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メディアグランプリ

一歩踏み出す勇気があれば


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:田口純美(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「おかあさーん、海、気持ちいいよー、早くおいでよー」
 
非常事態宣言が解除されて迎えた日曜日。風はなく、太陽の光がふりそそぎ、これ以上ないほどの初夏の海日和。テントを積んで車を走らせること20分で浜辺に到着。海を見るや子供たちは、波打ち際へ走りだした。テントを組み立てて日陰を確保した頃には、子供たちの洋服はすでにずぶぬれだ。笑顔がこぼれる。げらげら笑っている。私が見たかった景色が目の前にある。
 
我が家は今年一月、福岡の田舎のほうに東京から引っ越してきた。移住したのだ。
 
東京を窮屈に感じるようになってきたのは、いつからだろうか。社会人になった頃から? 新卒で就職して近代的なかっこいいオフィスで働いたが、かっこよさは次第に息苦しさに代わっていった。子供が生まれてからはもっとはっきりしている。子供を東京で育ててよいのだろうか?
 
私は東京生まれの東京育ちだが、私が幼い頃の東京には、今と違って環境に余裕があったものだ。子供時代の私の家のまわりは、畑もあり、庭の広い家もたくさんあった。ドラえもんに出てくるような土管の置いてある空き地だってあった。借家だった我が家にも庭があり、庭木の落ち葉で焚火をして焼き芋をした記憶もある。夜は星だって見えた。(場所は、住みたい街ランキングイン常連の吉祥寺である。吉祥寺周辺ですら30年前はこんな様子だったのだ)
しかし今は違う。広い家が取り壊されると、その敷地を3つ4つに分けて、庭のほとんどない三階建ての家が所狭しと建築される。マンションの高層化は言うまでもない。少し郊外へ足を延ばしても住宅街が広がってしまった。空も狭く感じるようになった。
 
それではと、自然求めて海や山へ行こうにも、東京の都心からでは時間がかかる。子供を連れて野山へ行こうと計画すると、車の渋滞も電車での行き帰りも、考えるだけで腰が引ける。子供に自然体験させると発達に良い影響があるとは聞くが、朝早くから夜遅くまで仕事して、休日も疲れた身体に鞭打って遊びに行くのでは、疲れをとる暇もなく疲弊するばかりだ。
 
なんか違う。何かが違う。
土や木や海の匂いがしない土地で大きくなっていいのだろうか。
野菜や果物が育つ畑を日々見ることなく育って大丈夫だろうか。
親が疲れた顔ばかり見せていたら、大人になりたくないと思うのではないだろうか。
人生は楽しいことがたくさんあると、私の姿は子供に語りかけているだろうか。
 
そんな時、録画していた番組がおもしろいから一緒に見ようと夫が誘ってくれた。いろいろな分野で活躍する経営者を招いた有名なトークビジネスショーだ。その回は、一般住宅用のログハウスを販売する会社だった。一般の木造住宅の何倍もの木材を使用し、家のリビングと外のデッキとがつながる空間を持つ。薪ストーブも備えている。展示場は、公園のようでもあり、空間を好きに体験できる。営業マンがつきっきりということもない。その家に住んでいる人たちの楽しそうな様子がテレビから熱気ごと伝わってくるようだ。なのに「家は暮らしを楽しむ道具」とその会社は言っている。
 
すっかり感心して、私たちも翌月の週末には、その展示場に足を運んでいた。子供たちは思いっきり走り回り、モデルハウスのバルコニーにぶらさがるブランコを楽しんでいた。
 
ふらりと展示場に遊びに来てその魅力にはまり、このログハウスを建てる人がいるということも納得してしまう。木の香りがさわやかだ。デッキでバーベキューしたい。家の中の音の響きがやわらかい。光が優しい。薪ストーブは家全体がふんわりと温かくなるという。
 
こんな家で暮らしてみたい、と素直に感じた。人工物にはないあたたかさややわらかさに安らぎを感じる。自然の中にいるような気分だ。
リビング続きのデッキで、休日の昼間からビール開けるのもいいな。
ピアノを弾いたり、薪ストーブの炎を見つめながらお茶を飲みたいな。
でも、経済的に東京ではちょっと難しいな………
 
それから1年後。私たちは今、福岡の田舎に暮らしている。
まだログハウスには住んでいないが、車でたった20分走れば海に行ける場所だ。山も近い。海の幸も肉も野菜も地産地消で美味しい。東京とは比較できないくらい土地も安い。
憧れのログハウスに住むことにも近づいている。
 
つぶそう。自分の中の違和感に徹底的に向き合い、解消しよう。
そして自分のやりたいことを全力で追いかけよう。
かっこいいオフィスで働きもしたし、子育てと仕事の両立も目指してみた。どれも小さな違和感を私の中に残した。自分の理想を追いかけ経験したからこそ、自分の望む生き方と異なることに気づき、小さな違和感を感じることができたのだ。そして、その小さな違和感に目を背けたり、仕方ないと諦めて生きていくこともできるかもしれないけれど、それではたぶん後悔する。海で見た子供の笑顔は、私が見たかった景色そのものだ。違和感はない。私が望む暮らしに一歩近づいたから見えた景色。
 
件のログハウス会社の社長の座右の銘がすてきだった。
「不憂不惑不懼」
くよくよと心配せず、迷うのではなく惑わず、恐れずに勇気を出す。
自分に素直に生きるためには、強い意志が必要なのだ。違和感に向き合い、やりたいことをやろう、強い意志を持って。そうすれば、私の見たい景色が見える気がしている。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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