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メディアグランプリ

しゃべるオムツ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:チエ子(ライティング・ゼミ日曜コース)
※この記事はフィクションです。
 
 
近未来。20XX年。大手オムツメーカー・ポンピース社から新商品が発売された。
 
「いつもありがとね。お疲れ!」
「赤ちゃんのおしりも喜んでるよ。すっきりしたって」
大人気俳優・福山マサアキの甘い声でささやいてくれる。
 
初期モデルはそのように簡単なものだった。
それでも、母親たちは「癒される」という理由で、ちょっと割高なそのオムツをこぞって買い求めた。赤ちゃんがおしっこをすると音楽が鳴る。オムツ替えのタイミングもわかりやすい。
 
だんだんとバージョンアップが進み、便利な半面、弊害も出始めた。
AIと連動し、対話型オムツへと進化していった。
「なんかもう、疲れちゃって……」
「それなのに、オムツ、替えてるんだね」
「だって、マシャの声が聞きたかった……」
「俺も、エツ子に会いたかった。あんまり、頑張りすぎるなよ……」
「マシャ……」
オムツ依存症。オムツだけが話し相手。
世間から取り残されていく焦り。孤独。オムツをよりどころにする女性が増え始めた。
 
「ハナちゃんもぐっすり寝てる。エツ子、今夜、いいだろ……?」
「そうね……」
夫婦がいい雰囲気になり始めた時、音楽が流れる。
妻は、夫を突き飛ばし、布団から飛び起き、ベビーベッドに向かう。
「マシャが呼んでる! マシャ!」
自分の誘いよりもオムツを優先させる妻を見て、夫は怒りを通り越し、何かが冷めていく。「もう、今夜はいいや」
「しゃべるオムツ離婚」は、その年の流行語となり、社会問題にまで発展した。
 
ポンピース社の苦情窓口には、抗議の電話が鳴りやまない。
「妻がオムツと子どもを抱えて出て行ってしまった!」
「パパよりオムツのほうが育児の苦労をねぎらってくれるって! どうなってんだ!」
 
オペレーターたちは、商品開発部に伝えた。
「女性からの苦情も多いんですよ。旦那がオムツを替えたがらなくて、ワンオペ育児に拍車がかかるって!」
開発部は頭を抱えた。
このままではいけない。男性向けにも何かが必要だ。
 
そして、3カ月後。しゃべるオムツ新バージョンが発売された。
袋を開けると、ほんのり、ドルチェ・アンド・ガッバーナが香る。
オムツを替えているのが男性だとセンサーが識別すると、「ありがとう! 助かるー!!」という女性の声がする。「帰りたくない……」なんだかゴミ箱に捨てづらいほど、可愛いことを言う。
スマホアプリで、好きなタレントや声優の声を選ぶ。録音した妻の声でもいい。「母ちゃんの声」もある。夫の実母だ。「オムツかえてるのかい? えらい!」
多くの男性は、妻と一緒の時は妻の声に設定し、それ以外は好みの声で楽しんでいる。
 
しばらくすると、スマホに通知が届く。ポイントが届いたのだ。
おしっこなら、1ポイント。ウンチなら5ポイント。ゆるゆるウンチは10ポイント。
スマホゲームメーカーとタイアップし、ポイントをためるとレアなアイテムと交換できる。脱衣麻雀バージョンもあり、ポイントをためるとお姉さんが画面上で脱いでくれる。男たちは夢中になった。
さらに、「ポンピース・グランプリ」といって、ハンドルネームを登録すると、誰が一番ポイントを稼いでいるか一目瞭然の選手権が繰り広げられている。個人戦であると同時に、都道府県対抗の団体戦でもある。どの県のパパがイクメンなのかを競うのだ。
 
「ハナちゃん、ウンチした? 俺にかえさせて!!」
男たちは競って、オムツを替え始めた。
「パパでちゅよー。動かないでねー。いっぱい出たねー」
すかさず、オムツがしゃべる。「シュン君、優しい! いいパパだね!」
「いやあ、父親ならこれくらい、当たり前さ!」
オムツに褒められ、まんざらでもなさそうな夫。ほんと、単純。でも助かる。
「パパ、私からもありがとう」
台所から、エツ子はシュンに声をかけた。シュンはガッツポーズで答えた。
 
驚いたのはオムツメーカーだ。
 
男は、いい匂いの小悪魔に弱い。お色気に弱い。
ゲームが好き。競争が好き。いくつになってもママが好き。
 
巷で言われている「男は〇〇」を詰め込んだ機能を搭載したものの、まさかこんなにうまくいくとは予想していなかったのだ。
 
シュンとエツ子の夫婦は、二人目を授かった。
「新生児のウンチはゆるゆる。しかも2、3時間おき。ポイント稼げるぞ!」
 
20年後、妻・エツ子は、当時をこう振り返る。
「二人目が生まれたばかりで、昼も夜も2時間おきに授乳、オムツ。寝不足でしんどい時に、オムツは俺に任せろって、取り替えてくれたよね。本当に助かった。ずっと忘れないよ」
 
しゃべるオムツは、日本の男たちをヒーローにした。
 
「赤ちゃんが動くとウンチが手についたりして、大変だったよ。でも、エツ子がすごく嬉しそうにしてくれて、子どもたちも俺になついてくれた。すごくかわいくてかわいくて、やめられなくなったんだ。オムツが、俺を父親にしてくれたのかもしれないな」
 
しゃべるオムツは、今日もしゃべる。家族の幸せのために。
 
 
 
 
***
 
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2020-07-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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