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死ぬほど嫌でしかたなかったのに、本当は


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:トモコインティラミス(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
嫌よ嫌よも好きのうち。
大好きや愛の反対は、無関心。
 
昔の人は、よく言ったものである。
 
あなたには、あるだろうか。
 
「死ぬほど嫌で仕方ないはずなのに、つよく握り締めたまま離せないでいる」
そんなモノが。
 
「28くらいで結婚して、30までには子どもを生みたいなぁ」
多くの女性と同じように私も、20代のころは抱いていた、ぼんやりとした結婚願望。
 
しかし一方で、なぜか無意識のうちに、結婚から自分をどんどん遠ざける生き方をしてきた。
付き合う彼氏も側からみたら「絶対結婚に向いてないよね」という男性ばかり。
適齢期の30歳手前には、外資の超ハードワーク企業に転職をし、「お前は仕事という恋人と心中するつもりか」と周りに言われるくらいまで仕事をした。
 
とはいえ20代後半ともなれば、友人の結婚式に参列したり、出産祝いで幸せいっぱいの家に訪問する機会も多い。
そのたび、人並み程度には「結婚っていいなぁ……」「自分の家族をもつっていいなぁ……」という気持ちが芽生えるのだが、やはりすぐに挫けてしまう。
 
「私に結婚はやっぱり無理だ……」
 
じつは私は、結婚にあたり絶対に避けられない、1つの通過儀礼が死ぬほど嫌でしかたなかったのだ。
それゆえ、むくむくと湧いてくる結婚願望という芽を、自身の恐怖心で無理やり摘み取ってしまっていた。
 
私が嫌で仕方なかったそれとは……結婚前に行われる「両家顔合わせ」である。
 
もう、とにかく自分の親、とくに父親を恋人とその家族に紹介することだけは、人生でもっとも避けたかった。
 
「レンタル顔合わせ用の父」が存在していたら、相当なお金をかけてでもレンタルしていたかもしれない。
 
そのくらい、嫌でたまらなかった。
 
ファッションセンスや見た目の印象は、一緒に並ぶことを断固拒否したくなる容姿なうえ、会話も相当に偏りのある話しかしない。
まぁ他にも挙げればキリが無いのだが、相当な変わり者である。
もし私と同じクラスにいたら、間違いなく友達になっていなかった自信がある。
 
普通の人の家族に、籍を入れれば親戚となる父の存在をどう見られるかが怖くてたまらなかった。
 
しかし、そんな私もついに昨年、付き合っている彼がプロポーズをしてくれ、承諾。
人生でもっとも避けたい、ずっと遠ざけていたあの通過儀礼を、いよいよ決行することになってしまった。
 
父が顔合わせ当日、どんな格好で来るのか……不安と恐怖しかたなかったため、実家へ確認に寄った。
 
「……で、当日はどんな格好で行こうと思ってるの?」
「昔30万かけて買ったスーツがあるからそれを着ていくよ。だから安心しろ。ただ、お父さん太っちゃってズボンが入らなくなったから、自分でウェストを広げたんだ」
 
自分で、ウェストを広げた……?
嫌な予感がした。
 
「ちょっとそれ、見せて」
「おぉ、お父さん裁縫も意外といけるからな。ちょっと縫い目が見えるけど、ジャケットで隠れるから大丈夫だろ」
 
落ち着いたブラウンベージュの品のいい生地。そこまではよかった。しかし、ウェスト部分をみると、太めの黒い糸が芸術的な模様で縫われていた。
 
「お願いだから、これは勘弁して……でも、もう顔合わせまで時間がないから、私が適当な店でパンツだけ作るから。それを履いてきて」
「んー? そうかー? そんなにダメかぁ。ジャケットで見えないと思ったんだけどなぁ」
 
もう、不安しかなかった。
やはり、彼の家族に幻滅されるという、嫌な予感が的中してしまうのではないか。
最悪、結婚は考え直したいなんて展開になったら、どうしてくれよう。
 
そんなこんなで迎えた当日。
なんとか間に合わせでつくったパンツとジャケットのジャケパンスタイルで来てもらい、ファッションに関しては事なきを得た。
 
しかし、互いの挨拶が終わり歓談タイムに入るや否や、父は想像どおり変人ぶりを発揮。
娘たちの結婚祝いもさることながら、自分の趣味嗜好の会話全開で、それは心地良さそうであった。
私は恐ろしすぎて、終始笑顔を取り繕いながらも、心底震えていた。
彼の家族として来ていた義母の顔を、最後まで直視することができなかった。
 
「本当に変な父で、お祝いの日に自分の話ばかりで申し訳ありません。でも、お義母さんがあたたかく受け入れてくれて、父のつまらない話に付き合ってくださって、本当に感謝しています」
 
別れ際、そっと義母にお詫びをした。
 
すると、想像もしない返事が返って来た。
 
「何言ってるの。お父さま、とっても面白くって素敵じゃない。本当に今日の日が嬉しかったんでしょうね。あなたと息子が一緒になってくれて、私も本当にうれしくて、今日は幸せな日だわ。私ね、お父さんみたいな人、とっても大好きよ」
 
え……? 嘘でしょ。
だって、絶対に絶対に、幻滅されたと思っていたのに。
 
いやいや、お義母さんはきっと気を遣って言ってくれているにちがいない、と思い直し、おそるおそる視線を返してみた。
 
彼女の目は、決して表面的になにかを伝えている目ではなかった。
 
私たちの結婚を、心の底から喜んでいて、それはとても穏やかで、うれしそうで、あたたかな優しい目をしていた。
一瞬でも「お世辞だろう」と義母の言葉を疑った自分を、殴りたくなった。
 
「これから私たち、親戚になるのよ。あなたともお父さんとも、もっと仲良くなりたいわ。だから、お父さんのことあんまり怒っちゃダメよ。これからもずっとよろしくね」
 
そんな……まさか。
 
高校生の頃から、今日のこのシチュエーションを想像しては、「結婚は家族同士でするもの。変人の父がいる私には、やっぱり難しいよなぁ……ましてや家族同士仲良くするなんて、無理無理」と諦めて、遠ざけて来たのだ。
 
でも、そんな心配をしていたのは、私だけだった。
 
人としての器が大きく、愛情にあふれた素晴らしい義母。
そして、その母に育てられた彼。
彼を生涯のパートナーに選んだ私にとって、20年近く恐れて悩み続けたこと、そのすべてが杞憂だった。
 
死ぬほど嫌で仕方なくて、私のオンナとしての幸せな人生の足を引っ張る存在だとすら思っていた父のこと。
彼を誰よりも認めて受け入れてほしいと思っていたのは、他ならぬ私自身だったのだということに、今更になって気づいた。
 
死ぬほど嫌だけど、大切なもの。
それを、自分と一緒に丸ごと抱きしめてもらえた時。
大きな愛に包まれて、「あんなに嫌でしかたなかった」はずの想いが、どこかにすっと消えてなくなってしまったようだった。
 
これを読むあなたにとっても、
「死ぬほど嫌で仕方ないはずなのに、つよく握り締めたまま、離せないでいる」、私にとっての父のような、そんな存在がもしあるとしたら。
 
いつかどこかで、勇気を持って、その存在ごと一緒に大切な人の胸に飛び込んでみてほしい。
 
きっとそこには、自分一人では気づくことのできなかった、あなたにとって大切な何かが存在しているはずだから。
 
 
 
 
***
 
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2020-06-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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