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「伝わらない」なんて自分が勝手に決めていただけだった


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:Hiroki(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「このフライトに乗りたいけど、もう時間がないんです!!」
強い口調で僕はカウンターの職員にそう主張した。
英語はろくに話せないから、本当にそう言えていたかはわからないが。
 
大柄な女性の職員はよくわからないという顔をして
「あそこの列に並べ!」
と答えた。
 
それでは困るから言っているのに、伝わっていないのだろうか。
搭乗終了の時間まであと10分なのに、あんなに長い荷物検査の列に並んでいたら間に合うわけがない。
 
初めての海外1人旅は、いきなりピンチを迎えた。
 
大学を卒業し、医師国家試験に合格して研修医として働きはじめたのは1年半前だった。
 
知識もある程度ついたし、仕事もある程度覚えた。
だけど、必要なことをわかりやすく伝えることができない。
それでは、1人前に仕事をすることはできない。
 
医者の仕事は診断して、必要な処置をするだけではない。
「伝える」ことは必須だ。
 
現在の状態と治療の内容を患者さんに伝えて、理解してもらう必要がある。
病棟で状態をみてくれる看護師さん、リハビリをしてくれる担当のスタッフに患者さんの情報を伝え、共有する必要がある。
CTやMRIの撮影をする技師さんにも、どういったことに気を付けて撮って欲しいのか伝えないといけない。
 
そうやっていろんな人に「伝える」ことは診療を進めるには必要不可欠だ。
だから、それができて初めて誰かの「主治医」になることができる。
 
しかし、たくさんの知識を教えてくれた大学でもそんなことを教わったことはなかった。
 
それでも上司たちはうまくコミュニケーションをとりながら仕事を進めていた。
周囲のスタッフとちゃんと情報を共有し、患者さんも笑顔になって帰っていった。
 
そういった「伝える」ことが上手にできるようにならない限り、いくら勉強しても「主治医」になって責任を持って誰かを救うことはできない。
 
そんなことはわかっていた。
でも、どうすればいいかはわからないまま毎日が過ぎていった。
 
そんな頃に、研修医もそれぞれ1週間ずつ休暇がとれることになった。
 
友人たちとも予定が合わないので、僕は1人で海外に行くことにした。
ちょうど本で見た氷の洞窟とオーロラが綺麗そうだったから、アイスランドに行くことにした。
 
アイスランドで絶景をみて日ごろの疲れを癒して帰ってくる……。
そんなはずだったが、いきなり行きの飛行機が遅れて大ピンチだ。
 
乗り継ぎ地のフィンランドに降りたときには次フライトの搭乗締め切りまで残り30分を切っていた。
 
しかも、次のフライトが出発するゲートに行くまでの荷物検査には長蛇の列ができている。
 
そこでなんとかインフォメーションカウンターを見つけたときにはすでに残り時間は10分しかなかった。
 
「ここまで来たらもう現地までたどり着くしかない!」
と思い必死に慣れない英語でなんとかカウンターの職員に話しかけた。
 
しかし、うまく伝わっておらず、「あそこの列に並べ!」と言われてしまった。
 
「次のフライトはこれだから、列に並んでいては間に合わない」
と僕は職員に対してなんとか伝えようと話し続けた。
 
子供と思われていたのか、よくわからない英語を話していたからか、周囲からは失笑もあった。
後ろで待っている人は嫌な顔をしていたかもしれない。
 
でも、必死だったから慣れない英語で懸命に伝え続けた。
 
職員は初め怪訝な顔をしていたが、とりあえず困っていることは伝わったのか隣のカウンターの人と一緒に話を聞いてくれた。
そして、なんと言っていたかはよくわからないが、英語で何かを言いながら並ばずに行ける優先の検査場に通してくれた。
 
「Thank you!」
とお礼を言って僕は走って搭乗ゲートへと向かった。
 
結局、僕が彼女に伝えたかったことがどれだけ伝わったのかはよくわからない。
ただ、おかげで僕はなんとか乗り継ぎに成功して、アイスランドにたどりつくことができた。
 
アイスランドでは、氷の洞窟もオーロラも見ることができて、最高の旅になった。
 
それはあのときに「伝える」ことを諦めなかったからだ。
 
「1人だし、英語わかんないし、空港での会話なんて習ったことないから伝わらないや」
そう伝えることを諦めていたら初めての1人旅は行きのフィンランドの空港で終わってしまっていた。
 
でも、必死に「伝える」ことをした結果、何かが伝わったのだと思う。
そしてアイスランドに到着することができた。
 
仕事で自分に足らなかったのはこれだ。
 
懸命に「伝える」ことをしていなければ、伝わらないのは当たり前だ。
懸命に「伝える」ことを続ければ、言いたいことは相手に少しずつでも伝わる。
稚拙な外国語ですらそうなのだから、日本語ならより伝わるはずだ。
 
「伝わらない」なんて自分が勝手に決めていただけだった。
はじめての1人旅は、そんな大切なことを教えてくれた。
 
自分が必死になって伝えなくても、上司が代わりに説明してくれる。
そんな研修医という立場に甘えていた。
 
残りの研修期間は周りに甘えず、必死に自分で「伝える」ことをしてみた。
患者さんへの説明の積極的にして、病院のスタッフとも積極的にコミュニケーションをとるようにした。
 
時には上手く伝わらないこともあった。周囲に助けてもらうことも多かった。
 
でも、決して「伝える」ことを諦めることはしないようにした。
フィンランドの空港で必死に自分の思いを伝えたあの日のように。
 
研修が終わって、これからはいよいよ主治医として患者さんと向き合うことになる。
でも今は、前よりは少しは自信を持って自分の思いを伝えられるようになった。
 
笑われたり、嫌な顔をされたりすることもあるだろうけど、これからも決して「伝える」ことを諦めないようにしたい。
懸命に伝えることを続ければ、何かは伝わるはずだから。
 
そして、また行き詰ったときには1人旅に出てみようと思う。
 
 
 
 
***
 
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2020-06-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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