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ヘアヌードの決意


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:kotokoto(ライティングゼミ・平日コース)
 
 
「以前は何をされてたんですか?」
 
にっこり微笑む、女の子のお母さん。
 
ドキッ
 
(どうしよう、なんて答えよう……)
私の最も聴かれたくない質問が、ついに来てしまった。
 
児童館でその日出会った、娘と同い年の子のお母さんと、和やかに楽しくおしゃべりをしていた時のことだ。
 
まさか、妊娠9ヶ月までカンボジアに住んでいて、
その前はバックパッカーで海外を放浪していました、なんて言えないし……
直近の仕事であるアロマセラピストのことも話したくない。もう辞めたし、そこに興味を持たれてもちょっと面倒だ。
 
えーと、その前は……
なんかないかなぁ。
初対面の人にも語れる、当たり障りのない経歴は……?
 
「えっと、普通に一般企業で働いてました」
 
答えに困りはてて、とうとう嘘をついてしまった。
そしてその後やってくる罪悪感……
 
あーあ、またやっちゃった……
もうあの人とは仲良くなれないかもしれない。せっかく感じの良いママだったのにな。
こんな時、普通に話せる経歴を持っていたら、本当に楽だったのに……
 
子どもを持ってから、私は自己紹介に対して、強度の拒否反応を起こしていた。
一番の理由は、自分のことを簡潔にまとめる力がないからである。
私の人生は初対面の人に語るにはちょっとだけややこしい。
 
別の理由は、その頃私の自己肯定感が低下していたからだ。
出産後、私はまじめに生きてこなかった自分を恨んでいた。
今思うと、それは産後鬱のようなものだったのかもしれない。
いつも「ちゃんとしなくちゃ」というプレッシャーを抱え、
自分のことをダメな人間だと思う気持ちが消えなかった。
 
お願いだから私のことを聞かないで。
私の過去は、知られたくないことばかりなの。
 
自分が恥ずかしくて仕方なかった。
心底「普通」が羨ましかった。
「普通」というのは、大学→就職→結婚→出産、というような、誰もがイメージしやすいストーリーのことだ。
かつて私が嫌悪し、ここまで一生懸命に逆らってきたストーリーに、私は出産後急に憧れるようになった。
 
最早私だけの問題ではないのだ。
これからは ‛娘の母親’ として、やっていかなければいけない。
 
自分が「変な人」と言われるのは構わないけど、
娘が ‘変な人の子供’ として見られるのは、耐え難かった。
 
だから、できるだけ目立ちたくなかった。
ただの「普通」のお母さんでありたかった。
 
そうして私は、ひたすら自分のことを隠し続けた。
月日が流れるに従い、産後鬱は良くなり、だんだんと「普通」のお母さんを演じることも上手くなっていった。
 
そんなある日、仕事上のお付き合いがある女優さんと話す機会があった。内容は、子育ての悩みについてだった。
その人はとても美しい人で、自然体で、誰とでも気さくにお話をする。
こちらからの質問にも、そのまま、飾らずに答えてくれる。
別れた後も、その日一日、こちらの心にずっと良い気持ちを残してくれるような、魅力的な人だった。
 
どうしてこんなに美しい人が存在するのだろう。
あの人と会うと、どうしていつも気分が良くなるのだろう?
 
私は、あの人の魅力についてよくよく考えてみた。
 
たぶん、あの人が素敵なのは、いつも自然体でいるからだ。
何も飾らず、ありのままでこちらに心を開いてくれるから、こちらも自然体でいられるのだ。
 
心を開くって、大切なんだよなぁ。
そんな当たり前のことに、あらためて気がつく。
 
昔、あの人はヘアヌード写真集を出したことがある。
その頃女優として壁にぶつかっていたから、自分がやりたくないことに挑戦してみたのだという。
既にその時から有名人だったから、世間の注目は相当なものだったし、賛否両論あったと思う。どれだけ多くの人が自分の裸を見るのか。そして、どう思われるのか。
第一、恥ずかしくはないか?
おそらく相当複雑な思いがあっただろう。それでも、あの人はその嫌なことに挑戦し、自分をさらけ出した。
その結果、今や日本でその名を知らない人はいないくらいの、一流の女優になった。数々の賞も受賞した。
 
ヌード写真は、ありのままの自分でやっていく決意表明みたいなものだったのだろうか?
大きな葛藤や困難を乗り越えた先に、真に自然体のあの人ができあがっていったのだなと思う。
 
私はどうだ?
 
自分が作った「普通」を演じて、すっかり「普通」のお母さんになった今、
私は自分に満足してるだろうか?
 
もう、本当の自分がどんなだったか、ありのままが何かも、よく分からなくなり始めていた。
 
だいたい、私は何を隠していたんだっけ?
ヌード写真に比べたら、私の過去なんて大したことのないように思える。
そんなちっぽけなことの、何を必死に守ろうとしていたのだろう。
 
あの人の歩んできた道は、明らかに、一般的ではない。
それでもいつもあの人は「普通」だった。
私と同じように、普通に子育てをし、普通に悩みもする。
 
「普通」であることは、つまらない人生を送ることとは違う
どんな経歴を持っていたって、その人にとってはそれが「普通」なのだ。
「普通」とは、つまりありのままの自分でいることだ。
 
私もあの人のように、ありのままの自分でいたい。
どうしたら、そうなれるだろう?
 
心を開けばいい。
もっと自分をさらけ出せばいい。
偽らず、自己開示をしていけばいいのではないか?
 
需要もないので私はヌード写真は出せないけれど、
その代わり、先日はじめて自分の書いた2,000字のエッセイをSNSにアップした。
そういうものを書いていることさえ、内緒にしていたのだから、
私にとってはとても勇気の要ることだった。
 
どう思われるかな?
よくこんな下手なもの載せるなぁ、とか思われるかな?
恥ずかしいな……
 
そんな怖さにぐっと打ち勝ち、思い切って載せてみた。
すると、思った以上に、読んでくれた人から好意的なコメントをたくさんもらった。
嬉しかった。
 
自分が心を開けば、きっと誰かが受け入れてくれる。
笑われてもいい。
笑ってもらって、あわよくば、ありのままの自分を好きになってもらえたら、その方が嬉しい。
偽る必要なんて、本当は最初からなかったのだ。
 
私は、母親であり、ありのままの私だ。
 
もう、これからは
自分を隠さずに生きていこう。
 
 
 
 
***

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2020-06-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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