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1人暮らしの父の家の片づけ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:吉田まりえ(ライティングゼミ・日曜コース)
 
 
父が75歳を過ぎて病気で入院した。
退院後、体力が落ちてしまい、ベットがほしいと言い出した。
 
父の家は、床にも、家具の上にも物が溢れている。父は、物の隙間に布団を引いて寝ているような状態だった。地震がきたら、間違いなく即死だろう。
大仕事になることを覚悟して、私は、週末、父の家の片づけに通うことにした。
 
初日。
いわゆる断捨離。どうやってやろう……。しかも、自分ではなく、父。
物には本人にしかわからない価値がある。まずは、全体を把握することにした。どこに、どれだけ、何があるのか。父に確認しながら、部屋だけでなく棚や押入の中も見ていった。
 
本棚に目が留まった。
「お父さん、これ何のノート? すごい量あるけど」私はノートを手に取ってみた。
ノートは、資料が挟み込まれて分厚くなっていた。びっしり父の手書きメモがある。
 
「A先生の勉強会の資料。週1回の勉強会も参加して20年になる。自分の入院の時以外、欠席なしのお父さんは、A先生の一番の生徒だ」父は、自慢げだった。
 
A先生。50代で父が病気で倒れて以来、父がカウンセリングを受けている先生だ。
患者向けに、物事の捉え方、人間関係、呼吸法などのテーマで勉強会を主催していた。
 
私たち家族は、父の病気をきっかけにいろいろあり、激しい性格の父と距離を置いて過ごしてきた。20年。父はA先生と、おそらくこのノートを心の支えに歩んできたのだろう。
 
私は、ノートに振り返りたくない過去の出来事も挟み込まれているような錯覚を覚えた。
私の中で、得体の知れない何かが込み上げてくるのを感じた。
 
「このノートは、このままとっておこうね」私は、ノートから目を背けて言った。
「一番大事なこのノートはこのままにしとって」父は、強い口調で言った。
 
この日は、新聞・雑誌や壊れた電気製品などの不用品を捨てて帰った。
 
翌週。
今日から本格的に片づけを始めようと父の家に向かった。
 
久しぶりに胃の底に強い違和感があった。年月とともに薄れ、もう忘れていたのだが……。なくなっていなかったのだ。父は、昔と違い高齢で体も弱っている。私は、ノートのことは忘れ、ベットのことだけ考えようと自分に言い聞かせ、違和感を心の中に強く押し込んだ。
 
父にどうしたいか、何が大事か、話を聞きながら片づけを進めていった。
「お父さん、これ、どうしようか?」
 
“衣類”
熱で寝込むのは最大1週間。回復して自分で洗濯して困らないよう下着類と部屋着は2週間分、その他は外出頻度とクリーニング代を考え1週間分に絞る。ジャケットは、生活にメリハリをつけるためにお気に入りを残す。
 
“書類”
自宅でできる食、運動、睡眠の健康づくり情報は保管する。何かあった時すぐ確認できるよう過去分保管していた役所、デイケア、病院関係の書類は、今年~昨年分以外は捨てる。
 
“趣味のもの”
お世話になっている人に絵はがきを贈る日本画と手のリハビリを兼ねた手芸道具は残す。使わないテキストや材料、道具は処分。囲碁は脳トレ、学習中のためあらゆるものを残す。
 
1カ月半が経過した。
「お父さん、来週、ごみ業者さんにまとめて処分を願いしたら、ようやく片づけが終わるよ」
この日の片づけを終え、父とお茶を飲んで一息していた。
「ノートを捨てようと思う」父が突然、言い出した。
「……、ノート? あのノートは、捨てなくていいよ」私は、びっくりした。
「いいんだ。ありがとう。ノートは捨てる」父は頑固で、言い出したら聞かない。
私は戸惑ったが、ノートの話題には触れたくなかったのでそれ以上何も言わなかった。
 
この日、家に帰って毎週末のように父と片づけをした日々を振り返った。
 
なぜ、父はノートを捨てると言ったのだろう?
ノートの話題には触れたくなかったのに、気になって仕方がなかった。
 
かつての父は、私たち家族に言いたいことが山のようにあった。
私は、それに傷つき、病気がある父と距離を置くことで自分を守ってきた。
 
違和感。
心の奥底にある父へのわだかまり。そして、父と距離を置いている罪悪感。
私は、ずっと違和感を抱える自分に向き合うことができなかった。
 
いつの頃からだろう。
 
父は少しずつ変わり、自律的な生活をおくるようになった。
1人暮らしを自力で可能な限り維持できるよう工夫する。
自分の心身の健康に気を配り、交流を大切にして、楽しみ、学び続けること。
 
そこに、かつての父の姿はない。
違和感が薄れていったのは、父のそんな姿によるところが大きかった。
 
ノート。
父にも、心の奥底にわだかまりはあるだろう。
それでも、私たち家族との関係をなんとかしようと、父なりに、20年学び続け、
少しずつ自分と向き合ってきたのではないだろうか。
 
父は、ノートを捨て、ベットのある新しい生活を始めることを決めた。
 
なぜか、涙が出てきた。
 
私は、父とこれまでと違った関係がつくれるのではないかと思い始めた。
 
片づけを始めて2カ月後。
「ベットにして正解。楽、楽! それに、部屋が明るくすっきりした!
あまりに気持ちがよくて、毎日、モップで掃除してる、ほら!」
新しく自分で買ったらしいモップを手に、父はご満悦の様子だった。
私は、2ヶ月間の頑張りが報われた気がして嬉しかった。
 
もう、あの違和感はなかった。
 
私は、今までたった2カ月くらいで解決する程度のことに苦しんできたのだろうか?
いや、おそらく違う。
20年の年月を経た今だからこそ、
父の家の片づけを通じて、私は、自分の心の中を整理することができたのだ。
 
心が軽い。こんな日がくるとは夢にも思わなかった。
 
「あまりに気持ちがよくて」父と同じ気持ちを共有する日がきたことが感慨深い。
これからは、父の家を訪ねる機会も増えるだろう。
1人暮らしの父の家の片づけがもたらしてくれた、人生のギフトに感謝している。
 
 
 
 
***
 
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2020-06-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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