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こだわりというフィルター

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:佐々木 慶(ライティングゼミ・日曜コース)
 
 
「別れてください」
交際相手からの言葉に耳を疑った。頭を突然ハンマーで殴られたような気分だった。
まさか、こんな言葉を突きつけられるなんて。
あれだけ尽くしていたのに、なぜ?
パニック状態になったことは今でも忘れられない。
 
交際相手との出会いは、10年前に遡る。
縁あって、地元でも、大学のあった街でもなく、新天地に就職した私。
新しい環境、そして人間関係。不安はあったが、何もかも新鮮さに溢れていた。
職場研修、交流イベント、同期達との飲み会。いろいろなものに参加した。
その中で好きな女性ができた。それが交際相手となるAさんだった。
彼女は会社の同期に当たる人で、年も同い年。
大学の時に東京で一人暮らししていたこと、そして漫画好きという趣味が共通していることもあって、意気投合。不思議とノリもあった。
Aさんと付き合いたい。そう思ったのはごく自然なことだった。
 
そして告白し、無事成功。晴れてAさんと付き合うことになった。
付き合って間もないころ、Aさんに何気なしに聞いてみたのだ。
オッケーの決め手は何だったの? と。
「ロビーでずっと待っていてくれていたことがあったよね」
Aさんが話し始めた。
 
告白する少し前から私はAさんと一緒に職場から帰るようになっていた。
その当時、待ち合わせ場所は1階ロビーと決まっていた。
ただ、その日は待てども待てどもAさんが来ない。
急な残業が入ったことが原因だった。
結局Aさんが姿を現したのはいつもより1時間半ほど後になってからだった。
その間、私はずっとロビーで一人Aさんを待ち続けていた。
きっと早く切り上げて帰っても良かっただろう。ずっと待っているのは正直しんどかったが、どうしても切り上げるなんてできなかった。
少しでも、Aさんといる時間がほしかったのだ。
 
この行動が私と付き合う決め手となったらしい。
「ずっと待っていてくれたのはすごくうれしかった!」
そうか。私は心底思った。
自分の行動を間違っていなかった。これからも彼女のために頑張らないと!
 
これ以降、私はAさんに多く捧げるようになった。
Aさんの仕事が終わるまで、職場のロビーで待ち続ける。
一緒に遊びに行くときは、必ず私が車出しをする。
同期との飲み会の時には、私はお酒を飲まず、Aさんを実家まで送る。
 
自分でもびっくりするくらいAさんに尽くしていた。
Aさんからは、「そんなにしてもらって悪いよ。大丈夫だよ」と言われていた。
しかし、私は「自分がやりたいからやっているだけだよ」と言って自身の行動を変えなかった。
だって、自分の尽くす姿を見て、Aさんは私のことを選んでくれたのだから。
それに、せっかくできたAさんに嫌われたくなかったから。
 
当時、共通の友人からはこんなことを言われた。
「彼女にぞっこんだね。佐々木くんはほんとすごいねえ」
Aさんからは喜んでもらって、周りからも褒められる。
そう感じていた私の心は誇りに満ちあふれていた。
だから、あんな結末になるなんて思いもしなかったのだ。
 
付き合いだして半年を過ぎてから、Aさんの様子がだんだん変わっていくのが分かった。
だんだん笑顔が消えていったのだ。
ただ、いくら理由を聞いても教えてくれない。
なんで何も言ってくれないの?
頑張りがまだ足りないってこと?
以前よりも増して、Aさんのために時間を費やすようになったが、一方でいつもイライラしている自分がいた。
 
そんな状態が5ヶ月ほど続いたある日、Aさんは私に告げたのだ。
「別れてください」と。
 
パニック状態になりながらも、理由を聞いてみた。
「え、どうして? 何か俺悪いことした?」
「大事にしてくれてることは分かるんだけどさ。なんか重いんだよね……」
 
訳が分からなかった。
あれだけ尽くしたのに重いって、どういうこと?
いろいろな言葉を使って、どうにか気持ちを戻そうとした。
でも、Aさんは別れてくださいの一点張り。
取り付く島もなかった。
こうしてAさんとの日々は終わった。
 
私はこれ以上にないくらい落ち込んだ。
何の気力もでない日々が続いた。
仕事中はぼうっとしていることが多くなり、休みの時も家にこもっていることが多くなった。
自分の何がいけなかったんだろう?
いつも自問自答を繰り返していた。
 
そんな私の姿を見かねた友人が声をかけてくれた。
私はAさんにフラれた顛末、そして自分の思いを友人にぶつけてみた。
 
すると、友人はこんな言葉を返してきた。
「佐々木君が『尽くす』ことにこだわりすぎたのが原因じゃないかな?」
 
その言葉にはっとした。
ずっとAさんのために尽くしていたと思っていた。
ただ、そうではなかった。
怖かったのだ。
Aさんと付き合う決め手となった行動を止めることを。
尽くさなくなることでAさんに嫌われたくなかった。
「尽くす」という成功体験を放したくはなかったのだ。
しかし、それは間違いだった。
こだわりすぎて、相手のことを見ていなかったのだ。
大事なものを失ってしまったのだ。
 
その後、縁があって、新たな彼女と付き合うことになったが、「尽くす」ことを辞めた。
こだわりを捨てたのだ。
代わりに、彼女自身と、そして自分自身をとことん向き合うようになったのだ。
時には落ち込んだり、喧嘩したが、それもかまわないようになった。
 
結果、どうだろう。
彼女とは何でも言い合えるいい関係が続くようになった。
もちろん、自分自身のイライラも格段に減った。
 
こだわりというフィルターを外すって本当に大事なんだな。
そんなことを思いながら、今後も彼女、そして自分自身と向き合いたい。
 
 
 
 
***

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2020-06-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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