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私に恋人が出来ないたった一つの理由 


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:竹村りゑ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「結局、モテるのって『あなたの言う事なら何でも聞きます〜』みたいな女なんだよね!」
「でもそれって自分に自信のない男だけじゃないですか? 本当にいい男は、ちゃんと中身のある女じゃないと相手にしないっていうか〜……」
 
これは多分、人類史上1,000億回は繰り返されてきたやり取り。そして、行きつけのネイルサロンの担当さん(30代後半)と、私(30代前半)の間で常日頃交わされる会話でもある。多分私達、今まで100回くらいこの話してる。
 
「そう! 私達みたいに自分の世界がある女は、手強そうに見えて中々男が寄り付かないんだよね〜」
「うちの会社に、めちゃくちゃ仕事できるスーパーイケメンがいるんですが、モテるのにずっと彼女作らなかったんです。でも、最近ようやく彼女が出来まして」
「ほうほう」
「その決め手が『作ってくれた筑前煮のコンニャクが、一つ一つ切り込み入れて結んであったから』なんです!」
「はあああああ〜?! 筑前煮にコンニャクって……家庭的アピール凄すぎて逆にあざとすぎない?」
ネイリストさんは腹立たしそうに吐き捨てながら、人差し指に丁寧にジェルコートを乗せていく。瞬く間に、ちゅるんとピカピカになる私の爪。何年も同じ人を指名しているのは、竹を割ったような性格と物言いが気に入っているから……というよりも、この神経質なまでに丁寧な仕事ぶりを信用しているからだ。
「私も、それ聞いてがっかりしました。お前もそういうタイプに行くのか、って」
束の間、私達の間にしょんぼりした空気が流れる。「本当にいい男は、自立した女に惹かれる(はずだ)」という仮説の信用度が揺らぎ、語気荒くお互いを励ましあってきた興奮が、しゅるしゅると萎んでいくのが分かる。
「私もコンニャク結ぼうかな……」
ぽつんと呟いた彼女の一言に、私も力なく同意した。
「その前に、筑前煮作る関係までいける相手を見つけないとですけどね……」
はあ、とため息の声が揃う。その後はやけに事務的にお会計を済ませて、ではまた、と店を後にした。
 
事態は深刻である。
恋人が出来ない悩みを抱えている人口は、おそらく河原に咲くタンポポの数よりも多い。答えを求めて、一度Googleを開けば「あなたに恋人が出来ない10の理由」「一目惚れされる人は○○が違う! たった一つの行動で理想の彼氏が!」「彼氏が途切れない人の休日の過ごし方」みたいな記事が怒涛の勢いで押し寄せてくる。ちなみに私はめちゃくちゃ忙しい会社員だが、寝る間や余暇の時間を削ってストイックにこれらの記事を読み続けている。(事態は深刻だからだ)
 
分析するに、これらの恋愛コラムにて推奨される女性像は以下に大別できる。
 
① ゆるふわ癒やし系女子♪
② 無邪気な天然っぷりで愛され女子☆
③ 彼を誘惑!? 魅惑の小悪魔系!
 
マジである。
ありとあらゆる恋愛コラムが指し示す「選ばれる女性像」は、マジでこの3パターンに分類できる。試しに何か手頃なものを読んでみてほしい。私の言っていることが納得できるはずだ。
 
さらに言うならば、上記①〜③には共通した但し書きがある。
「現代の草食系男子は依存されると負担になっちゃう! 『自立した女性でいる』ことを忘れないで!」
 
さあ、ここで問題である。
 
大前提:「自立した女性」はモテる
 
小前提:男性は「ゆるふわ」「天然」「小悪魔」いづれかの女性が好きである
 
結論:「自立した女性」は「ゆるふわ」「天然」「小悪魔」いづれかである(!?)
 
ここでシミュレーションだ。
例えばここが、納期間近で殺気立つ職場だとしよう。
「ゆるふわ又は天然又は小悪魔」な同僚は困る。おそらく戦力外だ。
みんなが困っている時に人に頼ってもらえない女性は、果たして自立していると言えるのだろうか?
 
こうして「自立」と「モテ」について錯綜的思考に陥る私だが、実は最近、思わぬところで風穴が空いたのだった。
 
月に一度のネイルサロン、受付を済ませるもいつもの担当さんが出てこない。
代わりにやってきたのは、傷み過ぎてバサバサの金髪にブルーのカラコン、上まぶたに猛烈に茂るまつげは、恐らく付けまつ毛2〜3枚重ねであろうという、ギャルギャルしい女性だった。
「ご指名いただいた者が先ほど体調不良で早退しまして、代わりに私が担当させて頂きたいのですがよろしいでしょうか?」
見た目に反して口調は柔らかく丁寧で、ギャルのイメージが固定化していた私は少々意外に感じつつ、彼女にお願いすることにした。
 
それにしても、このギャル風店員、てきぱきと手が早い。無駄な手順が一切なく、かつ仕上がりは美しい。この人上手だな、と感心していると、気を遣ったのかあれこれと話しかけてきた。雑談を交わしていると、やはり行き着く先は恋愛の話。
「お客様は、彼氏さんとかいらっしゃるんですか?」
「いえ、ここ数年ご無沙汰なんですよ。中々出会いもなくて……」
そう、意外ですね、と微笑む顔にも何となく好感が持てて、少しこの人に関心が湧いてきた。
「お付き合いされてる方は、いるんですか?」
「最近出来たばっかりなんですよ。10歳下でホストやってるんですけど」
10歳下の! ホスト!!
流石ギャル、流石である。推定年齢は30代前半と見たが、その年齢で選ぶ相手としては中々にデンジャラスなものを感じる。
こちらの衝撃を知ってか知らずか、淡々とギャルは言葉を続ける。
「周りの友達とかは、絶対やめとけって言うんですよ。遊ばれてるんだとか、そんなんじゃ婚期逃すとか」
「うーん、そうなんですね?」
精一杯の当たり障りのない相槌を探す私。なぜか緊張が走る。
「でも、別に彼と結婚したいわけじゃないからいいんです。私は他に結婚したい相手がいるので」
「えっ? そうなんですか?」
どうなっているんだギャル! どういうことだギャル!!
「はい。私は、自分と結婚したいんです。こんな人と結婚したいな〜って自分が思えるような人に自分がなれたら、その時に初めて、結婚相手を選ぼうと思います」
 
今度こそ、相槌が打てなかった。
恥ずかしながら、感動してしまったのである。「私は自分と結婚したい」という、その言葉に。
 
「本当にいい男は、いい女を選ぶ」なんて息巻いていたけれど、本当は「いい男」がどんな男かなんて分かっていない。「いい女」だって曖昧で、でも、他人を扱き下ろして自尊心を守ろうとするような女のことでは絶対ない。プライベートの時間を恋愛コラムのネットサーフィンで浪費する女のことでも、「彼氏が10歳下のホスト」と聞いただけで、勝手に同情する女のことでもない。
 
私が結婚したい女性は、優しい人だ。
自分の長所も欠点も良く理解して、柔らかく自己肯定している人だ。
相手の立場になって物を考えることができる人だ。
自分の物差しで相手を否定しない人だ。
 
そんな女性に、連絡先を聞きたい。
そんな女性を、食事に誘いたい。
そんな女性に愛を告白して、そんな女性と人生を歩みたい。
 
施術はいつもより30分以上早く終わった。一切のムラがなく完璧なグラデーション。やはりこの店員、上手い。
お礼を言って店を出る直前、彼女の足元に目が吸い寄せられた。
 
今どきどこで買ったんだ、その20センチはあろうかという厚底ブーツは。
 
流石ギャル。
 
ぴかぴかになった爪を眺める。どこか励まされたような気持ちになる。
さあ、今日から、自分への婚活だ。
 
 
 
 
***

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2020-05-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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