メディアグランプリ

レトルトご飯は愛情である


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記事:三浦加織(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「これどうやって食べるの!?」私はのけぞった。
私が勤めている会社には休憩室なるものがあり、そこで社員が休憩したり、買ってきたお弁当などを食べたりする場所がある。そこには多種多様な自動販売機があり、飲み物だけではなく、パンやおにぎり、冷えたプリンなども売っている。
その自販機に、今日、サトウのご飯とレトルトカレーが導入されていたのだ。
私がのけぞったのは、「レトルトカレーは、お皿に盛られたご飯にかけて家で食べるものじゃないの?」と思っていたからだった。
 
ところで先日、「ポテサラ」論争なるものがTwitterで話題になっていた。
あるスーパーで高齢の男性が、ポテトサラダを買おうとしていた幼児連れの女性に、「母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ」と、言い放ったとのことだ。
この論争では、高齢世代の男性にはまだ、「母親とは子供の為に毎日手料理を作るもの」という偏見がある、というようなことが取りざたされていた。
このような、母親が子供に出来合いのおかずを食べさせてよいのか、という論争は、この女性総活躍時代のご時世でも、時々トピックに上がったりする。
世の中には、母親の愛とはこういうものだ、こうあって欲しい、という神話のようなものがあるのだろうか。
 
私は仕事で帰りが遅いので、晩ご飯に子供がレンジで温めて食べればいいように、作ったおかずをご飯に乗せ、丼にして冷蔵庫に入れる。それが私の料理であり、毎日の日課だった。
いかに自分のご飯作りをラクにするかを考えているので、冷凍食品やスーパーで買った出来合いのおかずを出すことにも何ら抵抗はなかった。
息子たちも、平日毎日このような丼ご飯を食べているので、日本の食卓で見るような、一汁三菜が並んでいなければならない、という固定概念もない。
ただそれでも、せめてお米くらいは家で炊いたのを置いておかないと、と私にも少しの罪悪感があったのは否めなかった。
 
私は疲れて化粧も落とさず床で倒れるように寝てしまうことも、月に一度や二度ではない。
そういう時でも、「あ、ご飯作らなきゃ!」と強迫観念からか夜中に目を覚まし、いそいそと料理を作ることが殆どだ。
冷凍食品やレトルトを駆使しているとはいえ、それでもとても苦痛だった。さらに、米を炊いていなかった時のがっかり感と言ったらなかった。
このご飯づくりさえなければ! と眠い目をこすりながら、毎回恨めしく思うのであった。
 
思い起こせば私自身も若い頃は、食事とは親の手作りの温かいご飯を食べるもの、という固定概念はあったと思う。
それを覆したのは、アメリカに留学したホームステイ先での経験だった。
 
ホームステイをしていた家庭では、基本的に三食ご飯を作ってもらっていたが、時々見たこともない料理を出されることがあった。
ある日ランチを持たされた時のことだ。
薄いサンドイッチから何やらカラフルな色のものがはみ出ていた。恐る恐る掴んで開いてみると、ピーナツバターを塗ったパンにジェリービーンズが数個挟まっていた。
「先生! ステイ先のマザーがパンにジェリービーンズなんか挟んでるんだよ!」とびっくりして言うと、先生は、「何で問題なの? これはアメリカではとてもポピュラーなサンドイッチで、栄養もデザートもいっぺんに摂れるし、私も子供の頃から大好きな食事だよ!」と、むしろそんなことを言う私にびっくりしているようだった。
栄養的には首を傾げるものがあったが、その時初めて、アメリカではこれは料理だ、と堂々と提供する代物なのだと知ったのだった。
 
他にも、ランチバックに入るものも様々だったが、折ってあるセロリ数本とジャムだけ、とか、りんご1個と小さなスナック菓子の袋だけ、チーズとパン1つずつだけ、など、どれも火の通っていない、買って来ただけの簡素なものばかりだった。
まだ若くて食べ盛りだったので、正直「これだけ?」と思うことはあったが、その頃から、料理とは手作りで火が通ったものだ、という固定概念はなくなっていったように思う。
 
このような食生活でも、アメリカのその家族や知人たちは、毎日私よりもパワフルで楽しそうに生きていた。
そのような様子を見るにつけ、料理とは、栄養バランスを考えて、とか、作る、作らないなどで悩むよりは、楽しくお腹が満たされればそれでもいいのではないか、と思うようになっていった。こうあるべきもの、というものはないのだな、と。
 
「料理は愛情」というのが決まり文句の料理家がいた。
家族の健康を考え、喜ぶ顔を浮かべ、せっせと料理する。それも愛情だ。
でも時々それが、作る側のエゴになっていないか、と思うこともある。
 
仕事帰りに急いで買い物をし、夜中にせっかく作った料理を、「美味しくない」「もういらない」と、子供に文句を言われたりすると、腹も立つからだ。
皮肉にも息子たちは、私が必死に作ったご飯よりも、コンビニのお弁当やカップラーメンを、「うまいうまい」と笑顔で食べやがるのだ。
 
その笑顔を見るにつけ、「あなたのためを思って作ったのに、文句を言うなんてなにごとだ!」とか恩着せがましく言うのは私のエゴなのだよなあ、そんな風に怒るよりも、何も作らないけどニコニコしているお母さんの方が良いに決まってるよなあと、ステイ先のマザーを思い出す。
彼女は、ジェリービーンズサンドイッチでも、セロリ数本でも、毎日笑顔でハグして、「Take your lunch!」と自信たっぷりに持たせてくれていたのだから。
 
食事とは、手料理でも温かいものでなくても良い、ましてや親の愛情の尺度を図っているものない。
そんなことを、休憩室のレトルトご飯を見て、固定概念はいかんな、と改めて思い直したのだった。
手料理かどうかなどとは関係なく、何より家族が元気で笑顔でいてくれるのを願えれば良いのだ。
母親の愛とはこういうものだ、こうあって欲しい、という家庭料理の神話のようなものには、もう惑わされないでいこう。
 
だから、明日から堂々と、手抜きだろうが冷えたものだろうが、便利なものは愛情を込めて取り入れることにする。
愛情を込めて、レトルトのカレーとレトルトのご飯をテーブルにドンと置いて、私は笑顔で仕事に行こうと思う。
 
 
 
 
***
 
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2020-09-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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