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ピンピンコロリだなんて、嘘だ!


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:倉嶋 麻里(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「肉と魚どっちが食べたい?」と聞かれれば、
「肉!」と即答して誰よりもよく食べる。
若い頃は東京で、好きな力士と美輪明宏(彼女いわく、若い頃は超絶美形だったらしい!)の追っかけ。
おまけに旅行好きという超アクティブかつお茶目な彼女は、顔を合わせれば満面の笑顔で出迎えてくれた。
 
夏休みに顔を合わせれば、「よく帰ってきたねえ」と喜んでくれ、
大学卒業しても免許すら持っていなかった私を乗せ、タクシーの運転手も目をみはる見事な運転で、レストランに連れて行ってくれた。
 
近くのスパへ一緒に行っては、同年代の女性の井戸端会議を尻目に
「私、年寄りくさいのはどうも苦手なのよね」
 
なんてつぶやいたのには、思わず笑ってしまった。
 
よく笑い、よく動き、それ以上に喋る彼女。
 
そんな彼女、父方のおばあちゃんが、去年11月末、突然いなくなってしまった。
 
満85歳。世間ではもういい年と言われるかもしれないが、
彼女を近くで見てきた私にとっては早すぎるといってもいいほど突然だった。
少なくとも後10年は生きていけそうなくらい元気だったし、ボケとは無縁の人だった。
 
8人兄弟の長女として生まれ戦前戦後を生き抜いた彼女は、面倒見がよくて、すこしせっかちで、どこまでもしっかりした几帳面な人だった。
 
そんな彼女が突然いなくなってしまうことは、身内の誰にも想像出来なかった。
倒れる1週間前にも、田舎の家にありがちな途方もない数の畳の張替えを
やってのけたと聞いていたし、2週間前には電話越しに元気そうな声を聞いていた。
 
10年ほど前の、予後のあまり良くない疾病を難なく克服し、
倒れた後のハイリスクな緊急手術も何とか持ちこたえるなど、
ピンチが来ては乗り越える、そんなおばあちゃんだった。
 
手術の後も、この調子なら2週間で退院ですね、ときいたものだから、私達親族もまさかこんなことになるとも思わなかったというのが正直なところ。
 
周りの誰もがあっけに取られた出来事だった。
彼女もきっと、そう思っていただろう。
天国にいることに一番ビックリしているのは、彼女だろう、と。
 
今となっては彼女の声を聞くことこそできないけれど、
ある時、廊下の本棚の端に、ノート5,6冊分にのぼる日記を見つけた。
 
それは少々ホコリを被っていたけれど、5年ほど前から病院に搬送される前日まで
一日の欠けもなく、一日一日の出来事が綴られていた。
 
その日誰と話し、何を食べ、どこに行ったのか。
まるで彼女の日々を追体験しているように感じられるほど、克明に記されていた。
 
ある日は世界の車窓からという番組で、好きな作曲家の曲が流れていた、とか。
誰々の長電話が面倒くさい、とか。
またとある日は母としてのぼやきが記されていて、思わずくすっと笑ってしまった。
 
私にとって彼女は「おばあちゃん」だったけれども、日記の中では母であり、一人の女性だった。
 
そんな調子で綴られていた日記が、ある時を境にがらりと変わった。
 
倒れるおよそ1ヶ月前。
 
私達の前では、そんな素振り一つ見せなかった彼女が、
日記の中では頻繁に衰えを訴えるようになっていた。
 
当時も、朝早くから農作業、午後から村の集まりに行き、夕方帰って夕飯の支度に家の片付けと、年齢にしてはハードスケジュールをこなしていた。
 
そんな中際立った体調の変化は見られなかったけれど、ふとした時に
「先は短いのではないか」と感じるらしかった。
 
その記述は、日を追うごとに強くなっていき、
一番最後の日、これから起こることを予見するような一文が、あった。
 
「ピンピンコロリ」という言葉がある。
 
亡くなる直前まで元気で長生きしよう、という意味だそうだ。
 
残された我々にとって、彼女がいなくなったことはまさにこの言葉の通りだったけれど、彼女にとっては、実はそうではなかったのではないか。
 
親戚に心配をかけまいとして、しんどさを隠してきたのではないか。
 
そばにいれば、その思いを汲んであげられたのではないか。
もっと頻繁に電話していれば、察知出来たかもしれないのに。
 
今思い返すと、こうすればよかったのに、と思うことが沢山ある。後悔はつきない。
 
いなくなってみて初めて分かる、話せることのありがたさ。そして、命の儚さ。
 
離れて住む祖父母をもつ皆さんに、伝えたい。
相手と話ができるって、幸せなことなんです。
顔を見に会いに行けるなんで、実は贅沢でありがたいことなんです。
私たちの時間は、みな有限です。元気にしてるかなあと思ったら、話せるうちに、どうか連絡を取ってみてください。
 
お盆に帰省したら、亡くなったおばあちゃんにこう伝えよう。
「そっちでも力士の追っかけしてるかな。ねえ知ってる? おばあちゃんの好きな朝乃山、ついに大関に昇進したんだよ」
 
 
 
 
***
 
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2020-06-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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