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塩のように香水をつけるフランス人


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記事:AZE(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「あらやだ、香水つけるの忘れていたわ」
アパルトマンのエレベーターで一緒になった高齢のマダムがそう呟いて、再び上の階へ戻るボタンを押した。
 
私は今パリに住んでいる。住み始めてから日本とは違うフランスの文化や考え方に多く気づくようになったが、その中のひとつがフランス人と香水との距離感だ。
 
日本でも香水をつける人はいるだろう。
しかし、無臭が1番と考える人もまだまだ多く、香水をつけること自体がスメルハラスメントと捉えている人もいるらしい。毎日香水をつける事は敷居が高く、プライベートの時だけ、家の中にいる時だけ香水は楽しむ人も多いのではないだろうか。
かくいう私も日本に住んでいた時は、香水に対して少し距離感があった。
香水自体は好きだったが、香水は少し背伸びをしたい時に使う特別なアイテムのように扱っていた。外でつける香水は一般的にウケる香り、世間一般的には受けないんだろうなという香りは家の中でこっそり使っていた。
 
その香水に対する距離感がぐっと縮まったのは、フランスに住み始めてからだ。フランスに住み始めてから、香水を使いこなす人たちに沢山出会った。
 
冒頭に書いた高齢のマダムもその1人。同じ階に住んでいたこともあり、エレベーターでよく顔を合わせるようになったマダムは、いつもその時の雰囲気や服装にぴったりの香りを身に纏っていた。カジュアルな格好をしている時は、清潔感のあるさわやかな香り。冬の寒い朝に出会った時は暖かい空気で包まれるようなウッディな香り。雨が降っている日は湿り気と色気を感じるような香り。そのどれもがその時のマダムの装いやメイクに似合っていて、その場にあった香水をいくつも使いこなせているという事実は、多くの言葉を話さなくともマダムの知性までも感じられた。
 
マダムに限らず、香水と上手く付き合いながら生活する人たちは、一体いつから香水の存在を知り、生活の一部として使いこしていくようになるのだろうか。
そのヒントは8歳児の女の子が教えてくれた。
 
以前私がシッターとしてお世話したその女の子は、ごっこ遊びをしている最中に香水を手首にシュッと一拭きし、とんとんと手首で香りを馴染ませるフリを当たり前のようにしてみせた。これには驚いた。子供の観察力は鋭い。きっと親が出かける際に香水を付ける姿を毎日見ているのだろう。
このように子供の頃から日常的に大人が身だしなみの一部として香水を付ける姿を目にすると、成熟する頃には香水という存在は身近になり、自分を表現する為のアイテムとして定着するのはごく自然な流れに感じる。
 
香水と上手く付き合いながら生活する人たちが香水を使う時、気負いのようなものは全く感じられない。
それはまるで、塩のような距離感だ。出来上がった料理に「あれ、何か足りないな」っと思ったら、塩を足してみる。そしたら味がぐっと奥行きがでて「ああ、これこれ!」っとなった経験に似ている気がする。
香水というものは、彼らにとって自分のパーソナリティをより引き出す為に使う塩の役割を果たしているのだ。
 
香水=塩。難しくも珍しくも無い調味料と一緒なんだ。
 
そう気づいた私は、日本に住んでいた時とは違う気持ちで香水に興味持つようになった。香水との距離をもっと縮めて使いこなせるようになりたい。
 
まずは形からだと思い、フランス人を真似て香水を取り扱うお店に気軽に入るようになった。
店に入れば絶対買わなければいけないという雰囲気は無い。店員さんもはじめは色々試してみたいという客側の意向を汲み取り、適度に放って置いてくれる。
どれから試して良いのかも分からない。そういう時には自分から店員さんにアドバイスを求めると良い。どんなシチュエーションで付けたいのか、どんな香りが好みなのか、今どんな香水を持っているのか……。彼らはまるでカウンセラーのように、いくつか香水を持ってきてくれる。
さぁ目の前に候補が並んだ。ある程度の目星がついたらまずはムエット(試行紙)で試してみる。シュッと吹きかけ、パタパタと仰いでアルコール分を飛ばした香りがトップノートと呼ばれる最初の香りだ。
ここで「あ、好きかも!」と思ってもグッと衝動買いを抑える。香水は時間の経過と共に香りは変化していくし、その人の体温によって、同じ香水でも香りの立ち方が変わってくるからだ。ムエットで良いかもと思った香水が見つかれば、ここで初めて自分の肌につけてみて、自分の肌の上ではどの様に香りが変化していくのかを観察していく。私はこの観察時間が堪らなく好きだ。まるで自分の肌で、香りの実験をしているような気分になれる。10分毎に嗅いでみて、この香りの変化は好きかどうかの自問自答を繰り返す。そうして時間をかけてGOサインを出してやっと購入に踏み切る。
 
こうして手に入れた香水はとても愛おしい。その愛おしい香水を今度は毎日の生活の中で使いこなしていく作業が始まる。その先に香水を塩のように使う人生が待っているのだ。
まだまだ慣れず、たまに塩加減も間違える。それでも良いんだ。料理と一緒で毎日使いこなしていくうちに慣れれば良いじゃないか。
いつか香水を塩のように扱えるようになるのが私の次の目標である。
 
 
 
 
***
 
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2020-06-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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