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メディアグランプリ

年賀状とおままごと


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:三城 詩朗(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
早いもので、今年も11月が終わろうとしている。家で一人仕事をしていると、インターホンが鳴った。
 
「お届け物でーす」と、小さな画面の中で郵便屋さんが叫んでいる。
荷物が来る予定なんてあったっけ、と思いながら玄関を開けた。手渡されたのは印刷会社からの小包だった。以前頼んでいた年賀状が出来上がったのだ。
私は仕事を一休みして小包を机に置いた。包みを前にして、私は先日の飲み会を思い出していた。
 
新卒で入った会社の同期たちとの飲み会だった。遅れて参加した私は席に着くなり、目の前に座っている同期が離婚したと知らされた。
彼とは仲が良く、大阪の高級ホテルで開かれた披露宴にも呼んでもらった。二次会では、無い知恵を絞って考えた余興も披露した。そんな彼から離婚したと突然聞かされて、私は言葉に詰まった。
結婚式で見た新郎新婦は、どう見てもお似合いのカップルだった。学生時代からの付き合いだと聞いていた。二人が一緒に過ごした年月は、10年を軽く超えていたはずだ。
 
苦いビールを喉に流し込んでいると、その同期とやり取りしている年賀状のことが頭に浮かんだ。毎年、彼ら夫妻と子どもの写真がプリントされていた。
私は、あっと思った。そういえば今年の正月は、彼から年賀状が来なかった。
年賀状は、1月の終わりにやっと我が家に届いた。それまでと違って、写真がないイラストだけのものだった。どんな事情があって写真がなくなったのか、私は気にも留めていなかった。でも、そのころ彼の家族はばらばらになっていたのだった。
 
「子どもは奥さんが連れてったよ。別れてからあんまり会ってない」と彼は言った。
「養育費って、毎月払ってんの?」他の同期がずけずけと尋ねる。
会社に残っている同期たちの間では、彼の離婚は周知の事実らしかった。転職して疎遠になった私が知らなかっただけのようだ。遠慮なく彼をいじる周囲の明るさと、離婚をネタにする元気が本人にあるのが救いだった。もっとも、彼が内心どう思っていたのかはわからないが……。
 
このご時世、統計的に離婚は珍しくないはずだ。しかし、身の回りの人が離婚するのは初めてだった。
私にとって「養育費」とは、小説やドラマに出てくるものだった。その養育費を、目の前の同期は別れた奥さんの銀行口座に毎月振り込んでいるという。それまでフィクションの世界の存在だった離婚というものが、実体を持って私の後ろにひっそりと立っていた。
何かを始めるよりも、何かをやめる方がエネルギーがいると私は思う。あっけらかんと離婚について語る同期は、恐らく私には想像できない苦しみや悲しみを経験したに違いなかった。
会話に乗り切れない私をよそに場は盛り上がり、別の話題に移っていった。
 
年賀状の小包を前にそんなことを思い出していた私は、リビングの床に転がっているぬいぐるみに視線を落とした。
床にはおもちゃが散らばっている。3歳の長女が昨日からほったらかしにしたままだ。
 
私はたまに、「家族」はおままごとみたいだと思うことがある。
 
娘は、ぬいぐるみや人形を集めて家族を作り、おままごとを楽しんでいる。
大勢の中から娘の気まぐれで集められたおもちゃたちは、家族になってごはんを食べたり遊んだりする。そのあと、彼らは引き出しの中で一緒に眠ることもあれば、ばらばらに捨て置かれることもある。
その時々の思い付きで即席の家族を作る娘を見ていると、何だか神様みたいだなあと私は思う。
 
世の中には数えきれないほどたくさんの人がいる。その中で、何の因果か私と妻は夫婦になり、娘と息子が生まれて四人で暮らしている。
夜、妻と二人の子どもの寝顔を見ながら、不思議な気持ちになることがある。なんで私たち四人は今一緒にいるんだろう、と。
生まれてから無数の分岐点を経た結果、私たちは同じベッドで寝ている。ちょっと違う選択をしていたら、一緒に寝ているのは全然違う人たちだったかもしれないのだ。
それは、お互いの両親にも言えることだ。そして祖父母にも、曾祖父母にも……。自分の家族が、膨大な分岐を持つ大きなツリー図の端にぶら下がっているような、儚い存在に思えてくる。
 
あるいは、これは何かの夢で、朝起きたら独身に戻っているんじゃないだろうか。そんなことを想像して、時々私は不安になってしまう。
もちろん、目が覚めても私たち四人は一緒にいる。寝相の悪い長女が、寝た時と全然違う場所にいたりはするけれど。
 
年賀状の包みは、出かけていた妻の帰宅を待って一緒に開けた。
なかなかの出来栄えだった。デザインを決めてくれたのは妻だ。家族の写真入りの年賀状を眺めて、妻はニコニコしていた。
 
私はまた同期のことを思い出していた。
離婚は、決して悪いことではないと思う。というより、善悪をつけられるような問題ではないのかもしれない。彼と奥さんは、きっとより良い状態になるための一歩を踏み出すことを選んだのだ。
それはとても難しい選択だったに違いない。自分だったら、そんな選択をしながら仕事をしたり、日々の生活を送ったりできるだろうか。私は同期のことをすごいと思った。
 
自分が、これからもずっと家族と一緒に暮らしていけるという保証はどこにもない。
今日好きな家族のことを、明日も好きでいられるかどうかはわからない。妻と子どもたちが私を好きでい続けてくれるかどうかもわからない。
でも、少なくとも今のところは、私は家族と一緒にいて幸せだ。妻と子どもたちも、そう思っていてくれるといいなと思った。
 
生まれてから数えきれない選択を積み重ねた結果、私たち家族は一緒にいる。神様なのかご先祖様なのかはわからないが、私は家族に出会わせてくれた誰かの見えざる手に感謝した。
これからも毎年きみたちと一緒に写真を撮って年賀状を作りたい。出来上がった年賀状を見ながら私は思った。
 
 
 
 
***

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2020-12-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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