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コダワリ君、割り勘じゃなくてもいいですか?


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:石見由起(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「僕が君を愛するように、同じ情熱で僕を愛してほしいんだ」
こう言われたら、皆さんどう感じるだろうか?
とっても愛されてるのね、なんてウットリする方もいるかもしれないが、私は違う。
 
面倒くさい。
とっても、とっても、面倒くさい。
 
愛し方にも自分と同じような方法を求めるなんて、コダワリ君に違いない。
コダワリ君は何をやるにも自分なりの方法がある。
 
鍋料理のシメの雑炊の作り方にも一家言あるだろう。
鍋にご飯を入れてから蓋をして蒸らすのは1分以内とかね。2分以上たったら蒸らしすぎでご飯が柔らかくなりすぎでしょ? なんて言うのが目に浮かぶ。
洗濯にしても柔軟剤の種類に好みがあるに違いない。ソフランじゃダメなんだよ、ダウニーじゃないとね、という風に。
 
若い頃から私の周りには、こんなコダワリ君がいた。
そして私はこんなタイプに会うのがとても辛かった。辛いというより、怖いという方が正確かもしれない。
性格が大雑把でザックと呼ばれていた私は(注:「ザックリしている」の短縮形)、面倒くさいと思っているのがバレるのも、相手の感情を傷つけるのも怖かったのだ。
 
彼らはまるで注文の多い料理店のようだ。
最高の材料を吟味して、ふさわしい調理法をえらび、最も美味しい食べ方を伝授します。
だから、貴方も私の努力を理解して、食べてくれることを期待します。
……と無言のうちに要求しているように感じる。
 
この自分スタイルへの徹底を目の前にして私はうろたえる。
私、本質的には真面目なんだけど、食通ってわけじゃない。その期待に応える自信がないの。なにせ私はザックだし。
ごめんなさい、失礼しますっ、と一目散に逃げだしたくなるのだ。
 
この自意識過剰さが、ずっと私のコンプレックスだった。
彼らが悪い訳じゃない。そもそも何かを強制されているわけでもないし。
ただ少しでも相手の期待を感じると、ゆるくコンニャクで拘束されるような居心地の悪さを感じてしまう。じわじわと恐怖が襲ってきて思考が停止するのだ。ガッカリさせたくはない、ガッカリさせた罪悪感も味わいたくない。
そして距離を取り始め、疎遠になっていく。
 
そんなアレルギーのような症状の治療をしてくれる人が現れたのは、就職をしてすぐだった。
彼は新人の私にとって初めての上司。
見た目は少し怖かったが、有能な人だった。部下のやり方に口出しはしないけれど、相談するといつも的確なアドバイスをくれた。
 
ある時、私は仕事で大失敗をした。何とか自分でカバーしようと思ったが、私の手には負えなかった。新人では責任のとれない失態を、その上司がかばってくれた。
表立って責められることもなく、私の知らないところで頭を下げてくれただろうことが想像できた。
期待外れの新人ですみません。
謝りたかった私は会社の飲み会で上司の傍に座り、ビールを注ごうとした。
 
「俺は手酌がいいんだよ」
自分のペースで飲ませてくれよ。お前も自分のペースで飲め。
そう言って彼は自分のグラスに掌でフタをした。
お酌をしたら、お酌を返す。そんな義務みたいなギヴアンドテイクで酒は飲みたくない、俺はね。
 
嫌われたのかと思って、少しショックだった。ビール瓶をもったまま戸惑っている私に、その上司は続けて言った。
失敗の事なら気にするな。部下の責任を取るのが上司の仕事なんだから。借りを作ってしまったとか、借りを返さなくちゃとか、余計なことは考えるな。
「お前は割り勘にコダワリすぎる。たまには奢ってもらえ」
ぶっきらぼうにそう言った。
 
私の中で何かがフッと緩んだような気がした。
期待されると怖くなって、すぐに逃げ出した、あのアレルギー。
あれは私のコダワリだったのか?
期待されたら応えなくてはいけない。そう思い込んでいたのは、割り勘体質のせいだったのか?
 
奢ったら、奢り返してほしい。
愛されたら、愛し返してほしい。
期待したら、期待に応えてほしい。
人間だったら誰でもそう思うものだが、そうは出来ないこともある。
お金が無くて困っている時もあるし、打ちのめされて弱っている時もある。そんな時に、いちいち割り勘にすることは無い。好意に甘えるのを覚えるのは良いことだ。
 
期待に応えなくてはというプレッシャーは、裏を返せば相手に対する期待そのものだ。私が期待したら、貴方は必ず応えてくれるのよね?
そう言って、相手にも自分にも、常に対価を支払えと言っているようなものだ。
 
そろそろ、自分を解放してやろうと思った。
全てに対価を要求しなくても良いのだ。奢ったり、奢られたりしながら、もっと長い目で関係を築いていけばいい。
コダワリ君だって怖がることは無い。不安な時には、ちょっと頼んでみればいいのだ。
「コダワリ君、割り勘じゃなくてもいいですか?」
 
 
 
 
***
 
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2020-06-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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