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その脂肪は、あなたが生きてきた年輪です

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大森瑞希(ライティングゼミ・平日コース)
 
 
「大森さんって、外見に気を使わないタイプだよね」
高校二年生の時、クラスメートの男子からそう言われた。
「あは、そんな風に見える?」
自分は今、上手く笑えているだろうか。
「あんまり女ぽくないっていうか。体格も俺らより良いもんね」
体格がいい。
その言い方は、女子として認識されていないんだろうな。
別に好きな人ではなかったけれど、男子から言われるとひどく堪えた。
今思えば、そんなことをレディに対して言うなんて失礼な、と言いたくなるが、何の臆面もなく言ってきた彼の様子を思い出すと、悪気はなかったのだと思う。
その時は、笑ってごまかしたけれど、その日の夜は眠る前に少しだけ泣いた。
やっぱり私は不細工なんだ。
 
いつからか、外見コンプレックスがあった。
ニキビだらけの脂性肌と、ガサガサに乾燥しきった唇と髪を持つ、一重瞼の眼鏡女子。
そして何より嫌だったのが、普通の男子より私の体が大きいことだった。
身長170㎝、体重68㎏。
中学生の頃からずっと武道をしてきたこともあって、足は極太の筋肉質で、肩幅が大きい。
稽古が厳しかったせいもあってか、毎日ものすごい量のご飯を食べていた。
運動していたので、脂肪が極端に多いわけではなかったが、私の歩く足音はいつも、のしのしとしていた。「大柄だね」と他人から言われ、つくづく自分の体が嫌いだった。
学園ロマンスの主役は、いつだって華奢な女の子だ。
友人には彼氏ができたり、大人の階段を昇り始めた子もいるのに、私はこんな見た目である以上、今も、これから先も、青い春を経験せずに死んでいくんだろうな、と思うと自分の容姿を呪いたくなった。
綺麗になるために努力していない訳ではなかった。
ご飯は食べるけれど、スナック菓子やデザートは控えていたし、ニキビを治すために高校生にしては高い化粧水を使っていた。
けれど、私の努力は一向に外見に表れず、相変わらず不細工のままだった。
 
大学生になり、武道を辞めてから、私はダイエットを始めた。
ダイエットと言うより、断食に近かった。
炭水化物は徹底して食べず(食べたとしても一日一食)、お腹が空いても、水と野菜しか摂らない。肉も魚も極端に減らし、もちろんお菓子の類は一切口に入れない。
そして、毎日2時間歩くことを自分に課した。
それまで食べることが大好きだったので最初は辛かったが、次第に慣れてくる。
お腹周りの肉は、3か月もすると、みるみるうちになくなり、やがてスカートは腰の上でくるくると回り始めた。
体重は20㎏減。
あんなに好きだった白米や肉を食べたいと思うことがなくなった。
もっと痩せる、もっと痩せる。
走り続けてハイになるように、空腹であればあるほどハイだった。
食べない分だけ細くなる。体重計に乗るのが楽しみで仕方ない。空腹万歳。
たまに、友人に誘われご飯に行った時も、ほとんど手を付けなかった。
目の前では友人はパスタを頬張っている。
醜いな、と思った。
私はいつからか、人が食事をしている姿を見ると、「千と千尋の神隠し」で豚になった千尋の両親を思い出すようになった。
ブクブクと肥え、それでも食べ続ける、意地汚い豚。
私は物が食べられなくなっていた。
 
食べる量を極端に減らして、変わったのは体型だけではない。
髪の毛や肌は絶えず乾燥し、それを補うために大量の化粧品やサプリメントを使わねばならず、破産しそうになった。
立ちくらむことが多く、いつも頭はぼーっとしており、体調の悪い日が続いた。
ごくたまに、肉を食べると気持ち悪くなった。
一番ひどかったのは体が極端に冷えることで、いくら暖房の効いた部屋にいようと、湯船につかろうと、もはや私の体はあたたかいと感じることが出来なくなっていた。
そして、なぜだか次第に、生きていることが辛いと感じるようになった。
決して温まらない体をさすりながら、それでも私は目の前の食事を食べることができなかった。
痩せられるのなら、早死にしてもいいかも、とさえ思った。
 
壊れた私を直してくれたのは、当時付き合っていた恋人だった。
ある日、私が自分の太ももが太くて嫌いなことをひとりごちた時、彼は言った。
「その太ももを嫌いと思ってしまったら、瑞希が剣道や空手を頑張ってきた日々を否定しているのと同じだよ」
体型は、その人がそれまで生きてきた証なのだから、と彼はつづけた。
早死にしてもいいかも、と思っていた矢先、今までの人生を肯定されたような気がした。
体格がいいのは、今まで全力で稽古に取り組んできたからだ。
コンプレックスに思っていたけれど、これが私なのだ。
それまで嫌いだった太ももが少しだけ美しく見える。
世の中にはたくさんの体型の人がいる。
産後太りを気にするお母さんだって、子供を必死に育ててきた証。
ビール腹のお父さんだって、会社で毎日懸命に働いているストレスの反動なのかもしれない。
一見すると世間の美の基準の外にいる体型の人にも、その人が今まで生きてきた証が、年輪のように体に刻まれている。懸命に生きてきた跡が残る体は、どんな体型であっても美しい。
もちろん、健康を損なうまでの暴飲暴食は良くないけれど、
自分の体を愛することは、これまでの人生を肯定することだった。
 
それから私は、少しずつ食べられるようになった。
多少太っても、この脂肪は大好きな恋人や友人と楽しく食事をし、時間を共にした証だと思えるようになった。
モデルのようになれなくても、青春が人より遠のいても、私は私の人生を否定しない。
 
私の飽くなき痩身意欲の源は、紛れもなく美しくなることへの渇望だった。
拒食症に悩む半数以上の人は、肥満体系ではなく標準体型の人だという。
美意識が高かったり、私のように外見コンプレックスがあったり、自分自身を必要以上に追い込んでしまう人が多いのかもしれない。
いきいきと美しい女性になりたかったはずなのに、生きていくために不可欠な食べる行為を拒否するのは矛盾している。
美しくなることへの代償が食べないことであるのはおかしい。
美しくなることへの代償は時間であるはずだ。
美は1日にしてならない。
食べる量を減らせばすぐに痩せられるが、付け焼刃なのは言うまでもない。
綺麗になる為には、食生活を見直し、運動をし、時間をかけて手入れをしていく必要がある。
辛抱強く自分をメンテナンスし、理想の容姿に近づけるよう努力する。これが本当の意味で外見に気を使うということだ。
きっと、あの時、クラスの男の子が「外見に気を使わなさそう」と言ったのは、私の辛抱の無さを見抜いていたのかもしれない。
 
もし、自分の体型に悩む人や、拒食症で苦しんでいる人がいたら、私はこう伝えたい。
大丈夫。あなたは十分美しい。
 
 
 
 
***

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2020-06-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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