メディアグランプリ

スプーン探しから見つかったこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:菊川美咲(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
知りたかったことがわかった瞬間ほどスッキリ爽快な気分になることはない。
 
つい最近、私はあるスプーンを探してGoogleに検索ワードを打ち込んでいた。
いや、スプーン自体は手元にある。
ステンレス製で、柄(持つところ)がやや長めの、どこにでもありそうなスプーンだ。
口に含む丸くくぼんだ部分のことを「つぼ」というらしいが、特徴といえば、つぼに小さな5つの凹凸がありV字の形に並んでいることくらい。
このスプーンをあと3本買いたいと思ってショッピングサイトで探しているが、なかなか探し当てることができないでいた。
 
そもそも、なぜこのスプーンにこだわっているのかというと、とにかく使いやすいからだ。
持ちやすい。
食べやすい。
食べさせやすい。
食洗器でガシガシ洗っても大丈夫。
 
買ったきっかけは、次男が1歳4か月の時、腸炎で入院することになり急遽必要になった。慌てて大学病院の売店で買ったのだが、離乳食を食べさせるのに大活躍した。
あれから3年以上経つが、私が使うのにも子供が使うのにもちょうどいい。
奪い合うように使うくらいなら、増やせばいい。
我が家に1本しかないこのスプーンを、家族の分も揃えたくなった。
 
しかし、追加購入は思いのほか難航した。
ショッピングサイトの検索欄に
「スプーン 介護用」
と打ち込んでみた。
売店で買ったとき、赤ちゃん用品の棚ではなく介護用品のコーナーで見つけたし、確かパッケージにも「介護」って書いてあったような気がしたからだ。
ところが表示される画像は、柄が緑色のシリコンでできていて太く、首が曲げられるようなスプーンばかりで、私が探しているものとは全く違う。
そうじゃなくって、オールステンレスのもっとシュッとしているものなのに。
 
検索ワードを変えてみる。
「ステンレス スプーン 介護 離乳食」
これでも得られる結果は、さっきとあまり変わらなかった。
うーん、困った。
こんなに見つからないとは。
もっと簡単に見つけられて、コーヒーでも飲みながらサクッと買えると思ったのに。
 
その時、ひらめいた。
現物が手元にあるのだから、Google Lensが使える!
グーグルレンズ、これは写真で撮った画像から検索してくれるアプリである。
テーブルにスプーンを置き、スマホを構える。
このスプーンが買えるサイトが表示されるか、せめてメーカーや名前だけでも判明してほしいと願い、全体が映るようにしてシャッターを押す。
 
「背景が木のテーブルでシルバーのスプーンが映っている」という類似画像がいくつかは出てくるが、探しているものは見当たらない。
もうここまでか……と諦めかけた、が、「全体像の写真ではなくて、特徴のあるところをアップで撮ってみたらどうだろう」と思い浮かんだ。
このスプーンの特徴といえば、つぼについている5つの凹凸だ。
そういえば買ったときのパッケージにも「凹凸が唇や舌を刺激して、食べる動作を促します」といようなことが書かれていた気がする。
 
これが最後の頼みの綱だ。
ぐっと寄ってレンズを向ける。期待を込めて画面をスクロールする。
相変わらずの類似画像のなかに、1つだけ目を引くものがあった。
 
これ! まさにこの凹凸!
 
その画像は、ある方のブログの中にあり、高齢者ケアの研究について書かれている記事のうちの一つに載っていた。
その記事の中で紹介されていて、名前を「emリードスプーン」ということが分かった。
ついに判明した。
emリードスプーン!
 
名前さえ分かれば、あとはもうこっちのものだ。
ショッピングサイトに戻って「emリードスプーン」で検索する。
すると出るわ出るわ。いろんなショップでいっぱい売ってあった。
こうして私は、無事に3本注文することができた。
 
あんなにわからなかったのに。
こんなにモヤモヤしたのに。
手を変え品を変え、ああでもないこうでもないと試行錯誤の末、ようやくわかったあのスプーンの名前。
それが分かったときのあの爽快感といったら!
 
スッキリした嬉しさの余韻に浸りながら、冷めてしまったコーヒーを一口飲んでふと思った。
 
こんな風に、自分の人生も見つかればいいのに。
 
1本のスプーンから人生について思いを馳せることも変な話だが、正直なところ最近の自分はまた迷い始めていることにも気付かされた。
 
私は何がしたいのだろう。何をしたらうまくいくのだろう。
 
学生時代から自己啓発やスピリチュアル、心理学の本などもたくさん読んだ。
セミナーにも行ったり、知り合いに宗教施設に連れていかれたりしたこともある。
転職もして、今のパートで4つ目の仕事だ。
接客など、どれも「人と接する」ことが共通している。
私が本当に「好きなこと」「得意なこと」は何だろうと探し求めて、今まであれこれ手を出してみた。
昔から本が好きだったし、読むのも書くのも苦ではないから「文章を書くこと」じゃないかと思って現在取り組んでいるが、なんだかまだパチッとはまっている気がしない。
もしかしたら「書く」ではなくて、ただ「読む」のが好きなだけなのか。
 
いや、しかし。
恥ずかしながら「書く」ことで形になった成功体験がわずかながらあり、その時の達成感と喜びが心の奥で私をつついている。
あの仕事は自分で考えて書くのではなく、人の話をまとめて文章に仕上げることだった。
それでは「代筆」とか、「編集」とかではどうだろうか。
 
むしろ、全く違う分野に飛び込んだ方が、新しい自分に出会えるかもしれない。
まだそんな勇気もないけれど。
 
もうすぐ40代に差し掛かる。
人生80年として、折り返し地点が見えてくるからこういうことを考えるのか。
今の生活に別段不満があるわけでもなく、毎日を淡々と過ごしていればそれなりに年を重ねていけるのだろう。
だけど。
 
ヒットしなければ検索ワードを変えてみればいい。
レンズを向けて全体でもパーツでも撮ってみればいい。
あれこれやってみて、当てはまらなければ「違うことが分かった」という収穫だ。
 
誰しもスッキリした気持ちで最期を迎えられるとは限らない。
でも、探していればきっと見つかる。
探し続けることが人生なのかもしれない。
 
名前も知らないまま愛着を持って大事に使っていた、あのスプーンが教えてくれたこと。
 
 
 
 
***
 
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2020-06-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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