メディアグランプリ

それは言わぬが花の蜜。いわば私は蜂なのよ。


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記事:金子千裕(ライティング・ラボ)

 

――言わぬが花。言わぬが花なんだよ、金子くん。

こう私に教えてくれたのは、誰だったか。大学時代の恩師か、それともマジシャン時代の恩師か。どの道、喋り過ぎる、説明し過ぎる私への忠告だ。

その花からは『蜜』がしたたる。

もうお分かりかもしれないが、それは『秘密』という名の蜜だ。それは『過去』であり『葛藤』であり『ドラマ』である。その甘美な味を知るのは一部の人間だけで良い。

だから正直、天狼院が有名になるのは複雑な心境だった。

冷やしこたつが夕方のニュース番組に取り上げられたと聞いた時、糸井重里さんがご来店されたと聞いた時、本当に気が気ではなかった。経営者である三浦さんには悪いがFacebookの『イイネ!』ボタンを押す時、本当に複雑な心境だった。

私にとって三浦さんは同郷の頑張っている人。応援したい人。さらに言うなら少し年上で笑顔が素敵なお兄さん。

そんな三浦さんは嬉しい事があると「やったー」と少し遠慮がちに、しかし心底楽しそうに小刻みに体を揺らす。その様を見ていると、思い浮かべるとこちらまで嬉しくなる。本当に『イイネ!』だ。イイネ。イイネ。イイネ。百回くらいイイネを押したい。

しかし、その一方で私の心には『あーあ』という気持ちもあった。お気に入りの場所が知られてしまった。人が沢山やって来てしまう。

洋服を選んでいる時、店員さんに「これ、今年の流行なんですよ」と言われた瞬間に買う気が失せるあの感じ。

教えたくない。宣伝したくない。でも、三浦さんが喜んでいるなら『イイネ』

ようは、条件付『イイネ』だ。心からの『イイネ』じゃない。

言い換えれば、蜜の量が減っちゃうんじゃないかとやきもきする。

経営者である三浦さんが口外出来ない色々なプロジェクトを抱えているのは当たり前だ。経営者がポロッと(もしくはわざと)口を滑らせるのは社会人にとっては常識だ。

だから、三浦さんが『実は……』とイベントの参加者に水面下で進行中のプロジェクトについて漏らすのはまだ想定の範囲内だ。

しかし、ラボや部活の参加者もまた何かしらの秘密や過去『ドラマ』を抱えている。蜜を湛えている。それが天狼院だ。

他人との交流、それが天狼院の醍醐味の一つだ。それが出来なくなるんじゃないか? そんな疑念を抱いた。

2015年9月30日水曜日のライティング・ラボ。平日にもかかわらず東京天狼院は人で一杯だった。本と人とで空間が満たされていた。

こんなにぎゅうぎゅうじゃあ、学ぶどころか秘密の一つも聞けない。私はそう思った。

しかし、三浦さんの口は落語家のように回る回る。

必殺の『ここだけの話』も炸裂する。

ここまでは良い。大切なのはここからだ。同じ講座に参加した隣人たちと協力して三浦さんから出されたお題をこなす。言わばラボで学んだ成果の発表に向けて班(たしかコジナツさんが分けてくれた)ごとの話し合いが始まる。

私は一気呵成に課題を書き上げ、カウンターに向かった。

「シンハーを1本。いや、2本」

他人から話を聞くには、自ら率先して話をするしかない。

そう考え私は酒をあおった。酒は機械油だ。緊張や重い気持ちで滑りが悪くなった口を動かすために射す。

一本目を開けた時、三浦さんが声を掛けてくれた。

「金子さん。終わったの?」

この時、私は何と答えただろうか? たぶん「はい」とか「ええ」とか答えたと思う。全く覚えていない。それくらい緊張していた。

そして見知らぬ『同じ班の仲間』との話し合いが始まる。

この『班分け』というシステムが良かったのだろうか。みんな『実は』と自分が今日、ここにやって来た理由を話し始めた。なんて素晴らしいドラマなんだろう。なんて素晴らしい人生なんだろう。私のテンションはどんどん上がってゆく。

しかし、ああ、私は馬鹿な事をした。

お題をこなす事に囚われ大切な事をしなかった。天狼院のイベントなのに、なぜここに来たのか。そして、なぜここでなければいけないのか。それがすっかり抜けていた。

格好つけたかった。

上手いこと言おうとした。

それがいけなかった。

自らを語るはずが、他人を貶めて笑いを取るようなゲスい感じになってしまった。

男女の関係に一目惚れがあるように、友人関係にも一目惚れはある。

私は、格好つけようとしたあまり格好悪くなっていた。

大人になると友達をみつけるのは大変になる。

でも、天狼院でならあの頃に戻れる。

部活。本当に学生時代のあの文化部独特のちょっとゆるめだけれど、結構真剣で……あの何でも新鮮に思えた時代に感性を戻せる。

友達が見つかる。なのに……やっちまった。

周囲を見渡す。

みんな、目をきらきらさせて自分の事やアイディアを語っている。

私は自分の小ささを実感した。蜂のように小さくて蜜を取られまいと針をちらつかせていた。

自分が利用しづらくなる。入りにくくなる。そんなのは杞憂で、せせこましい虫の考え方だった。

天狼院の器は私の勝手な推測よりずっと大きかった。たぶん、あの建物よりもずっと大きくて、大きくて……時には宙にも届くだろう。

次は心底、三浦さんに『イイネ』と言える。そんな気がした9月の終わりだった。

 

***
この記事は、ライティングラボにご参加いただいたお客様に書いていただいております。
ライティング・ラボのメンバーになり直近のイベントに参加していただくか、年間パスポートをお持ちであれば、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

 

 

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2015-11-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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