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「給料半分」の転職で得られたもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:木内文昭(ライティング・ゼミ5月開講通信限定コース)
 
 
「分かってはいたけど、手取りが大幅に減るって心が荒む……」
27歳の秋、僕は初めての転職をした。
 
新卒で配属され4年間勤めてきた部署が、社長が変わり全面的に事業撤退することになった。
これまで大企業の部長や役員を相手にしていた仕事から一転、企業の担当者を相手にする仕事に異動となった。
企業の担当者は自分よりも年上の先輩なのに、それまでの仕事で偉くなったかのように勘違いをしていた自分は急に仕事が面白くなくなった感覚がした。
仕事に身が入らない日々が続き、自分はこの環境には合ってないと、段々と燻っている自分を正当化し始めていた。
 
経営大学院に通いながら、経営者の視点で考えろというケーススタディを数多く実施するうちに、「今しかできないチャレンジをしよう。若いうちの苦労は買ってでもしよう」という考えに取り憑かれ、自己正当化に拍車をかけた。
 
転職を決意し、最後にベンチャーの2社で散々迷った挙句、新卒時代のクライアントだった社長の元で、お世話になることになった。
 
恐る恐る、妻に切り出した。
「あのさ、転職しようと思うんだけど」
「え、結婚して1年も立たないうちに転職するの?」
「うん、、経営企画として入社したら、自分の実力を発揮してこの会社を変えられると思うんだ。月の手取りは数万円減るかもしれないんだけど」
「そっか、給料も下がるんだね。でも、やりたいことなんでしょ?」
「うん、そうなんだよね……」
「まあ、良いんじゃない? 私も働いているし、なんとかなるよ」
 
そういって妻にも応援してもらい、ボーナス分も含め給料が半分になることを承知の上で、
27歳の秋、僕は転職することにした。
 
そこから快進撃の活躍が始まる。
はずだった。
 
一応、そのベンチャーでは鳴り物入りの中途入社だった。
経営大学院に通いながら、土日も関係なくがむしゃらに働いた。
なかなか成果が出ない焦りが募り、時間だけが経過していく。
やっと成果らしい成果を上げるのに3ヶ月もかかってしまった。
 
その成果が評価され、年始から会社に大きな影響があるシステム導入の責任者を任されることになった。
経営企画担当として、営業部門と連携をとりながら、そのシステムの導入と組織内でワークさせることがミッションだ。
 
3ヶ月間、四苦八苦しながらシステム導入の成功に向けて頑張った。
が、結局そのシステム導入は頓挫し、社長からストップがかかった。
導入責任者として失敗してしまった僕は、協力してくれた方々に申し訳なく、いたたまれなかった。
営業部門の皆から自分がどう思われているか、気が気でしょうがなかった。
ただでさえ皆が忙しい中、余計な仕事をお願いし続け、3ヶ月積み重ねてきたものが全て無駄になってしまったのだ。
 
その後社長にもう一度チャンスをもらった。以前とは異なる新たなシステム導入を再び責任者として進めさせてもらうことになった。次は失敗するわけにはいかない。
 
営業部門のメンバーには自分のお願いに協力してもらえるだけで、涙が出るほどありがたかった。
当然あまり色々とお願いはできず、必要最低限の依頼以外は全部自分で対応した。
営業部門の皆が段々と協力してくれるようになり、少しずつだけれどもシステムを導入した効果が見えてきた。
 
ようやく会社で動き出したシステムに安堵しつつも、会社の飲み会でもはしゃぐ気になれなかった。
ずっと自分の居場所がない感じがしていた。
 
再度チャレンジの機会をもらって、マイナスの信頼残高がゼロには戻ったかもしれない。
けれど、この環境でも自分は大きな成果を出す活躍ができないのかもしれない、と少しずつ思うようになっていった。
 
転職先でうまくいかない日が続いた中、嬉しいニュースが飛び込んできた。
妻との間に子供を授かることになったのだ。
妻の妊娠がわかり、それはとても嬉しいことだったけど、
一方で悩ましい問題もあった。給料のことだ。
 
転職してすぐ、生活費を切り詰めるために都内から県を跨いで安い家賃の家に引っ越した。
申請した通勤費を節約して、少し遠くから歩いて通っていた。
お昼代もコンビニおにぎりで済ませる毎日だった。
 
それでも最初の会社でもらっていた給与に見合った生活水準を下げることは、なかなか簡単ではなかった。
前職で積み重ねた貯金は底を突きかけていたけど、妻に言うことができなかった。
 
そして、新しい家族が増える。
当然、妻は働けなくなる。
 
二人とも子供が欲しかったから、子供を授かったことは本当に嬉しいことだったけど、
お金の面で手放しで喜べない自分も、本当に情けなくて嫌だった。
 
そんな中で偶然、大学時代お世話になっていた人から「新規事業立ち上げ責任者」ということで
転職の誘いをもらった。
 
本当に、悩んだ。
 
ベンチャーの社長にはお世話になっていたし、まだ期待される活躍も果たせていない中で、苦渋の決断だった。
社長からは当然のように叱られ、それでも何度かに渡って転職の決意をお伝えした。
本当に、申し訳なかった。
 
そこから3ヶ月後に退職が決まった。
経営企画で色々なプロジェクトに携わっていた僕は、膨大な引継ぎ資料の作成と
引き継ぎに追われたが、段々と終わりが見えてきた。
そして、残すところ自分がリーダーを務めていたマーケティングプロジェクトのみとなった。
せめて、このプロジェクトで成果を出して少しでも恩返ししようと、一人決意に燃えていた。
 
様々な部署の人が関わるプロジェクトで、以前迷惑をかけた営業部門のメンバーも数多く関わっていた。
 
辞めることが決まっていたから、それまでならきっと躊躇して言えなかったことも、率直に言うことができた。
 
ただただ、成果を上げることに集中した。
周囲からどう思われようと、関係なかった。
自分の最後の仕事として、責任を持ってやるべきことをやった。
 
すると不思議なことに、関係者が一体となって良い流れが生まれていた。
自分が出すべき成果が、プロジェクトに関わる皆の出したい成果になっていた。
自然と、自分を中心に輪ができ始めていた。
気づいたら、求めていた自分の居場所ができたのだ。
もうあと数週間で退職すると言うのに。
 
そこで見えたものは、自分の実力のなさを環境のせいにしていた、少し前の弱い自分だった。
結局、環境を変えても、変わらないのだ。
結局、変わらなきゃいけないのは、自分だった。
 
周囲の目を気にしながら、自分がどう思われるか? を第一に考えていた自分は、
どれだけ長い時間働いても、成果に向き合うことができていなかった。
成果に向き合わず自分に対する周囲の目を気にしていたから、
成果が出なくて当然だったことに、再び転職する直前に気づいた。
 
今ではありがたいことに、当時の望み通り会社の経営者になった。
以前の転職経験から仕事に関する相談をもらった時にはこう伝えるようにしている。
「結局、転職しても自分が変わらなきゃ、環境は変わらないよ」
 
給料が半分になるチャレンジが自分にもたらしたものは、かけがえのない、真実だった。
 
 
 
 
***

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2020-07-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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