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子猫が教えてくれた奇跡の力


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:はとみ じゅん(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「申し訳ありません」
子猫が横たわったステンレスの治療代の向こう側に並んだ獣医師と獣看護師が頭を下げた。
 
え、いやだ、待って……。
まだ1歳にもならないのに……。
こんなちっちゃいのに……。
 
わたしは、細いカテーテルに繋がれて、息も絶え絶えに眠っている子猫をみつめた。
 
嘘でしょう?
嘘であってほしい……。
 
子猫の名前はルルという。
その日は、ペットホテルにルルを預けて3日目。
夕方、次の日に迎えに行きます、という電話をしたところ、今先生が治療中なので、30分ほどで掛け直しますという看護師さんの言葉が返ってきた。
治療中?
不審に思いながらも、仕事をしながら、コールバックを待っていた。
 
電話が来た時は既に7時頃。
「申し訳ありません。2日間ルルちゃんのおしっこが出ていないことに気がつかず、今治療をしているのですが、今夜持つかどうか……。本当に申し訳ありません」
 
あまりのことに私は言葉を失った。
 
今夜って……
預けた時はあんなに元気に遊びまわっていたのに……
持たないってどういうこと?
何が起こったの?
どうしたの?
 
雄の子猫に多いらしいのだが、尿管が細いために小さな石などができると詰まりやすく、ただ、尿の量が減るなどのサインはあるものの、猫は本当に腎臓が機能しなくなる最後の最後まで普通に遊んでいることが多いので、見逃してしまうことがあるという。
 
「とにかく、今からすぐ行きますから、待っていてもらえますか?」
夢中で会社を飛び出し、動物病院に向かった。
動物病院は会社から1時間くらいかかる。
泣きながら電車に乗り、一刻も早く着かなければ……と、祈るような思いで向かった。
 
動物病院のドアを開け、治療室に飛び込んだ。
ルルがいた。
いつもはやんちゃでいたずらなルルが、力なく、細い管に繋がれて何も言わずに眠っていた。
「ルル」「ルル!」
 
獣医師の先生が説明をし、そして謝罪し、色々話をしてくれるが、私はルルを見ながら涙が止まらなかった。今日はこれ以上もう治療はできないという。ここについていることもできないという。
 
ちょっと待ってください。
獣医師の友達がいるので、そこに連れて行けるかどうか聞いてみます。
私は友達に電話した。
「クレアチニンの数値は?」
「10.6って言ってる」
「……。そうか。残念だけれど、はっきり言うね。多分今夜持たないと思う……」
「そんな……」「そっちに連れて行ってもいい?」
「連れてきても、同じことしかできないから、動かさない方がいいよ」
 
クレアチニンの数値が、正常値は 0.2 くらいなので、この数値は相当な異常値らしい。
「わかった。」私は力なく返事をした。
そこにいることも出来ないし、帰るしかない……。
 
夜中に親しい友人たちに、「お願いだからルルちゃんのために祈ってほしい」とメールした。
相当おかしいと思われたかもしれない。
一睡も出来なかった。
 
翌日の朝、7時、動物病院に行った。
「数値が6になりました。まだ気を抜けませんが、山場は超えました」
 
あぁ、神様、ありがとう。ありがとう。
ルルはまだ細い管に繋がれて眠っていた。
ルル、頑張って……。
 
ルルは1ヶ月入院した。
 
仕事が早く終わった日、週末にルルに会いに通った。
最初は「ルル」と呼びかけても、少し目を開けてこちらを見返すだけだった。
 
二週間くらいすると、呼びかけると、尻尾を少し上げて返事するようになった。
でも、まだ動けなかった。
 
三週間が過ぎた。
「ルル」と呼ぶと、ケージのそばまでゆっくりゆっくり歩いてこられるようになっていた。
 
そして1ヶ月。
弱々しいけれど、自宅療養が可能になった。
 
まだおしっこ弁(いつでもおしっこが出るようなもの)をつけていたのだけれど、ケージに入れておくのは可哀想過ぎて、家中にオシッコシートを敷きまくり、「ルル、もうどこでもおしっこしていいからね」「どんどんしていいからね」と言った。
床や家具が汚れるなど全然気にならなかった。
 
ルルは、私が自分の責任で初めて飼った猫だった。
ルルは、一生懸命頑張っている。
もうダメと言われたのに、ものすごい生命力で頑張って乗り越えた。
私だって全身全霊で応援する。
 
少しづつ、少しづつ、ルルは元気になっていった。
二週間くらいでおしっこ弁を外した。
しばらくして自分でちゃんとトイレに行けるようになった。
トイレに行けるようになったら、少し走って遊べるようになった。
どんどん元気になってきた。
 
あぁ 生きてくれてありがとう。
本当にありがとう。
 
ルルは、腎臓機能が弱いので、処方食というのを食べることになった。
市販の缶詰やおやつは食べられない。
今後一生処方食以外は食べさせてはいけないということだった。
 
それからも時々、おしっこが出なくなったりして、そのたびに青くなって病院に駆け込んだけれど、でもいつも元気になって帰ってきた。
ルルが私の元気の源だった。
 
去年の夏。
ルルは14歳になった。
ソマリの平均寿命は12歳だという。
 
ルルがご飯もお水も口にしなくなってきた。
病院で点滴をしてもらい、夜は、ルルの横に布団を敷いて一緒に眠った。
最後の最後の明け方、ふと眠りに落ちてしまった私の耳にルルの小さな声が聞こえた。
飛び起きた私の視線の先に、廊下に倒れたルルの姿。
「ルル!」
 
駆け寄って膝に抱き上げた。
ルル、ありがとうね。
がんばったね。
本当にほんとうにありがとう。
 
小さな体で、奇跡を起こし、みんなに元気をくれたルル。
最後まで諦めない強さを教えてくれたルル。
奇跡は起こせるということを教えてくれたルル。
 
ルルは最後ににゃおんと鳴いて、静かに天国に旅立った。
 
 
 
 
***
 
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2020-06-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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