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10年毎日1日2行日記


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:田村 彩水(平日ライティング・ゼミコース)
 
 
よく離婚原因でみかける言葉、「性格の不一致」。
私たち田村夫婦はというと、必ずしも性格は一致していない。
 
私はとにかく飽きっぽい。
毎日決まったことをやるのが大の苦手だ。
並行して読みかけの本が常に3冊以上あるし、自粛期間中に始めた刺繍もヨガの本も、今や押し入れの中で爆睡中だ。
 
対して夫は、とにかくマメである。
コツコツとルーティンをこなすのが得意だ。
3日に1回は平日だろうが10㎞ランニングをするし、私が早々に辞めてしまったヨガとプランクを、今でも必ず毎日やってから床に就く。
 
夫は地道な努力の甲斐あって、最近うっすらと腹筋が割れてきた。
私のお腹はというと、従来と変わらずぽちゃぽちゃだ。
お出汁を吸ったはんぺんみたいな自分のお腹と、洗濯板のようにシャキッと引き締まった夫のお腹とを見比べる度に、努力に勝る才能はないよなぁとつくづく思う。
 
そんな、はんぺんと洗濯板くらい体型も性格も一致してない私たちだが、毎日ボコボコにやり合っているのかと言えばそうでもない。
おかげさまで日々穏やかに過ごしている(と私は思っている)。
 
うまくやれている理由としては、登山という共通の趣味があることも確かに大きいが、毎日一緒にやっているある習慣も、とてもよい効果を発揮していると思う。
 
10年日記である。
 
10年日記とはその名の通り、10年分の日記をしたためることのできる、厚さ5㎝くらいの極厚の日記帳である。
重さはずっしり、1㎏くらいはあると思う。
 
今年の3月に結婚式の準備で京都を訪れていた際、打ち合わせの時間までの暇つぶしにふらりと立ち寄った蔦屋書店で、私たちはそれを見つけてしまった。
平安神宮の朱い鳥居のような、うっすらと黄味がかった赤い布張りの表紙。表には金字で薄く「2020-2030」とだけ控えめに記されている。
そのシンプルな佇まいに、私たちは一目惚れしてしまったのだ。
 
「なあ、これやってみいひん?」
 
どちらからともなく、声を掛け合った。
 
こうして我が家にやってきた赤い日記帳。
ぺージをめっくてみると、見開き左上に大きく「4/1」と記されている。縦1.5㎝くらい毎にうすくグレーの横線が引っ張ってあり、上から順に、2020 水、2021 木、2022 金……と、年と曜日が記載されている。
毎年の4月1日について、最初の年(つまり2020年)を1行目、次の年(2021年)を上から2行目、という風に、一段ずつ横に書いていく形式だった。
パラリと1枚ぺージをめくると左上の文字は「4/2」、次のページは「4/3」と変わっていく。つまりページをめくるごとに1日が経っていく。
 
今はまだ染みひとつないただの白いページだが、10年後には、10日分の4月1日の出来事がぎっしりと見開き一面に並ぶはずだ。
まだ何の物語も編まれていない、まっしろな一冊の本を目の前にして、これから書き記されていく様々な日々の出来事を思って、心がぽうっと熱くなった。
 
せっかくなので、私たちは見開きの左側のページを夫、右側を私が書いていくことに決めた。
そしてページの最初の2020年4月1日から、スタートした。
 
さて、ここでおさらいだが、私はとても飽きっぽい。
3日坊主と書いてルビは私の名前であるといっても過言ではない。
ところがこの日記帳だけは1日も欠かさずに続いている。ヨガも刺繍も続かなかったのに、毎日毎日、2行ずつ、何でもないことを思うがままに書いている。
もちろん、旅行のときなんかは、この極厚の日記帳を持ち歩く訳にはいかず、帰ってきた後に何日かまとめて書いたりはする。
だが、抜けている日は1日もない。
書くことがとても楽しいのだ。一日が積みあがっていく充足感。
2020年4月1日から、今日この日の2020年12月14日まで、毎日途切れることなく、日々は続いている。
 
書き始めて一番大きな発見だったのだが、何の変哲のない日でも、意外と何かしらは書くことがあるということだ。
在宅ワークで首が痛いとか、何かを作って食べたとか、世の中にこんなニュースが流れていたとか、本当に何でもないことだが、その日その瞬間にしかなかったものが、何かはある。
 
そして、日記を読み返したとき、また更に新しい発見がある。
ああ、このときそういえばこんなことがあったなぁ、とか、あれをしたのってこのときだったんだ、とか、日記を書いている当日の、出来事そのものへの気づきとは違う、年月を経て振り返るからこその冷静な感想が、懐かしさという甘い感情を伴って沸き起こる。不思議なことに、書いてある出来事が何の変哲もないものであればあるほど、その感慨は濃くなるように思う。
 
4/5
2020 日
(夫)
自粛モードで家でのんびり。たまにはこういう日もいいね。
 
(私)
結婚式延期を皆に電話。涙が出てきた。弟から久々に電話が来た。やすひら(友人)とも話した。キャンセル料なんとかならんかなあ……
 
今となっては懐かしい、世の中にコロナ自粛のムードが拡がり、数日後の結婚式延期を決めた翌日の日記である。
夫の切り替えの早さと、私のぐずぐず感との対比が光る1日だ。
この日は1日ふたりでずっと一緒にいたのに、日記の上に表出されるとこんなにも違う。ここでもはんぺんと洗濯板が発揮されている。
こんな風に、同じ時間を過ごしていたとしても、互いの捉え方や感じ方が全く違うということを感じさせてくれるのもこの日記の面白いところだ。
 
5/11
2020 月
(夫)金沢マラソン中止決定。目標を失った。落ち込んだ。彩水さんが励ましてくれた。
(私)人を試すクセはよくないと分かってはいるよ。
 
この日なんかは全く噛み合っていない。
お互い、なんか落ち込んではいるようだが、理由がおそらく全然違うっぽい。
このときはお互い真剣に気落ちしていたのだろうが、今となってはただ懐かしさが残る。
 
こんな調子で1日、また1日としたため続けていたら、いつの間にか日記を始めて8か月
が経っていた。
ブックマーカーを挟むと、3分の2以上になる。
薄い紙1枚分の日々を重ねて、こんなにも分厚い日々を過ごしてきたのかと、眩しい気持
ちになる。
 
日記は虫眼鏡のようなものだと思う。
一見ただそこいらじゅうに降り積もっているありふれたただの雪でも、それを通すとたち
まちあの美しい六角形の結晶によって形作られているという美しい事実を見せてくれる。
ただのありふれた日常の、儚い美しさや愛おしさをふと見せてくれる。
ときたま見返すことで、この積み上げた日々が私たちにはあるのだな、と何だかわからない
が背中を押されたような気分になる。
 
お腹が痛いときも、食べ過ぎるときも、悲しくてやりきれないことも、きっとこれからも沢
山あると思う。それらも一枚ずつ薄い紙に綴って、ページを進めていければと思う。そうし
てお互いと、お互いのいる日々を大切に慈しむ心を持ち続けていたい。これからもはんぺん
と洗濯板の物語は続くのだ。
 
 
 
 
***
 
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2020-12-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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