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仲良しの木

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:市川みどり(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
皆さんには、仲の良い木ってありますか?
 
人じゃないです。
木です。
 
私にはあるのです。
今日はそのお話を……。
 
私が仲良くしている木、それは一本のいちょうの木です。
通勤途中の横断歩道脇に、街路樹として植わっています。
その横断歩道には信号があり、私はいつも決まってその信号につかまるのです。
待ち時間は約2分。結構長いです。
 
いつものように信号待ちをしていたある日のこと。
私は横に立っているいちょうの木をぼーっと眺めていました。
そして、ふと、そのいちょうの木の幹に付けられている札に目がとまったのです。
 
「いちょう」
 
と書かれていました。
その下には、「いちょう科」「東京都建設局」と付け加えられています。
そう、それは言わば名札のようなもの。
街路樹や公園の木などにはよく付けられており、それほど珍しいものでもありません。
しかし、それを見た時、なぜだかわからないのですが、瞬間的に熱いものがこみ上げてきて、思わず泣きそうになってしまったのです。
いや、実際、少し泣いていました。
 
「な、何なんだ? この湧き上がる謎のエモーションは!」
 
青信号に変わった横断歩道を、潤んだ目で渡りながら考えました。
 
おそらく私は、そのいちょうの木が、何一つ文句を言わずに全てを受け入れているということに、ある種の崇高さを感じたのです。
 
頼みもしないのに名札を付けられ、それも「いちょう」などという名前は人間が勝手に付けたものであり、本来はもっとかっこいい別の名前があるかもしれないのに、そんな内臓みたいな呼び名を甘んじて受け入れているいちょうの木。
どうせ植わるなら見晴らしの良い公園かどこかに植わりたかったでしょうに、こんな車通りの激しい、排気ガスだらけの道路脇などに植えられてしまったいちょうの木。
どんなに不本意なことでしょう。
しかし、そんな境遇も静かに受け入れ、人や車の往来を毎日優しく見守っているのです。
 
『置かれた場所で咲きなさい』というタイトルの書籍があったように記憶していますが(まだ読んでいませんが)、まさにそのいちょうの木は植えられた場所で元気に咲いている。
そのけなげな姿に、私は強く心を打たれたのでした。
 
普段の私は道ばたの植物や石ころなんかに感情移入をするような心優しい人間ではありません。
しかし、その私がなぜここまでセンシティブになっていたのか。
それには理由があるのです。
 
当時、私は転職をしたばかりでした。
新天地は、ずっとやりたかった教育関係。
実は20年ほど前まで教育業界にいたのですが、結婚と同時に離れてしまったのです。
 
「また教育に携われる!」
 
私はワクワクしていました。
 
しかし、新しい職場で実際に与えられた仕事は経理事務でした。
自分がやりたかったこととは大きくかけ離れていたのです。
それも経理に関して私は殆ど素人と言っても良いレベル。
なにゆえこんな人間に経理の仕事が回って来たのでしょうか。
いや、それは自分が、ちょっとだけやったことがあるというだけで職務経歴書に堂々と「経理事務」と書いたからだとは思いますが……。
とにかく毎日毎日わからないことだらけで、自分の使えなさを痛感させられるばかり。
周りの人たちはみんな生き生きと楽しそうに仕事しているのに、どうして自分だけ……と惨めでした。
 
そんな状態だったので、自分の意に反することでも全てを受け入れて強く生きているそのいちょうの木を見て、
 
「すげえな、いちょうさん、まじリスペクトっす!」
 
と感動してしまったのです。
 
それ以来、通勤時は毎日そのいちょうに
 
「おはよう! 今日はちょっと寒いですね!」
「昨日、飲み会で寝不足なのですよ……」
「今日は給与計算があるから遅くなりそうです」
「今日も頑張ります!」
 
などと話しかけています。
もちろん脳内で。
 
いちょうの方も、それに答えて……はくれませんが、それでも私の思いを全て受け止めて、パワーを送ってくれているような気がします。
 
経理事務なんて不本意ではありましたが、それでも与えられた役割を受け入れて、しっかりとこなしていこう。
あの日、いちょうの木がそう思わせてくれました。
 
あれから1年。
今では経理の知識も増え、自分なりに生き生きと仕事が出来ていると感じています。
 
昨日の朝、私はいちょうの木にお礼を言いました。
 
「いちょうさん、今日で私、1年です!
あなたが励ましてくれたから、今の自分があります。
本当にありがとう!」
 
すると、いちょうはウインクをしながらこう言いました。
 
「おめでとう!
君の頑張りを毎日見ていたよ。
これからも頑張って!」
 
と、こんな私の妄想も、大きな心で受け入れてくれる仲良しの木なのでした。
 
 
 
 
***

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2020-06-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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