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鬼と仏 ~2人の祖母~


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:中川 南慧(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
私は祖母が大好きで、祖母が大嫌いだった。
 
父方の祖母キクは、明治生まれの京都人。
そのままの気質で、常に気性が激しく、気むずかしい人だった。
 
母方の祖母まさえは、大正生まれの京都人。
そのままの気質で、常に穏やかな、優しい人だった。
 
どちらも同じ京都の人なのに、生まれた時代が少し違うだけなのに、
まるで、その時代を反映するかのような、正反対の気質を持っていた。
 
キクは、孫の私たち姉弟に「おばあさま」と呼ぶよう、厳しく躾けた。
一方のまさえは、「おばあちゃんでええんよ」と、いつもニコニコしていた。
 
そんなある日、小学校から帰ってきた私が、学校であったことを母と話していた。
「お母さん、今日ね、校長先生が、あなたは大学まで行って勉強しなさいって~!!」
 
「ええ? 校長先生がそんなこと、言うてくれはったの!? お話聞かせて?」
 
母はいつも、仕事の合間に私の話を聞いてくれていた。
その日もいつものように、私は一生懸命に学校での出来事を話す。
母も楽しそうに、話に耳を傾けてくれていた。
 
「そっかぁ。ほな、がんばらなあかんねぇ。
なぁちゃんが、大きくなって大学行ったら、校長先生によく頑張りましたねって、誉めてもらえるように、せなあかんね。
お父さんもお母さんも、応援するから、やりたいだけ、勉強頑張ってみぃ?」
 
母がそんな風に、励ましてくれたことが、とても嬉しかった。
興奮気味に、ちょうど私が話し終わった頃のことだった。
 
廊下でその話を立ち聞きしていたのか、おばあさまが割り込んできて、突然私に言った。
 
「おなごの子は、はよぉに嫁にいくもんや。大学なんて、おなごの子は行かんでよろしい!!」
 
その言葉に、私は祖母が何を言っているのか、一瞬訳がわからなかった。
しかし、次に続いた言葉に、私は自分のことよりもショックを受けてしまった。
 
「あんたもや、嫁の立場で、この子に大学行けとか、余計なことを言うんやない!!」
 
祖母は、いきなり母を叱りつけたのだ。
私は学校であったことを、先生に言われたことを、ただ母に話していただけなのに……
母はそれを聞いて、ただ私を誉めて励ましてくれただけなのに!!
 
「おばあさま! 違います! お母さんは、ただ私の話を聞いてくれてただけ……」
 
パシーーーン!!!
その瞬間、私の身体は真横に飛ばされ、口の中に血の味が広がった。
祖母に頬を平手打ちされたのだ。
 
「子供は口答えせんでええ! 大学には、長男だけが行けばええんや!!
ウチには、おなごの子なんて、いらんのや! いらん子は黙っときよし!!」
 
私は父にも母にも、一度も殴られたことなどなく、大事に大事に育てられてきた。
 
「いらん子? いらん子って、なんや? 私のことなん??
なにそれ…… 何が要らんのや…… 要らんのは、私と違うやろ……
いらんのは…… いらんのはっ!!!」
 
頭の中がグルグルした。
その時、初めて私は我を見失った。
 
「……いらんのは、おばあさまや!!!」
ゆらりと立ち上がった私は、子供とは思えない気迫で叫び、祖母を睨みつける。
 
「なっ! なんやて!? 誰に向かって言うてるんや!! なんや、その目ぇは!!」
 
そういった祖母の声は、心なしか震えていた。
そしてまた、祖母が私に手を振り降ろそうとした。
 
「お義母さま! やめてください!!」
私を庇って、母が祖母に叩かれてしまったのだ!!
 
もう私は止まらなかった。 自分でも止められなくなっていた。
大泣きしながら、祖母に立ち向かっていった。
 
「お母さんを叩いた! 何にもしてへんのに、お母さんを叩いた!!
おばあさま、絶対許さへん!! おばあさまなんか、死んでしまえ!!」
 
そう大声で叫んだ時だった。
 
「なぁちゃん、そんなん言うたらあかん……仏さまが聞いてはるぇ?」
 
私を後ろから、ぎゅっと強く抱きしめた人がいた。
母方の祖母、まさえおばあちゃんだった。
 
私の両親は、お隣同士の幼なじみ。 母の実家が、隣家なのだ。
そこで私たちの騒ぎが、裏庭を通して聞こえたのだろう。
おばあちゃんは、母を実家に連れ戻した。
 
そして、今にも飛びかからんという形相で相手を睨みつけている私を、そっと後ろから、けれどもしっかりと、強く抱きしめてくれたのだった。
 
「おキクさん、ちょっと言い過ぎちがいますか。 こんな小さな子に、手ぇまで上げて……。
そんな声を荒げるような事でも、あらしまへんやろ? ちょっと冷静になっとぉくれやす」
 
不意に抱きしめられて、わんわん大泣きする私にも、おばあちゃんは声をかけてくれた。
 
「なぁちゃんは、優しい子やなぁ。 おばあちゃん、全部見てたし、ちゃんと聞いてたぇ。
あんたは、なんにもまちごぉてへんよ。
お母さんを庇ってくれて、おばあちゃん嬉しいわぁ。 おおきになぁ。
そやけどな、どんな人にも、死んでしまえなんて、絶対に言うたらあかんの。
おばあさまが、ほんまに死んでしまわはったら、なぁちゃん、もう二度と会えへんのやで?」
 
「それでもええもん……。 おばあちゃんが、いればいいもん……」
しがみついてぐずる私に、おばあちゃんは続けた。
 
「もし、おばあちゃんが死んでしもぉたら、なぁちゃん、きっといっぱい泣くやろ?
おばあさまが死んでしまわはっても、あんたは優しい子やから、絶対悲しいえ?
みぃんな、仏さまが大切に大切に見守ってくれてはる、大事な命なんえ。
なぁちゃんは賢い子やから、そんなん、おばあちゃんが言わんでも知ってるやろぅ?
悪い言葉は、言うたらあかんの。 おばあさまに、先にちゃんと謝ろうな?」
 
おばあちゃんは、いつもよりゆっくりとした言い方で、私を諭してくれた。
不思議なもので、おばあちゃんに言われると、私は何でも素直に聞くことが出来た。
 
「……おばあさま、酷いこと…… 言ってしまって…… ごめんなさい……」
渋々ながらも、涙を拭いながら、私は素直に謝った。
おばあさまも、分が悪いと思ったのだろうか。
「ふん」と、だけ言い残して、奥の間へ消えていった。
 
その夜、帰宅した父に、おばあちゃんは、夕方の出来事を話したのだろう。
そして父は、初めて強く意見したらしい。
それ以降、気づいたら私は、おばあさまに「いらない子」とは、二度と言われなくなっていた。
相変わらず、弟のことを溺愛してはいたが、私や母にきつく当たることが少なくなっていった。
 
それから数年後、おばあさまが先に鬼籍に入った。
私が中学1年の時だった。
享年78歳。 全身を癌に蝕まれ、末期の頃に、突然、伯父に引き取られてしまった。
なので、縁もゆかりもない土地で、ひとり寂しく亡くなってしまった。
 
一方のおばあちゃんは、おばあさまに遅れること、数十年。
私の花嫁姿を見送って、ほんの数年前に、100歳の天寿を全うした。
総理大臣から、紀寿のお祝いも頂いた。
そして、家族みんなの想いに包まれて、静かに亡くなった。
 
ふたりの祖母の生き様、死に様は、180度違うものだったと思う。
私にとっては、まるで鬼と仏、闇と光、それほどまでに違う存在だった。
しかし、今想うと、どちらの存在も、やはり私にとっては大きく、大切なものだった。
 
おばあさまだけでも、おばあちゃんだけでも、ダメ。
どちらかだけだったなら、どちらの存在の大きさも大切さも、きっと解らなかっただろう。
 
この歳になって、やっと、そう想うことができる。
次にあの世で、出逢えたとき、2人の祖母は私を褒めてくれるだろうか……。
褒めてもらえる死に様が出来るような、そんな生き方を私はしてゆきたい。
 
 
 
 
***
 
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2020-06-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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