メディアグランプリ

100日という月日の中で


*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。

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記事:雨辻ハル(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「おじいさんがその命と引き換えに、あなたに別れの辛さを教えてくれたのです」
 
ポーンという鐘の音がお寺の中に響き渡る。荘厳な雰囲気の中、和尚様がお経が読み上げ始め、百か日法要が始まった。百か日法要とは故人の命日から100日目に執り行う法要のことだ。祖父がこの世からいなくなってもう100日くらい経つのかと思うと、月日の流れの速さに驚きを隠せなかった。100日ほどが経った今でも祖父が亡くなった日のことはまるで昨日のことのように思い出すことができる。
和尚様が読む般若心経を聞きながら、祖父が死んだ時のことを思い返していた。
 
祖父の危篤の知らせを受けたのは名古屋に向かう途中だった。私の人生の転機が訪れるのは決まって雨の日で、やはり今回も雨が降っていた。母からいきなり
「祖父が危篤です、帰ってきてください」
というLINEが家族のグループに送られてきた。私はそのLINEを見た時、半分冗談だと思っていた。あんなに元気な祖父がまさか死ぬわけがないだろうと思っていた。
私はこれまでに身近な人の死というものを経験したことがなかった。友人の家族が亡くなったとか、病気で亡くなってしまった人を題材にしたテレビのドキュメンタリーなどを見たことはあったが、どこか他人事のようだった。自分の周りの人が死ぬとは考えたこともなかった。今日会った人は明日もいつものように会えると思っていた。もう二度と会えなくなるとは思ったこともなかったのだ。そんな私にとって祖父が危篤だという知らせは、本当だと思うことはできなかった。
心が追いつかないまま、引き換えして家に向かった。危篤の連絡が入ってから10分くらいが経っただろうか、母から祖父が亡くなったという知らせが入った。人が死ぬときってこんなにあっけないものなのか、すごいさっぱりとしたように感じられた。しかし、まだ死という実感を受け入れることはできなかった。私は心のどこかでまた会えると思っていたのだ。
 
家に着くと、家族が大慌てて祖父の亡骸を迎え入れる準備をしていた。祖父は家で危篤状態になり、救急車で近くの病院へ運ばれ蘇生を受けたが、そのまま息を引き取ったようだった。今は病院にある亡骸が家へ運び込まれるというのでその準備で大忙しだった。心の整理をする時間もなく私も手伝いに駆り出された。
準備が終わった20時頃、病院から祖父が帰ってきた。帰ってきた祖父は、今にも起きそうな安らかな表情をして眠っていた。何度祖父を見ても、すやすやと気持ちよさそうに寝ているようにしか見えなかった。死んでいるのではなく、寝ているようだった。祖父の亡骸を見ても、死という実感が湧いてくることはなかった。受け入れることから目を逸らしていたのだと今となっては思う。祖父の亡骸を見て、家族も祖母も親戚も泣いている中、どうしても私だけ泣くことができなかった。悲しいはずなのに泣くことができなかったのだ。
 
しばらくしてお経をあげるために、お寺の和尚様が来た。私が死を実感することができたのは、このお寺の和尚様の言葉だった。
「愛別離苦という苦しみは、おじいさんの最後の教えです。愛するものと別れるという辛さや苦しみを、その命をもって残された私達に教えてくれたのです」
その話を聞いて、今まで出てこなかった涙が自然と溢れてきた。この涙が私が死を受け入れた証だった。和尚様が「死」ではなく「別れ」と言ったことで、死を実感することができたのだと思う。死は今までに経験したことがなかったが、卒業や恋人との別れなど、別れは今までに何度も経験したことがある。別れという過去の経験が今まで実感のなかった死というものと重なり、実感が生まれた。ようやく私は死はもう二度と会うことができない別れなのだということをようやく理解したのである。もう二度と会えないという事実を理解したことによって、悲しみという感情が生まれたのであろう。
 
お経を聞きながらそんなことを思い出していた。私は死というものを受け入れてから、今を大切に生きようということを強く思うようになった。私もいつ死ぬのかは分からない。明日事故にあって死ぬかもしれない。そんなことは誰にも分からないが、いつ最後がきてもいいように後悔せずに生きていくことにした。やりたいことがあるなら全力でやる、未来や過去にとらわれるのではなく、とにかく今を生きるということを大事にしている。
そして、会いたいと思う人に積極的に会いに行くようになった。友人も祖父母もいつ会えなくなるか分からない。死んでしまうかもしれないし、簡単には会えない場所に行ってしまうかもしれない。会えなくなってから後悔しても遅い。だから会いたいと思った時に会いに行くようになった。
 
死を受け入れたことによって、その反対に位置する生を見つめ直すことができた。人は当たり前にあるものに対して意識が薄くなりがちである。その当たり前を失った時に初めて、その当たり前の大切さに気付く。しかし失ってからでは遅い。失ってからではなく、一度それを失ったときのことを考えてみるのもいいのかもしれない。
 
 
 
 
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2020-06-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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