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がんは一生治らない?


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:川村 紀子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
がんになって一番つらかった時期は、
「がんです」と告知された時ではなく、
外科手術や抗がん剤治療中の時でもなかった。
 
一番はひととおりの治療が終わった後に
「これから10年間、薬を服用する」と言われた頃だ。
更年期障害に似た副作用があると聞くその薬を10年間も服用……
その長さにまずくらくらした。
 
「10年もですか?!」
わたしの声には不満な気持ちがたっぷりとこもっていた。
すると先生はさらっと返した。
「がんは慢性疾患のようなもの。
糖尿病や高血圧のように一生付き合う病気ですよ」
ええええええええ?
 
その時の衝撃ったら。
「が~~~~~~~ん」
わたしは一瞬、白目をむいていたかもしれない。
告知の時はそんなに愕然としなかった。
自分で触ってがんに最初に気づいた時、
「なんじゃこりゃ?!」ってびっくりするくらいに大きくて、焦ったけど。
昔々と違って、「がん」=「死」ではなくなっている。
身近に、がんになって治っている人がたくさんいた。
 
検査を受け、レントゲンにはっきりうつる画像をみたら
「やっぱりそうか」って割と淡々と受け取れた。
わたしの中にむくむくと湧いてきたのは
「子どもたち残して、今、死ぬわけにはいかない!」ってお母さんパワー。
 
自立心旺盛な息子はあまり心配ないけれど、
ダウン症のある娘は大人になっても困ること、誰かの助けがいることがきっとある。
娘が30代になっても、40代になっても必要な時に支えたい、と思ったら涙が出た。
「長く一緒にいたい! 長く一緒にいる。どんなことでもやる。わたしは治る」
肚の底から決意した。力がみなぎった。
 
「目標はしっかり治しきること!」
外科手術、抗がん剤治療、放射線治療
示されたひととおりの治療を終える8か月後、
がんはすっかり無くなり、マラソンでゴールインする時のような爽快感を感じている自分をイメージした。
 
目標を設定したら、あとは実行あるのみ!
治療はどれも体に負担があり、抵抗感もあったし、時々は落ち込んだけど
目標達成のためにこなしていった。
基本的には、ハイテンションで、明るく、超前向きで、愛と感謝と希望にあふれてた。
 
落ち込んだ時は、夫の腕の中に入って彼の心音を聴かせてもらった。
 
ドックン、ドックン、ドックン……
ドックン、ドックン、ドックン……
 
心音は彼が今、生きている、という証。
生きている彼の心音を聴いているということはわたしもまた、今、生きている、という証。
 
「わたしもこのまま何十年もこの心音を体内にならし続ける。
治療の終わる3月にはからだからがんはすっかり抜けてわたしはすっかり健康になる」
そう決意を新たにできた。
 
そして、迎えた3月。
かつらをつけながらも、放射線の影響か変な発疹が出ながらも、時々泣きながらも
家族や友達に助けられながら、治療終了のゴールテープを切ったって思った。
「わたしは治った」って思った。
治療を終え、日常生活に戻れることに感謝いっぱいの気持ちだった。
 
なのに! どうして?!
慢性疾患ってなに?
一生付き合う病気ってどういうこと?!
だまされたような気持ちがした。
 
10年間、薬を服用し続ける。
10年間、検査を受け続ける。
これから10年間、わたしは「がん患者」でい続ける。
そんな長期戦だなんて……
 
毎朝毎晩、薬を飲む時に、がん患者であることをつきつけられている気がして苦しくなった。
蝕まれていくように心が弱って、孤独を感じた。不安になった。悲しくなった。
ヒステリーをおこして、家族にあたった。
1年間、薬を服用した頃、わたしは病院に行けなくなった。
がん患者から勝手に卒業し、薬の服用も止めてしまった。
 
頑なにがん患者であることを自分の中から抹殺して1年ほどたった頃、
乳がん仲間と豊洲にあるマギーズ東京を再訪した。
マギーズ東京は、がんになった人とその家族や友人のための施設だ。
予約なしで、いつでもふらりと訪れることができる。
 
まるで誰かのおうちのような平屋建ての建物は、
窓が大きく開放的な建物、庭やキッチンがあり、大きな木のテーブルや
くつろげるイスやソファがある。
 
医療的な知識のある看護師や心理士が、まるで友達のような雰囲気で笑顔で出迎えてくれる。
自由に一緒にお茶を飲んだり、おしゃべりしてもいいし、何も話さず、一人でたたずんでいてもいい。
大勢の方々の寄付や協力により運営され、訪問者は無料で利用できる。
 
2年ぶりだったかで訪ねてみたら、笑顔で出迎えてもらうだけで、ホッとした。
スタッフの方と聴き上手な友達と一緒に過ごし、
お茶を飲み、甘いものを食べ、とりとめのない話をしているうちに、
気づくと、本音の気持ちをポツポツと織り込んで話していた。
がんの経験を持つことも含めたまるごとのわたしでいてもいいと安心し、
感じていることを脈略なく、自然に出てきた。
あっという間に数時間がたっていた。
行き場のなかった気持ちの数々が心の中から口から出てきて、
太陽の光を浴びて昇華し、風にのって離れていったかのようだった。
心を開放して、話すと、自分から離れ、放れていった。
 
そんな体験をすると、がん患者であることから頑なに逃げていた心がほぐれた。
「がんになって気づけたことは山ほどある。
成長させてもらったことが山ほどある。
治らないことを受け入れよう。がんと共に生きるって事実を認めよう」
そう思ったら、すーーっと楽になった。
 
わたしはまた病院に通うようになった。
一か月に一度は病院に行っている。
薬はあと5年飲む。
一生気をつけながら生きるのだろうけれど
5年後に卒業! のゴールテープを切っていたら、やっぱりうれしいなぁとは思う。
 
もしも、また受け入れがたい気持ち、つらい気持ちがうまれたら、
気持ちを聴いてもらいに出かけるだろう。
話して、離して、とき放ちに。
 
 
 
 
***
 
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2020-07-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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