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メディアグランプリ

究極の「望み」


*この記事は、「リーディング・ライティング講座」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:井口恭子(リーディング・ライティング講座)
 
 
私がその本を手に取ったのは、自分が趣味で書いている小説を書き上げた直後のことだった。情けない話なのであるけれど、自分の小説を書いていると、あまりの下手くそさに、頭痛がして、吐き気を催してくる。息苦しい。そんな時、プロの作家の作品を読むと、それが嘘のように解消されるのである。
 
「望み」を見つけたのは、どこかのネット書店のサイトだった。映画化になった話題の作品らしい。本自体は、約4年前に発売されている。作者は、あの雫井脩介さん。好きな作家の一人である。
「試し読みができますよ」という、その言葉に乗ってしまった。パソコンの画面で、60ページほどが無料で読むことが出来たと思う。とにかく面白い。もう1ページ目から、何も事件が始まる前から、面白いのだ。案の定、60ページを読んだ時点で、読むのを止められなかった。雫井さんの読みやすい文体、先へと読ませる見事な構成。どうしても続きが読みたい。時刻は、そろそろ次の日になろうとしている深夜のこと。明日、本屋さんに行く時間も待てない。もちろんアマゾンでポチって本が届くのを待つのも、もどかしい。そう、今読みたいのだ。いつの間にか、私は、電子書籍の購入ボタンをクリックしていた。今夜はきっと眠れない。
 
ちなみに『望み』は、夜寝るのも惜しいほどの楽しくて面白くてワクワクするような小説ではない。逆である。こんな夜更けに読んだら、間違いなく気持ちが暗くなるであろう“少年犯罪”を題材にした作品である。本の紹介にも書かれている「自分の息子が、少年犯罪の加害者であるのか、被害者であるのか」という究極の問題だ。加害者、つまり息子は、殺人犯ということ、また被害者、それは息子が殺されたことを意味する。こんな残酷な選択があるだろうか。
主人公である両親は、息子の無罪を願う父と、有罪であっても生きていて欲しいという母、その二人の心理が描かれている。それぞれの抱く「望み」は、とてつもない悲しみと、覚悟の表れなのである。
 
忘れてはいけないのは、作者の雫井脩介さんは、ミステリーの名手である。この作品も心理ミステリーの構成になっており、読者は、この父と母の心理状態をずっと追いかけていくことになる。
さらに事件の全容が明らかにされるのは、作品の終盤であることから、この父母も私たちも五里霧中な情報の闇の中に放り込まれるのだ。インターネットの推測でしかない様々な無責任な書き込み、まるで少年を犯人と決めつけているようなマスコミの取材攻撃。
その真相が闇に包まれて見えない中で、一家は、苦しくて、不安な日々を過ごすのである。
日頃、私たちは、よくわからないことに一言物申したくなってしまう。コロナ禍の中で、自粛警察が流行したように、何かよくないことを見つけると、それに対して、批判を浴びせかける人もいる。今年は、ネットでの心無い多数の発言で、自殺を選んだ芸能人のニュースも話題になった。さすがに誰もがネットに批判を書き込むではないけれど、実際のところ、多くの人々が不確定なことに対して、ちょっとした意見を述べてしまうことはあるのではないだろうか。そんなに大したことのないつぶやきであってもだ。
 
物事は、多角的な面から、見るのが必要だ。特に全貌が明らかになっていない事件や出来事に対しては、一方的な批判をする前に、ちょっと立ち止まって考えたほうがいいかもしれない。もちろん、批判の矛先となる人物が間違っていた場合、何を言ってもいいというわけではないが、話がわからない状態ならば、より慎重になることが大切だ。
 
物語を読んでいると、一家は、自分とはまるで違う家族構成であり、自分と重ね合わせるわけでもないのに、なんとか、この家族を助けたいという気分になってくる。目の前に突然現れた、どうしようもない、どうすればいいのかわからない重大な問題に対して、読者は、当事者である家族と一緒に考えていくのである。被害者と加害者、どちらにもなり得る状態を描いたこの作品。小説の良いところは、自分が体験していないことを、登場人物と一緒に考えることが出来ることだ。さすがにこのような究極の状態に置かれる人は、ほとんどいないと思うけれど、それでも、被害者と加害者、両方の立場から、物事を見るということを考えることは、重要なことではないだろうか。この作品を読めば、一方的に自分の正義だけを振りかざすのではなく、多方面から、物事を見ることと、人の気持ちがわかるようになるのではないだろうか。
 
皮肉なことに、この一家の父の仕事は、建築デザイナーである。家族が安心して質の高い生活を送れるように住宅を提供するという立場であるのに、そんな一家は、誰もが羨むデザイン性の高い家に住みながら、その内部は、どす黒い疑惑が漂う空間になってしまっているのである。
そして、事件は、思いも寄らない結末を迎える。いや、思いもよらないこともなく、読者は、どちらの結末になるか、覚悟は、決めていたと思う。私の下手な小説ならば、実は、息子は、その事件に関わっていませんでした。と、問題から目を逸らし、この一家を助けたことであろう。でもさすがに、ここまで来て、事件に関わってませんでした、なんて、結末は、あり得ない。今まで何を読まされてきたのかということになってしまう。
 
雫井脩介さんは、真っ向からこの重い問題に挑んだのである。午前三時過ぎまでかかった読書は、自分の下手な小説を書くよりも、とてもとても私の小説修行になった気がするのである。
 
 
 
 
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2020-12-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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