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限りないもの、それは欲望……と


西部さん 限りないもの

記事:西部 直樹(ライティングラボ)

 

初めて井上陽水の歌を聞いたのは中学生の時だった。
田舎の中学生には、なんだかもう、衝撃的な歌だった。
初期のアルバムにある「限りない欲望」を聞いた時、
ああ、井上陽水はなぜ私のことを知っているのだろう、と思わずにいられなかった。

……青い靴を買って喜んでいたら、次は赤い靴が欲しくなった……

自分も子どもの頃、買ってもらった靴が気に入らなくて、ナイフで穴を開けて新しい靴を買ってもらったことがある。

欲望は一つが満たされると、さらにと段階を上げてゆく

中学生の頃だったか、テレビドラマ「時間ですよ」を見て、興奮していたものだった。
銭湯を舞台にしたドラマで、堺正章とか天地真理がでていた。銭湯が舞台なので、女風呂のシーンが必ずあったのだ。その頃、女性の裸がテレビに出ることは普通だった。まあ、血気盛んな中学生は、そのシーンのためにドラマを見ていたようなものだった。

しかし、今では、まあ、そのなんだ、それくらいではなんとも思わなくなってしまったのである。

後年、閾値という言葉を知った。
(【閾値】生体では感覚受容器の興奮をおこさせるのに必要な最小の刺激量。
広辞苑 第六版 (C)2008 株式会社岩波書店)

欲望満たし、興奮する閾値は年々上がり続けていくということなのかもしれない。

最近、関西に出張して、関西にできた新しい大型書店に足を運んでみた。
新しい店は、それはそれは綺麗だし、いろいろと工夫もあるし、だけれど、30分もいたら、飽きてしまった。
前は、本屋に二泊三日くらいいられるのではと思っていたものだったのに。

何が違うのだろう。
大きな本屋さんなので、本はそれはもう売るほどある。当たり前だけど。

あらゆる分野の本が取り揃えられ、本棚の間を回遊するのは、それはまあ楽しい。
おや、こんな本がある、これはまだ買っていなかったなあ。とかとか。

しかし、

つまらないのだ。

楽しくない。
本があるだけでは、本がたくさんあるだけでは、もう満足できなくなってしまったのだ。

大きな本屋さんにいって、ふと思ってしまう。

なぜ、この本屋さんの店員さんは声をかけてこないのだろう。
「どちらからいらしたのですか?」とか「どんな本をお読みになるのですか?」とか「こちらははじめてですか?」とか、とか。

カフェはないのかな。
喉を潤し寛ぎたい。
ソファとか「こたつ」はないのか。

ちょっと小腹が空いたけど、何か食べたいなあ。

電源はないのか。
Wi-fi は使えないの?

どうしてこの棚にこの本が並んでいるのかな、とびっくりさせてくれ。
整然と並んだ本棚は、ある意味つまらない。

本屋だけど、本屋とは思えないようなことしてないのかな。
本を買う以外に、その本屋に行く理由が欲しい!

などなど、なんだか、もっともっと刺激が欲しくなってしまっているのだ。

もうこれは、本屋に対する閾値が上がったというか、変わったというか、刺激のあり方が変わったというか。

普通の本屋さんで楽しめなくなってしまった。

昔、伝説の番組11PMで、女性の上半身が映りそれをこっそりと見ることで、満足していた自分はもういない。
もう、ただあるだけでは、満足できなくなってしまったのだ。

池袋の巨大な本屋さんで、喜々としていた自分が懐かしい。
本があるだけの本屋はつまらない。
本屋に本があるだけでは満足できない、
限りないもの、それは、本屋への欲望~~ なのである。

池袋の巨大な本屋さんの角を曲がり、徒歩5分23秒かかる本屋さんしか、私を満足させてくれなくなってしまった。

 

ああ、もっと本の向こうにある楽しみを下さい。

 

***
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