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孔雀みたいになれなくてもいい


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:南園 貴絵(ライティング・ゼミ夏期集中コース)
 
 
「はい、じゃあ順番に自己紹介してくださいね」
そう言われると、心臓が飛び出しそうなほど胸がドキドキする。自分の順番が回ってくるころには緊張で周囲の声がはっきりときこえない。
 
いつからだろう。大勢の視線が一気に集まるのが苦手になったのは。
 
小学生のころには、学芸会でも運動会でも目立ちたくない。お父さんとお母さんがわたしを見てくれていたらそれでいい、と思っていた。
大勢いる合唱団の一員でよかったし、スイミーの赤い魚のうちの一匹でよかった。舞台の真ん中でスポットライトを浴びるなんてもってのほかだったし、運動会の組体操でてっぺんになるのも嫌だった。
こちらから客席にいるお父さんとお母さんが見えて、小さく手を振ったり、目が合ったりするだけで、わたしにはじゅうぶんだったのだ。
 
中学生になると、わたしの「視線が苦手」は一気にエスカレートした。とにかく、周囲の視線が気になって仕方がなかった。
授業中に手を挙げて発現するのも嫌だったのに、合唱コンクールでピアノの伴奏や指揮をやらされそうになったときには全力で拒否をしてなんとか免れた。
進路説明会で、普通科以外の高校を見学した生徒が、学年の全生徒とその保護者の前でスピーチすることになり、300人近くいる生徒の中から代表の3人に選ばれてしまったときには、説明会が中止になることを連日祈り続けた。
 
立候補もしていないのに先生から指名されて、人前に立つことが苦痛で仕方がなかった。本当はやりたかったはずの子たちを差し置いてやらされるのもすごく嫌だった。
「わたしがやりたかったのに」とか
「あんたなんか、ちっとも良くない」と思われるのが怖かったし、実際そう言われたこともあった。
自分の気持ちを置いてきぼりにして注目だけが先走るのが嫌だった。
 
とにかく、できるだけ目立たずにひっそりしていたい。
人の注目を浴びていると気づいた途端に、触れられたオジギソウのようにシュッと縮こまってしまうのはわかっていた。
その度に先生や両親から「もっと堂々としなさい」、「自信をもちなさい」と言われ続けた。どうしたら自信をもって堂々とできるかなんてわからなかった。
 
「こんなふうに感じていると思ったら、変だと思われるかな」
「もっと上手にできる人はいっぱいいるのに」
「みんな、わたしの話なんて興味ないだろうな」
いつもそんなことばかり考えていた。
 
どうしたら、人の視線が気にならなくなるのか。
どうしたら、注目を浴びても平気でいられるのか。
考えて、考えて、考えた。でも、わからなかった。
 
そんなとき、孔雀の羽のことをきいた。
オスの孔雀は羽を広げるときれいな模様が見える。メスの孔雀はあのたくさんの目のような模様を見て、おびただしい視線を感じて恍惚の境地に入るらしい。
たくさんの視線に心を奪われてうっとりするなんて、わたしには考えられないことだった。
孔雀はきっと、あの羽の模様を「美しい」という目でしか見ていないのだろう。「美しい」以外の余計なことは考えていないのかもしれない。そして、より「美しい」羽に心奪われる。
 
「もしも孔雀になれたら、わたしは今より楽に生きられるだろうか」
ふと、そんなことが頭をよぎった。
 
わたしは孔雀のように素直な心で自分以外の人のことを見ていなかった。
「あの人、そんなふうに思ってるんだ。わたしならこう思うのに」
「あの人よりもっと上手にできる人、いるのにね」
「あの人の話なんて、別に興味ないし」
いつもそんなふうに人のことを見ていたから、自分もそう見られていると感じるのは当然のことだった。
そして、いつしか人が自分のことをどう思っているのか考えるのが怖くなり、人の視線が集まるのが怖くなっていた。
 
傷つくのが怖くて、自分で自分を守るために、人のことを批判することばかり考えていた。
自分を省みることをしないで。
 
それに気づくのに、時間がかかりすぎた。
もっと早く気づけていたら、あのころもっと楽しい学生生活を送れていたかもしれない。
 
大人になって、自分が好きなことを勉強するようになってからも自己紹介の機会は度々ある。相変わらず大勢の視線が一気に集まるのは苦手だが、落ち着いて話せることも増えてきた。
仕事で新人研修の講師や会議の司会を務めることになったときも、思ったほど緊張せずにできたし、安心して人前で自分の意見を言えるようにもなってきた。
自分のポジティブな感情もネガティブな感情も受け止め、自分の気持ちを大切にできるようになったから、人のことも受け入れられるようになった。
 
孔雀みたいにはなれなくてもいい。
人の視線が苦手で、逃げ出したい気持ちになることがあってもいい。
目立ちたくなくて、背中を丸めてひっそりしたくなってもいい。
 
いつでも自分のことを受け入れ、人のことを素直に認めることができれば、それだけで昔よりもずっと楽に生きられそうだ。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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