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メディアグランプリ

キューバにありて君は何を思うのか


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:東ゆか(リーディング・ライティング講座)
 
 
初めにことわっておくと、私は今からおすすめする本のタイトルをあまり教えたくありません。私と同じ様に、そうと知らずに読み始めて「こんなことが書いてあるなんて!」という体験を皆さんにもしてほしいからです。
 
え? ネタバレしなきゃいいじゃないかって?
 
よくありますよね。帯に書いてあるやつ。
 
「まさかのどんでん返し!」
「ラスト1ページ、涙が止まらない!」
 
たしかに読後「まさかのどんでん返しだったー!」「ラスト1ページ涙が止まらなかったー!」となることはあります。でもそれって「最後にどんでん返しがあるんでしょ?」「ラスト1ページで感動するんでしょ?」という心持ちで最初から読んでしまうので、広義のネタバレのような気がしてしまうんです。
 
だから今からご紹介する本のタイトルは教えません。本屋で偶然出会って「ふーん。ちょっと読んでみようかな」という気持ちで読み始めてほしいのです。文春文庫です。犬の表紙が目印です。なんならこの文章も読んだそばから忘れていただきたいです。
 
私からのおことわりは以上です。
 
*  *  *
 
その本を読んでみようと思ったのは「キューバに行ってみたい」という気持ちを、ひとまず本を読むことで収めておくつもりだったからだ。
 
大学生の頃にバックパッカーに憧れた私は、自分で飛行機に乗るでもなく、mixiの一人旅コミュニティのオフ会に参加し、色んな人の旅の思い出を聞くということで旅欲をごまかしていた。そんなときにこんな会話を耳にした。
 
「社会主義の国へ行くと神経が研ぎ澄まされるんだよね」
「分かる。物が少ないからだよね」
 
ということは物で溢れている日本の街中では、神経が研ぎ澄まされることはないということなのだろうか。「だろうか」というか、自分のことを省みると、確かに街にいるときに神経が研ぎ澄まされることはない気がする。
 
「物が少ないことで神経が研ぎ澄まされる」
 
そんな体験に憧れて、旅人たちの口から出た国へ憧れを抱くことになった。
 
「キューバとかね」
 
そんな話は10年も前のことで、未だにキューバには行っていない。実際キューバがどんなところなのか、漠然と憧れを抱くだけで大して知りもしなかった私は、いよいよキューバについて何か本を読んでみようと思った。
 
「キューバ 旅行記」
 
そう検索窓に入力して出てきたのは、読書家で有名なお笑い芸人の書いた旅行エッセイだった。お笑い芸人の書いた本なら、きっと面白おかしくキューバのことを語ってくれるに違いない。
 
その旅行記はキューバという国がどういう国なのかまったく知らない私にとってイメージ通りだったり、へぇそうなんだ! と感心することばかりが綴られていた。さすがのお笑い芸人なので、キューバのとぼけた人たちへのツッコミが冴え渡り、クスリと笑えてしまう。
 
テレビでは人見知りで斜に構えた人柄で有名な筆者が、キューバの明るく開放的な空気の中でのびのびとしている様子が微笑ましい。筆者と同じく、人前で上手く弾けられない私もつられて嬉しくなってきてしまう。
 
3泊5日のキューバの旅もいよいよ終盤に差し掛かったとき、文字を追う目がスローになった。突然始まったぽつりぽつりとした会話文に違和感を覚えたのだ。
 
「あれ? 一人で歩いているんじゃなかったけ」
 
筆者は一人でキューバの町中を歩いているはずだ。誰と会話をしているのだろう。
読み進めた章の最後。
 
「なぁ、××」
 
筆者が心の中で話しかけている相手に呼びかけた。そこで筆者が誰と話しているのかを理解した。
 
そこから堰を切ったように、筆者がなぜこの旅に出たのかその真意が語られる。そして今まで綴られてきた自由で開放的な旅の中で、筆者が何を、誰を思い続けてきたかが露わになる。
 
あとがきでは、これまでバブルが弾けた日本の、東京という街の中で、筆者が何を思い、何に苦しみ、何が分からず生きてきたかが綴られる。筆者自身を、そして目に見えない社会を殴るような文章だ。
 
その言葉たちは、私が、そして読者の多くが、これまで頭に浮かんでも口に出せなかった言葉たちではないのだろうか。そんなことを口に出してしまったら、笑われる。いい歳した大人でしょう? 青臭すぎるやしないか? そこそこ楽しく生きてきて、この国の、社会の仕組みの恩恵を十分に受けてきたじゃないか。それを否定するのか。
 
キューバでの楽しい旅行記は、筆者が本当に打ち明けたかったこれらの思いの前振りだったのだ。何かを強烈に思いながら、言葉を飲み込みながら旅をしていた筆者が、キューバの明るい太陽の元、やっとそれらの思いを吐き出せた。そんな気がして、その絞り出された文章の切実さに、自然と涙が溢れてきてしまった。
 
「ものが少ない国で、人は何を思うのか。街中で神経が研ぎ澄まされるというのはどんな感覚なのか」
 
それが私がこの本を読んでみたいと思った理由だ。その答えは、筆者が吐露したように、日頃、日本で暮らしていく中で本当は何を思い、何を求めていて、何が苦しいのかを知るということなのではないだろうか。
 
今まで私が社会に感じていたもやもやとしたものを、キューバで感覚を研ぎ澄まされた筆者に教えてもらうことができた思いがした。
 
楽しいお気楽なエッセイを求めていたのに、まさかこんな気持ちになるなんて思ってもみなかった。
 
とはいえ泣いた分だけ、思わず声に出してひぃひぃと笑えるのもこのエッセイの大好きなところだ。切実な吐露と、面白おかしい旅のエピソードにおおいに感情を振り回されてほしい。
 
タイトルは教えないけどね!
 
 
 
 
***
 
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2020-12-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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