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メディアグランプリ

即戦力にはなれなかった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:なかむらしょうこ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「絵は触ったことはありません」
これがわたしの答えだった。
本当に絵を触ったことがなかった。
悔しかった。
 
小さい頃から、絵を見ることが好きだった。美術が大好きだった。
両親はよく美術館に連れて行ってくれた。
しんと静かな空間に身を置いて、美術作品を見ている自分は、なんだか大人になった気分だった。
子どもにとって、絵のかかっている位置は少し高くて、背伸びして見ていたっけ。そう、心も体もちょっぴり背伸びしていたのだ。
 
見るだけではなくて、作ることも好きだった。絵を描いている時間、工作をしている時間がどんなに楽しかったか。
クレヨンを握りしめ、時には絵の具を使い、スケッチブックはどんどん得体の知れないカラフルなものたちによって彩られていく。
捨てられそうな牛乳パックをみては、「捨てちゃダメ!」と破棄されることを阻止し、なんの役にも立たないような、どうやって遊ぶのかもよくわからない代物を作って、喜んでいた。
ハロウィンになれば、ゴミ袋で衣装を作り、はしゃいだ。そんなわたしにとってのスターはわくわくさんとゴロリだった。
テレビ越しに一緒に何かを作る時間は、それは、もう至福の時だ。わくわくさんの手にかかれば、そう、牛乳パックですらおもちゃに大変身だ。ミラクルである。
 
美術館に連れて行ってもらい、家ではわくわくさんとゴロリと工作をして、もしかしたら、ゴロリより工作がうまくなったのではないかという錯覚も抱きながら、順調に美術に関する知識を蓄え、好奇心を膨らましていき、将来の夢ができた。
「ピカソになりたい」
絵本や美術館で見たピカソの絵に心惹かれたということと、漠然と抱いていた「画家になりたい」という夢をもう少し欲張って、どうせなるならピカソくらい大物になりたいと思うようになったのだ。子どもって、怖いもの知らずですね。
 
そのあと、ピカソにはなれないことを悟って、ピカソになる夢はいつしか、学芸員になる! に変わっていった。美術作品を生み出す人ではなく、それを研究、保存、そして伝える人になりたいと考えるようになったのだ。
 
大学では哲学を専攻した。美術のことを研究し、伝える人になるのであれば、まずは美術を深く理解できる人になりたいと思い、哲学の道を選んだ。
その傍らで学芸員資格を取るために必要な授業をとっていた。さらに、単位にはならないけれど、美術科の授業に潜り込み、美術史を学んだり、学外で美術館でのボランティアや、芸術祭のサポートなど、常に美術と触れあう日々を送った。
 
学芸員資格を取るには、最後に館務実習に行く必要がある。実際に、美術館や博物館に行って、学芸員の仕事を実践するのだ。実習先の館は、自分で決める。わたしは地方の大学に通っていたから、そもそも美術館の数がとても少ない。各館、実習生の受け入れには定員決まっている。学芸員資格取得を希望していた学生は少なくなかった。
すると、何が起こるかというと……席数不足! 定員オーバーだ。
 
「哲学科の学生か。君、絵を触ったことあるの?」
担当の先生に、こう尋ねられた。
 
その時の答えが
「絵は触ったことはありません」
だった。絵を見るのは好きだけれど、触ったことはなかった。
 
「いくら実習生でもね、美術館も大変だから、即戦力が必要なんだよ」
この一言で、わたしの館務実習への道は閉ざされた。定員が空いている館にいくという手もあったが、美術と深く付き合いたいと選んだ哲学の道が足を引っ張った。
自分で信じて選んだ道だったからショックは大きかった。今思うと、大人気なかったと思うけれど、自分から実習に行くことを辞退して、席を譲った。
 
時が経つのは早いもので、それから10年がたった今、わたしは美術に関する仕事をしている。展覧会のプロモーションになるトークイベントを仕掛けたり、ブックフェアを企画したり、展覧会の紹介記事を書いたり……。ピカソでも学芸員でもないけれど、大好きと思える美術に寄り添うことができている。憧れだった学芸員の方たちと仕事をし、時にピカソについても語り合える。
 
大学卒業後、とある書店で働きはじめた。事務職で入ったのだが、先輩方がトークイベントの企画をしているのが楽しそうで、わたしもトークイベントの企画がしたい! と思い、上司に企画書を提出しまくった。もちろん、美術に関する企画ばかりだ。はじめは、美術のイベントにお金なんか出す人はいないと取り合ってすらもらえなかったが、美術が好きな気持ちと負けず嫌いな性格が相まって、めげずに企画書を作っては見せ、ボツにされ、また作ってボツにされを繰り返し、ようやくGOをもらうところまでこぎつくことができた。ギャラリストと現代アーティストのトークイベント。はじめての企画には、100名ほどのお客様に参加いただくことができ、楽しかったという言葉をたくさんいただくことができた。好きの気持ちが仕事に昇華した瞬間だった。自分の企画に貴重なお金と時間を払ってきてくれるお客様がいる。幸せと責任を感じた。
それから、これまでに300本以上のトークイベントを作り、美術の魅力を発信してきた。まだまだこれからだ! と思っているけれど、今の仕事を天職だと思えるようになった。
 
夢は常に形を変える。
ひょんなことから天職と思える仕事に出会えるかもしれない。
いや、これが天職だと気づくことができる日が来るかもしれない。
 
悔しかったあの日も、今では愛おしい。
あの時、即戦力になれなくてよかった。
 
 
 
 
***

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2020-05-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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