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公務員だった私が、あえて共働きを諦めたわけ


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記事:なめ山 なめろう(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
女性が結婚や出産をしても続けやすい仕事の代表、公務員。
私はあえて、寿退職を選んだ。
 
実際、私が勤めていた役所に、結婚や出産を理由に退職した女性は近年いない。結婚後も仕事を続ける女性、お子さんを育てながら働く女性の事例が、ごまんとある。
 
しかし、そんな職場で私が選んだのは、まさかの結婚退職。
選んだ理由はひとつ。
夫婦で働き続けて世帯収入は上がっても、2人の精神的な幸福度が上がる見込みがなかったからだ。
 
私と夫は職場結婚だった。同じ公務員で、同じある機関に勤めていた。私はもちろん、結婚後も働くつもりだった。しかし、結婚を考える私たち2人の前に立ちはだかったのは、同業ゆえの負のループだった。
 
①そもそも、仕事が好きではない
公務員の仕事は、2人とも好きでやっているわけではなかった。勤務条件や、安定に惹かれて選んだ仕事だ。組織の方向性にも事業にも、共感どころか興味すらない。というか、方向性も何もが見えないぐらい、所属する組織が巨大すぎた。私は元、とある省の、とある地方機関の、田舎のノンキャリ係長。個人の意思や努力で動く要素が、仕事において少なかった。
 
当然不満もあった。しかし、「こればっかりはもうダメ、死ぬ」というような、重大な難点もなかった。辞めてまでやりたい仕事もなかった。よって、生活のためと割り切って働いていた。
 
②好きではない仕事の苦しみが、わかりすぎてつらい
とはいえ、きっとどんな仕事でもそうだが、公務員も世間のイメージほど楽な仕事ではない。それなりに大変なことはあった。
 
そして私たち2人は、同じ職場だからこそ、お互いの仕事の大変さがわかりすぎてつらかった。
自分の配偶者がどんな人と一緒に働いていて、どんな仕事をしていて、何がしんどいか、具体的に想像がついてしまう。付き合う前に隣同士の席で働いていた時期もあったので、余計だった。
夫が面倒な案件にしんどそうにしている姿も、夜遅くまで働いてクタクタになっている姿も、私はこの目でまざまざと見てきた。
 
私は昇進後、忙しさも責任も増えるばかりの仕事に、精神的に疲れ果てていた。夫は、私がなぜこんなに仕事でつらい思いをしなければならないのか、と心を痛めていた。私が置かれている状況を、知っているだけに。
 
一方の夫は、仕事の愚痴をこぼすことはないが、仕事でストレスが溜まっていることは明らかだった。夫は、出勤前にだけ起こる、原因不明の体調不良が続いていた。私もまた、夫がなぜこんなに仕事でつらい思いをしなければならないのか、と心を痛めていた。夫が置かれている状況が、わかるだけに。
 
私たち2人の仕事は、たくさんの理不尽と、たくさんのどうにもならないこととセットだった。
 
お互いに分かりすぎるゆえ、私たちは苦しんだ。
 
③分かりすぎるからこそ、求めすぎる
同じの知恵を合わせて、互いに励まし合いながら仕事を乗り越えていく方法もある。しかし、私たち2人は、乗り越えるどころか、ネガティブの沼に共倒れ寸前だった。
 
私の仕事の一番の理解者は、夫だった。だからこそ、仕事の悩みを、職場では出せない本音の愚痴を、つい聞いてほしくなる。泣き言を言えるのは、夫だけだった。
 
しかし、泣いてばかりでは、仕事は進まない。今仕事で起きている問題に、私は対処する必要がある。そこで、同じ職場の先輩である夫に「じゃあ、あの件をどうすれば良いと思う!?」と、具体的なアドバイスを求めたくなってしまう。
 
仕事から離れたプライベートの時間にまで、「夫」ではなく「同じ職場の人間」として、彼を求めるようになる。夫にすれば、ただでさえ好きでない仕事からやっと解放されたというのに、家に帰ってもまた「同じ職場の人間」が待っている。苦行でしかない。私は仕事の理解がすぎる夫に、完全に甘えていた。
 
④内輪トークで、さらに苦悩が深まる
もちろん、どうすれば仕事が楽になるかも2人で話し合った。しかし、2人の抱えている不満や不安の根本にあるものは、個人の能力や努力で解決できるものではなかった。人手不足、おかしな人事配置、組織内部のコミュニケーション不足、制度上の問題……自分たちだけでは、どうにもできないことだらけだった。
 
仕事がうまくいかないことの原因を、すべて個人のせいにしていては、自分たちの心がもたなかった。組織の問題として語らないと、耐えられなかった。
 
そして、職場の悪いところばかりが、2人の共通の話題になっていく。内輪の人間でないと分からない悩みを共有するうち、仕事に対するネガティブなイメージばかりが、2人の間に強化されていく。
 
すると、自分の大切な人が、こんなうんざりする組織にどうして苦しめられないといけないのか、とまた心を胸を痛める。「こんな組織で、こんな仕事で……」と思えば思うほど、ただでさえ好きでない仕事が、ますます仕事が嫌になる。
 
こうして、①そもそも、仕事が好きではない→②好きではない仕事の苦しみが、わかりすぎてつらい→③分かりすぎるからこそ、求めすぎる→④内輪トークで、さらに苦悩が深まる→ますます仕事が嫌いになる という負のループに、私たちは陥った。
 
このままだと、2人で働き続ける限り、ずっと仕事に対するネガティブな感情から逃れられない。世帯の収入はプラスでも、夫婦の精神的な満足度がマイナスになってしまう。
 
きっと世の中には、夫婦2人で前向きに張れる共働き夫婦もたくさんいる。しかし、私たち2人は違った。
 
経済的な安定は、もちろん重要だ。だから公務員になった。しかし、夫婦が長く一緒にいるために必要なのは、それだけだろうか。2人が心穏やかに楽しく暮らせるという、精神的な利益を増やす努力も、もっと大事にしてもいいのではないか?
 
こうして、私は公務員としては異例の寿退職を決めた。
夫の体調不良は減り、深夜まで仕事をした日でも、帰宅後笑顔でいることが増えた。
私も、仕事ではなく、夫の晩ごはんの献立に頭を抱えるばかりの毎日を、悪くないと思っている。
 
 
 
 
***
 
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2020-06-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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