば成果は出る」ということを。
 
自分の意志で始めた訳でないバトミントンで、まさかここまで自分が熱くなるとは思っていなかった。
負けて悔しかったというのもあるが、ちょっとしたきっかけで、
継続するモチベーションは生まれるものなんだ、ということを学んだ。
 
バトミントン部はその後も色々あったけど、なんとか卒業までの三年間を全うした。
 
対外試合では良い成績を残すことは出来なかったけど、あの時頑張って居なければ、僕もキヨシと同じ様にすぐに部活を辞めていただろう。
 
好きでないものを頑張るのはもの凄いエネルギーが必要になる。
でも、ちょっとしたきっかけでやる気スイッチがいきなりオンになる事もある。
それが実は面白いのかもしれない。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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