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人の話を鵜呑みにしないと心に決めた日


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:下田直人(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「先生、今度、工場をひとつ閉鎖することになり、リストラしないといけないことになりました」
クライアントからの電話の第一声がこれであった。
 
私の仕事は社会保険労務士だ。
クライアントの企業の人事労務の法律相談にのる仕事である。
 
つまり、この電話は、工場閉鎖に伴う解雇の相談だった。
私はその質問に対して、「解雇するには手順があって、最初に〜をして、次に〜」と立て板に水のように説明した。
解雇に関する説明はお手の物だ。
 
クライアントは、「先生、ありがとうございました」と電話を切った。その声からは、不安が取り除かれた安堵感を読み取ることができた。
私自身もうまく説明できたことに悦に入っていた。
 
その数日後、このクライアントからまた電話があった。
「先生、弊社の顧問弁護士がこの前の件で、先生と会ってお話がしたいそうです。来週にでもお時間がありませんか?」とのことだった。
 
「どんな話だろう?」と疑問に思いつつも、手帳を覗いた。
聞けば、この顧問弁護士は名古屋に事務所があるという。私は東京にいる。そう簡単に行けるわけでもない。
 
面倒くさいなと思いつつも、なんとか、調整をつけて、名古屋に向かうことにした。
 
約束の日、名古屋に向かう新幹線の中で、私は、何を言われるのかドキドキしていた。
あまり、いい話ではないことはうすうすわかっていた。
ざわざわした心のまま、名古屋駅に着き、そのまま弁護士の事務所に向かった。
 
事務所では応接室に通された。
私を呼びつけた弁護士はなかなか顔を出さない。
わざわざ呼びつけておいて、待たせるとは何事か。私もだんだん不機嫌になってきた。
そして、その不機嫌が顔にも出そうになるころ、ようやく弁護士が現れた。
 
弁護士は、あいさつもそこそこにいきなり、突き刺すような鋭い口調で言い放った。
「あなたは、クライアントがリストラすると言ったら、すぐにその方法を教えるのですか?」
その強い口調に一瞬たじろぐも、心の中で「それの何が悪いのだ。クライアントがリストラする必要があるから、リストラの方法を教えてくれと言ってきているのだ。教えるのが当たり前じゃないか」という思いがむくむく立ち上がってきた。
 
しかし、弁護士は、そんな私の心の中を無視するように続けて、
「あなたはリストラされる人のことを考えたことがありますか?」
「その人の気持ちやその人のその後の人生を想像したことがありますか?」
「それが想像できたら、そんな簡単にリストラの方法など教えられないはずじゃないのですか。」
「経営者は、自分の会社を守ることに必死だから、もうリストラしか方法がないと思っているかもしれないけれど、プロならば、それを鵜呑みにしてはいけないのでないですか?」
「鵜呑みにするのでなく、もっと会社のことを調べて、他の方法はないのかを考え、提案するのがプロの仕事なのではないですか」
と畳み掛けるように言ってきた。
その後も、1時間くらい一方的にそのようなことを言われ続け、私は解放された。
 
私は、帰りの新幹線の中で、怒りで頭がいっぱいだった。
だってそうだろう。
いきなり見ず知らずの人間に一方的に言われ続けたのだから。
 
しかし、東京までの移動時間はちょうどいい長さだったのかもしれない。「人間ずっと怒っていられない」というが、まさにその通りだった。
東京駅が近づくにつれ、だんだん冷静になってきた。
 
すると、突然、「そうか!」と叫びたくなった。
私の中では、社会保険労務士の仕事は、クライアントである経営者の役に立つこと。それは、クライアントが知りたいと思っていることを教えてあげること。望んでいることを叶えてあげることだと思っていた。 だから、「リストラの方法を教えてほしい」と言われれば、それが経営者の望んでいることなのだろうと思い、そのやり方を教えた。
 
しかし、この時に気がついた。本当の望みは、口に出していることとは限らないということを。
 
もっとその奥に、本当の望みがある。そして、その本当の望みは、本人すら気づいていないことも多い。
今回の場合でいえば、本当の望みは、会社が存続することだ。
そのための方法として、経営者はリストラしかないと思っている。
しかし、それはその人が思っているにすぎない。どんな経営者も、本当は解雇なんかしたくない。
その人の口にしていることを鵜呑みにするのではなく、そもそも疑ってみて、その奥にある本当の望みを見つけて、叶えるのがプロの仕事なのだ。
 
東京駅に着く頃には、さっきまでとはうって変わって、弁護士に対して感謝の気持ちすら芽生えてきた。
「ああ、俺は今までなんという間違えを犯していたのだろう」
そんな思いでいっぱいになってきた。
 
そして、何かひとつを悟った気がした。
「人の言っていることは鵜呑みにしてはいけない。人は本当は自分のことがよくわかっていない」と。
 
その日以来、僕の経営者に対する関わり方は大きく変わった。
口に出していることではなく、その奥にあるものを見るようになった。
 
今、私のところに来る多くのクライアントが、「先生と話すと、一人で考えていた時には、気づかなかった物事の本質に気づく」と言ってくれる。
それは、この時の体験があったからなのだ。
 
 
 
 
***

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2020-07-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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