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大人になって気づいた「体育の授業、プライバシーゼロ」問題


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記事:ちゃんなな(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「『体操服忘れました』って言うけど、高橋さん、それ何回目なの?」
一応それまで「優等生」だった小学3年生の私は、初めて先生からきつく怒られていた。
 
私は身体を動かすのがとても苦手だ。
五体満足、目立った病気をせずに育ったけれど、物心ついた頃にはもう苦手だった。
50メートル走が遅かった。逆上がりができなかった。
ボールは投げてもまっすぐ飛ばない。足にもバットにも当たらない。
ハードル走で盛大に転んで作った痣は一生消えそうにない。
一番致命的だったのが、大縄跳びで縄の中に入るタイミングがわからないことだった。みんなで何回跳べたか一生懸命数えているのに、自分のせいで記録が途切れてしまう。
残念そうな空気と、「あなたのことは責めないよ」という配慮の間で板挟みにされてしまうのが、幼いながらも苦しかった。
 
「できない自分のせいでみんなに迷惑がかかる」
焦って練習してみようにも、どうしていいかわからない。
自分とみんなの何が違うのか、先生や他の人に聞くのも怖くて言い出せない。チラチラ周囲を観察するのも気が引ける。
引っ込み思案の私が出した結論は「もう体育の授業はサボってしまおう」だった。
「毎回仮病はできないから、教室移動の前にケロリと『体操服を忘れました』って言ってごまかそう」
当然そんなことは許されなかった。
「私がいると迷惑がかかるから、ほっといてください」
サボりの本当の理由は、先生にも両親にも伝えることができかった。
 
大学生になって「体育」の呪われたコマを入れずに済むようになるまで、体育から逃げられない日々はダラダラと高校3年まで10年近く続いた。
体育から開放された後も、プライベートでもスポーツに近いアクティビティは絶対に断わった。できない自分も嫌だし、周りに気を使われるのもこまるし、うまくできないと迷惑だから。
「歳を取ったら代謝が落ちるのに、このままでいいのか……?」とランニングやジム通いに興味を持ったことがあったが、毎度自分の運動能力の低さに絶望し、全くやる気が起きなかった。
このまま死ぬまで、運動の習慣が身につく余地はゼロかと思われた。
そんな筋金入りの運動嫌いの私がアラサーになった今、毎日の日課としていることがある。
Nintendo Switch のエクササイズゲーム「Fit Boxing(フィットボクシング)」を35分間プレイすることである。
 
フィットボクシングはSwitchのコントローラーを左右それぞれの手に持って、画面に出てくるマーカーに合わせてリズムよくパンチを打つゲームである。ボクシングの動きをベースとしたフィットネスなので、35分続けるとなるとなかなかの運動量になる。
コロナ禍で通勤がなくなり、みるみる体脂肪が増えたことへの対策として「あわよくば、続けばいいなぁ」と思いながら購入したが、1ヶ月以上毎日欠かさずプレイできており、全身のたるみに確実に効果が出ている。
 
なぜ運動嫌いでも、フィットボクシングなら続けることができたのだろうか?
まず、フィットボクシング自体の難易度が低く設定されている。
パンチの動作自体が単純なので習得が簡単なのと、ゲームは約3分おきに軽い休憩をはさみながら進行するので、ランニングのように「つらい!もう無理!」とならずに長時間続けやすいのだ。
だがなにより、「家で誰にも見られず一人でプレイ可能であること」以上の理由はないように思われる。
私が運動、もとい体育が嫌いな理由は「できない自分のせいでみんなに迷惑がかかる」と思ったせいだった。だがフィットボクシングは最初から最後までずっと一人でプレイできる。できなくても困るのは自分だけだし、下手でも身体を動かせば確実にカロリー消費になるから、何も思い悩むことはないのだ。
ジャブ、ストレート、フック……とノリノリでパンチを繰り出しながら気持ちよく汗をかいていると、むしろ体育の授業のあり方がおかしいんじゃないかと思うようになった。
 
算数や国語といった座学では、授業中何を考えていようとばれっこない。先生の話を聞きつつみんなが自分なりのペースで理解して、テストのときに問題が解けるようになればそれでOKだった。
だが体育はどうだろう。初めてやる運動をいきなり他の生徒の見えるところで練習させられる。
できる、できないが一目瞭然。プライバシーがゼロなのだ。
運動が苦手な生徒が「自分、他の人と比べて運動できないな……」と萎縮しやすい仕組みであることは間違いない。
体育以外でも、音楽や図工といった実技系の教科は嫌われやすい。「俺、美術は5段階で2だったから。絵心がないんだよ」といった言い訳を大人になってもよく耳にするのは、このプライバシーゼロ問題が原因に違いない。
 
大人になって自由になれた今、私は毎日「シュッシュッ」とパンチを打つ。
誰かに見せなくてもいい。だから上手でなくてもいい。それでも運動や音楽、工作やお絵かきを楽しむ方法はある。
諦めていたことに挑戦するきっかけと、新しい観点をフィットボクシングはもたらしてくれた。
成績が悪かったことなんて、もう忘れよう。
 
 
 
 
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2020-07-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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