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嫉妬という怪物の前には、誰だって平等だ


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記事:青野まみこ(リーディング倶楽部)
 
 
恐らく人間は、生涯、嫉妬という感情からは逃れられないように思う。
どんなに聖人君子でも、どんなに品行方正でも。
 
「いや、私は違う。嫉妬などという感情はとうに忘れたから」という人がもしいたとしたら、申し訳ないがかなり疑わしいかもしれない。
パンドラの匣が開いた時から、それは生涯ついて回ることになっているのだ。
 
嫉妬にもいろいろな形がある。
家族、友人知人、学校、職場、生活圏、……。
およそ人が集うところには人間関係が発生し、感情の交流がある。そして時には感情のもつれが生まれてしまう。その原因の多くは、嫉妬だ。
とりわけ嫉妬が複雑になり、感情が大きく働いてしまう関係、それは恋愛関係だろう。
 
多くの人は、周りで恋愛にまつわる嫉妬を見聞きしたことはあるかと思う。
そのどれもが、起こることが必然かもしれなかったのだろうが、第三者から見ると「どうして、そんなことで焼きもちを焼くの?」と思うことも少なくもない。
しかし、例えそれがどんなに些細なことであっても、当人たちにとっては、今その瞬間、その嫉妬こそが、関係を保つための死活問題なのだ。
 
アーウィン・ショー著、常盤新平訳『夏服を着た女たち』(講談社、1984)には、ニューヨークを舞台に、男女たちが交わす会話が織りなす短編が収録されている。
中でも表題作の『夏服を着た女たち』は、全編がほぼフランセスとマイクルの夫妻の会話で成り立っている。
 
フランセスは、マイクルにいらだっている。
理由は、マイクルが、フランセスと一緒に歩いているにも関わらず、初夏のニューヨークの街並みを歩く通りすがりの女たちを眺めることを止めないからだ。
 
あの人は、小麦色の肌が綺麗
あの人の、踊り子みたいなスタイルは抜群だ
オフィスで働く、朗らかで小ざっぱりとした人もいい
 
とにかくマイクルは、通りに現れる多くの女性に目を惹かれてしまう。
 
背景に想いを巡らせてみよう。
1930年代後半の初夏のニューヨークの街を、軽やかに歩く女性たちの姿。
第1次世界大戦の影響を殆ど受けず、その後の世界恐慌から立ち直りかけの頃。まだ第2次世界大戦も色濃くなく、という時代だろうか。颯爽と、涼しげな服に身を包んだ女性たちが歩く姿が目に浮かばないだろうか。
 
胸を張って生き生きと歩く女性たちを思わず眺めてしまう男は、古今東西なくならないだけに、わからなくもないと言う向きもおられるかもしれない。
でもこれではあまりにも、妻のフランセスが気の毒だ。
 
もちろんフランセスだって黙ってはいない。彼女は正々堂々と、夫に立ち向かっている。
「私の目の前でそんなことをされるのは、嫌なのだ」と。
明らかに通りすがりの女性たちに自分が焼きもちを焼いているとわかっていて、そしてそれをあからさまに表に出しているのもわかっていて、でもどうしても訴えずにはいられないフランセスの想いがそこにある。
 
男と女のすれ違う様は、醜いようでいて、何故か物語になっている。
1939年発表のこの作品は、今こうして読んでいても、男と女のすれ違いがわかりすぎるほどわかりやすく描かれている。
所詮男と女の感覚の違いなど、いつまで経ってもかけ違っているボタンのようなものなのだ。
 
男は、いつまでもどこまでも多くの女を追いかける。仕方がない、どうしようもないと頭では分かっていても、追わずにはいられない本能がある。
女はそんな男を見て、分かっていても嫉妬してしまう。男のことは信じきれないけど、好きだったら捨てきれない。だから嫉妬する。
 
こうして読むと女ばかりが嫉妬をするかのように思いがちだが、もしこれが男女入れ替わっていたらどうなるだろうか。男の嫉妬の感情は、もしかしたら女のそれよりももっと執念深く、粘っこいかもしれない。
 
やきもきしているフランセスは、不思議なことに、嫉妬に狂うというよりも可愛らしく見えてくる。
男たちよ、自分たちばかりがいろいろ女たちの品定めをしている間に、もしかしたら妻やパートナーが他の男に心を移してしまうかもしれない心配は、しなくてもよいのだろうか。
女が可愛らしく見えているうちは、まだ救いがある。
最後の一文を読むと、安堵と共に、この男女の関係性がもし逆転したらどうなるか、と思わずにはいられない。
 
嫉妬という厄介なものの前には、男も女もなく、平等にひれ伏すしかない。それは誰の元にも予告なしに、どこからともなく現れる怪物のようなものなのだ。
男女の間で、それをうまく治めきった時に、お互いをかけがえのない存在と思えるのかもしれない。
 
 
 
 
***
 
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2020-06-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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