メディアグランプリ

私の中の棚卸し


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山口さや香(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
あれは、いつだったか忘れたけれど、ありがちな夫婦喧嘩のはずだった。
 
たぶん、お腹がすいた、とか、しょうもない理由がきっかけだったんだと思う。
いつもだったら、ご飯をいっしょに食べて、すぐに仲直りするところだったのに。
 
主人の一言で、状況は一変した。
 
「言い返せないってことは、何も考えていないからでしょ」
 
建設的な意見を述べる夫に対して、ちがう、そうじゃない、と否定的な言葉ばかり投げる私に対するものだった。
 
冷静になった今、思い返せば、夫に軍配が上がる状況なのは認める。がしかし、喧嘩とは理不尽なものである。
 
なんてひどいことを言うんだ、と、私はますます腹を立てた。
夫に全然理解してもらえない可愛そうな私、と完全に被害者モードに浸っていた。
 
この時の私の言い分はこうである。
 
うちの主人は口が達者だ。
これまで、彼に口で勝ったことはない。
私が一を言えば、最低でも十倍になって返ってくる。
悔しいけれど、きっと、才能の違いなんだろう。
 
人間の感覚タイプには種類がある、という話を聞いたことがある。
タイプの違いで、言語化するのが得意不得意に分かれるらしい。
言語化が得意な理論派の主人と、言語化が苦手な感覚派の私。
これは特性だから、仕方がない。
 
だからこそ、うまく伝えられない私のことを、もっと理解してくれてもいいんじゃないか。
いや、むしろ理解すべきである。
そう本気で思っていた。
 
私自身がうまく言語化できないのは、生まれつき。
苦手なものは仕方がない、とはなから諦めていた。
 
昔から説明することが、とにかく苦手だった。
擬音語たっぷりの表現に、表情やジェスチャーを交えて話すようになったのは、私なりの試行錯誤の末のこと。
オノマトペを多用しながらのコミュニケーションは、むしろ、私の強みであると思っていた。
 
私が、論理的に説明できないことは、やむを得ない。
だから、理論派の人に理解されないのは、相手の理解力不足なんだ。
なんて傲慢な考えを、私は持っていたんだ。……つい先ほどまでは。
 
今、私はパソコンの前にいる。
天狼院書店が主催するライティング・ゼミの課題提出のため、2000字の文章に挑んでいるからだ。
 
ここでは、言葉以外の要素は使えない。
私が得意とする、表情やジェスチャーの出番はないのだ。
せめて絵文字を使えたらいいのに、なんて思うが、たぶんそれも無理だろう。
 
私の一番苦手なことに、向き合うことになってしまった。
言葉にして人に伝える、ということ。
 
こうして何かを書こうとした時に、決して何も言うことがないわけではない。
むしろ、あの話を書こうとか、これについて伝えたい、などと、思いはどんどん溢れてくる。
 
私の中の思いは、感覚として存在している。
それは、色や音や温度みたいな、いろんな要素で表現された映像のようなもの。
これらを、書くことを通して人に伝えるには、ひとつひとつ言語に落とし込まなくてはならない。
 
私の中に存在する感覚と、言語化することの間には、どうやら、ものすごく距離があるらしい。
思いはあるのに、言葉にすることが、とにかく難しいからだ。
 
わからないのなら、簡単だと思うやり方で確認してみることにする。
私の得意な、感じることに集中、集中。
 
すると、あることに私は気づいてしまった。
 
「具体的に」思いを認識しているつもりだったのは、ただの「つもり」でしかなかった。
私は、私の中に思いがある、ということだけで満足していたらしい。
 
「どんな」思いが「どのくらい」あるのかなんて、全然わかってなくて、ただ私の中に思いが「ある」ということだけしかわかっていなかった。
つまり、感じるということは、「ある」という存在を確認しているだけに過ぎなかったということ。
言葉にするには、「どんな」思いが「どのくらい」あるのか知る必要があって、そのためにはきちんと私自身の中を見なければならなかったんだ。
 
私、自分のこと全然見てなかったかもしれない……。
 
何かが「ある」ということだけわかっていたけど、それが何なのか、どのくらい存在しているのか知らなければ、言葉で伝えることなんてできない。
 
まるで、棚卸しの作業のようだ。
 
私という倉庫の中に、在庫があるというだけでは、棚卸しの報告はできない。
私の中をきちんと見つめて、「どんな」思いが「どのくらい」あるのか確認して、はじめて、人に自分の思いを伝えることができる。
 
私が言葉で人に伝えることが苦手なのは、生まれつきのせいにし続けてきた。
でも、どうやら、そうとも言えないかもしれない。
はっきり言ってしまえば、自分と向き合うことを怠ってきた、私のせいである。
 
書くことを通じて、自分と向き合うことをやらざるを得ないようだ。
私の中にあるものが何なのか、はじめて知ると思うだけでもワクワクする。
これと同時に、人に伝えていくことにドキドキする。
 
ピリッとした緊張感が妙に心地いいのは、これからを楽しみに感じているからにちがいない。
 
 
 
 
***
 
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2020-06-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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