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歳を取るってそんなに悪いことかしら


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記事:きさらぎ満月(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「若造、おばさんを愚弄するつもりか」
それはSNS上の投稿だった。見知らぬ若者が、25歳の誕生日を迎えたことを報告していた。そして、四捨五入しないでほしい、と訴えていた。
なんだろう、歳を取るのがそんなに怖いのだろうか。
 
かくいう私は49歳、いわゆるアラフィフだが、歳を取ることをあまり恐れていない。昔から、かっこいいおばあさんに憧れていたからだ。
子供の頃の憧れは、テレビ時代劇の必殺シリーズで、山田五十鈴が演じていた「元締め」だった。
必殺シリーズは、闇の殺し屋集団を描いたハードボイルド時代劇だ。殺し屋といっても、悪人しか殺さない正義の味方。元締めはそのリーダーである。
色々な役者が出演しているが、山田五十鈴の元締めは、芸者上がりの三味線弾きのおばあさんで、三味線のネックには刀が仕込んであった。
歳を取っても色っぽくて、しかも殺し屋集団のリーダー。かっこいいでしょう?
 
とはいえ、あの投稿を見てから、年齢のことが頭を離れない。歳を取るのがそんなに嫌なものなのか、と気になってきた。
職場の後輩男子43歳に聞いてみた。
「最近、大型バイクの免許を取ったんですよ。でも、もっと早く始めておけばよかった」
今は子育て中なので、バイクを買う余裕がない。しかし、大型バイクを乗りこなすには、体力が必要だ。50歳くらいで子育てが一段落した頃に買っても、楽しめるのはほんの数年だろう。
なるほど、肉体の老化問題か。
 
私自身の趣味はオシャレをすることだ。老眼でアイラインが引きにくくなったりするが、老化でオシャレができなくなるものではない。
しかし、白髪交じりの髪に、シワが目立ってきたお肌。どんなに若作りしても、立派な中年であることは隠せない。老化した肉体に、オシャレはどこまで似合うのだろう。
去年の冬、ドクターマーチンの8ホールブーツを買った。70年代イギリスのパンクロックのイメージがある、ゴツめのブーツだ。若い頃持っていたが、どうしてもまた履きたくなった。
暖かくなってからは履いていないが、寒いうちはお世話になった。だが、果たして似合っていたのか。
50歳過ぎで大型バイクに乗るのが難しいように、アラフィフの私が、パンク風味のドクターマーチンを履きこなすのは難しいのではなかろうか? もしかしたら、痛いおばさんになってたのかも。
 
そんなことを考えながら、美容院に行った。
15年来の付き合いである美容師の美枝さんは、40代前半。最近のコロナ騒ぎでしばらく休業していたが、万全の態勢を取って再開した。再開のお知らせをメールしてきた際、早く仕事がしたい! と腕がうなっている様子だった。美枝さんに全幅の信頼を寄せている私は、今回もお任せでお願いした。
 
美容院では、美容師さんが髪をいじっている間、いろんないしゃべりをするものだ。私も美枝さんに悩みを相談したことがあるし、美枝さんからも相談されたことがある。
今回は、加齢について聞いてみた。
 
「私、歳を取るのがあんまり嫌じゃないんだよね。そもそも、若い頃の自分って、バカだったじゃない?」
「わかります。若い頃は美容師としても、全然知識がなかった。今のほうがずっと経験値が溜まってます。20代には戻りたくない。今の自分が一番いいです」
経験値か。確かに自分の経験値は、若い頃に比べて明らかに上がっている。去年の私と比べてさえ、今年の私のほうがずっと賢い。
 
美枝さんは、髪を部分的に明るくするハイライトカラーを入れることを提案してきた。
私は白髪染めをしない、いわゆる「グレイヘア」だ。白髪染めは、伸びかけの染まっていない部分が気になってしまうので敬遠している。白髪の何が悪い、という気分もある。
美枝さんはグレイヘアを生かすためのハイライトを入れたい、という。ハイライトなら、こまめなメンテナンスは必要なかろう。お願いすることにした。
 
美容師の顧客は、美容師と同年代が多い。美枝さんも、同年代の女性をターゲットにしている。そんな40代の顧客たちの中で、最近グレイヘアを選ぶ人が増えてきている、と、薬剤を塗りながら美枝さんは言った。
「グレイヘアに似合うスタイルを考えるのが、楽しくて仕方がないんですよ。今日も、きさらぎさんにどういうスタイルが合うか、ずっと考えてきたんです」
グレイヘア攻略も、経験値を上げる手段として楽しんでいる。
 
そうか。加齢を、だんだん難易度が高くなるゲームだと思えばいいのだ。
 
経験値が上がっている中年の私たちには、簡単なゲームなどつまらない。大型バイクに立ち向かえる体力を備えたり、白髪をオシャレに見せる工夫をしたり、難しいからこそ攻略しがいがあるってもんだ。
そもそも山田五十鈴の元締めも、仕込み三味線で戦うのがおばあさんだったから、かっこよかったのだ。あれがピチピチのオネエチャンだったら、ありきたりのキャラクターだったに違いない。そして、山田五十鈴の演技力と存在感があったから、仕込み三味線がバッチリはまったのだ。
50歳の私がドクターマーチンを履くから、かっこいい。いや、かっこよく履きこなせるおばさんに、私がなればいいのだ。
 
仕上がったハイライトカラーは、さりげないながらもグレイヘアを引き立てていて、気に入った。
「私、かっこいいおばあさんになりたいんだ」
帰り際に、美枝さんに言ってみた。
「きさらぎさんならなれますよ」
とってもいい気分で、家に帰った。若造にはわからないかもしれないが、歳を取るのも悪くない。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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