メディアグランプリ

外出自粛で気づいた、本当の気持ち


*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。

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記事:福田美弥(ライティング・ゼミ講通信限定コース)
 
 
3月の2週目、我が家では家族会議が開かれた。
議題は、娘達が塾に行くことを自粛するか否かについてだ。
2月28日、突然に休校が発表された。
翌29日、娘達は登校して、すべての荷物を持って帰って来た。
私は、荷物が多いことを見越して車で迎えに来たのだったが、
体いっぱいに荷物をぶら下げてきた娘達を見て、異様なことが起こっていると
感じていた。
休校が発表される前から、我が家では人一倍危機管理能力の高い夫が、
新型コロナウィルスは警戒しなければならない、と主張していた。
それで、夫と私は、各自の習い事を休むことにした。私は歌のグループレッスンの仕事も休講にすることを決めた。
住んでいる地域は関東地方と比べると感染者が少なかったが、我が家は独自に自粛を決めたのだった。
しかし、娘たちには夫の危機感が充分には伝わっていなかったため、彼女たちは塾を休むつもりはなかった。それで、3月の1週目はいつものように塾に行った。
夫と私が外出を自粛していても、娘たちが塾に行っていては自粛の意味がなくなってしまうのではないか。論理が破綻しているじゃないか。ということで家族会議が開かれた。
結局、娘たちを説得できたのは、夫が50代で感染した場合にリスクが高いからという理由だった。夫が「俺もリスク年齢なんだよ」と呟いた時に、私は夫が本気で心配していることを知ったのだった。
3月、4月と我が家では、夫が仕事へ行く以外、外出を自粛した。
私と高校生の長女と中学生の次女は、毎日家の中で過ごしていた。
幸いにも、衛生予備校の授業は、自宅でオンラインで受けることができたため、
娘たちはやることがあった。ただ、パソコンが1台しかないために3人で譲り合って使わなければならなかった。私は起業していて、オンラインで仕事をしているので、パソコンが使える時間が限られることにストレスを感じた。
また、今まで昼間は自分一人で過ごしていたのに、常に娘たちがいることにもストレスを感じた。
人がいる所への外出を控えるにしても、公園や道路を散歩することはダメではないはずだった。しかし、世間全体が自粛ムードになるにつれて、家から出ないようになっていった。
娘たちは最初の方こそ、1日1回は散歩に行ったり、ジョギングをしたりしていた。しかし、いつの間にか、それもしなくなっていった。
 
家に押し込まれているような気持ちになりながらも、私は「疲れていない」ことに気付いた。自粛前の私は、娘たちを学校に塾にと、毎日車を走らせて送迎していた。
なぜなら電車やバスの本数が少なく、駅やバス停で待つ時間のロスが多いからだった。
娘たちの学校は宿題が多く、塾から帰ってきて夕食を食べてから宿題をしていたら、
いつも寝る時間が遅くなっていた。
私は、娘たちが少しでも早く寝られるように、自分が送迎をすることで娘たちの時間を
節約しようと考えたのだった。母親としてそれも愛情だと思い、実際、娘たちのために送迎をすることは全然イヤだと思わない、と語っていた。
しかし、自粛生活で学校や塾への送迎が一切なくなってみると、私は体が疲れていないことに気付いたのだった。そして同時に、毎日の送迎が私の体に負担になっていたことにも。いや、本当は運転で疲れると感じていたけれど、母親として送迎することが愛情だと思って我慢していたのだった。
 
塾に行かなくても、家でオンラインで授業が受けられている現実。
もう、塾に行く必然がなくなってしまった。
「塾に行かなくてもいいね。家でやればいいから」
娘たちも私も同じ考えになった。
そしてさらに私には、「塾に行きたくない」という気持ちも出てきた。
我が家から塾までは車で往復1時間かかる。たった50分の授業の時でも、先生とのわずか15分ほどの面接の時でも送迎してきた。
もう、そんなことはしたくない。送迎することは私にとって負担だ。私の時間と体力を奪っている。そんな気持ちが溢れてきたのだった。
送迎することは母親としての愛情行為であって、私はそれを少しも苦に思わない、などと言ったり書いたりしてきたというのに、本当の私の気持ちは違っていたのだった。
 
なくなってみて自分の本当の気持ちに気付いたのは、初めての彼氏と別れた時と同じだ。
奥手の私は25歳の時に初めて彼氏ができた。告白されて付き合い始めたのだけど、彼の情熱が私にも伝染して恋に燃えた。しかし私は、自分の夢に向かって進んでいる時だったので、予定通りドイツへ留学した。彼は私の夢を応援してくれていたので、遠距離恋愛になると私は思っていた。でも彼は、私が旅立つ日に空港に見送りに来なかった。
彼が「見送りに行くよ」と言っていたので、私は飛行機の出発の時刻が迫っても彼の姿を探していた。見かねた弟が私を搭乗口へ促した。私は飛行機に乗ってから事態を把握して悲しくてずっと泣いていた。
ヨーロッパに着くと同行の仲間と共に観光をした。憧れのヨーロッパの風景の中に自分が居ることが信じられなかった。目に入るものすべてに感嘆した。
そうして、お城に登って、街並みを俯瞰して見下ろしている時に、私は気付いたのだった。
あぁ、私は彼のことをそんなに好きではなかったのだと。大好きだったけれど、ヨーロッパに来ることに比べれば、彼は大事ではなかった。私は自分の本当の気持ちに気付いたのだった。
 
愛情を注ぐ相手に自分の時間を費やしてしまうこと。
それが自分を犠牲にしていることがあることに気付けた自粛生活だった。
 
 
 
 
***

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2020-06-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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