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メディアグランプリ

やっぱり未知の世界への旅はやめられない①


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:旅野おかゆ(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
数年前の秋頃、牧場に住み込みながらアメリカを旅していたとき、SNSの投稿を読んだ友人が「もし羊飼いに興味があったら」と紹介してくれた。それが、アメリカ先住民が住むナバホ居留地での羊飼いのボランティア。連絡をもらって数日考えた。興味はあったものの、未知の世界過ぎて不安もあった。しかも、そのとき滞在していた山羊牧場のオーナーや仲間との時間は心地良く、離れたくなかった。でも、こんな貴重な機会は2度とないと思い、羊飼いの仕事をさせてもらうことにした。
 
お世話になった山羊牧場のみんなに別れを告げ、ナバホ居留地へ。バスを乗り乗り継ぎ到着した町で、お世話になる牧場のオーナーのグレナ親子と先に働いていたロビーと合流。しばらくすると店も見当たらなくなり、ひたすら荒野を走り続けた。そして、ようやくグレナの自宅に到着。オーナーであるグレナはナバホ語しか話せない。このナバホ語は世界でも有数で習得困難な言語と言われ、戦時中には暗号として使われていた。一緒に住む娘のエリーは英語も話せて、ボランティアとグレナの間に入ってくれていた。自己紹介は車の中で済ませていたので、その日は食事も早々に終えて、翌日に備えた。
 
ライフラインがない生活が始まる。ガスの代わりに薪で火を焚く。電気は小さな蓄電池のみなので夜のみ利用、日中は太陽光を活用。そして、水は近くにある井戸まで行き、巨大なタンクに1週間分の水を汲んでくる。きれいな上澄みから、食事用、洗濯用、動物ようなどをそれぞれの貯水タンクに分けていく。だから、光のない家での朝のルーティーンはヘッドライトの装着、それがなければ何もできないのだ。ライトを灯し、ストーブとキッチンに薪で火を焚く。灼熱のイメージのアリゾナだが、居留地は標高2000メートル以上に位置する。そのため朝晩の冷え込みは相当で、ストーブがなくては生きていけない。少し部屋が温まり始めたら、貴重な水で身支度を整えた。食事に関してはサスティナブルとは言えないものも多かったが、生活スタイルは自然エネルギーのみでエコロジカルな生活が成り立っていた。
朝食を終え、お弁当と杖を持って羊飼いの仕事へ出発。小屋のゲートを開けるとリーダーの羊が少し考え動き出すと、全員が同じ方向に進み羊と人間の小さな旅が始まる。言葉数の少ないロビーは、「羊が怖がらないように距離をとる」、「万が一のために常に方角を確認すること」など、ぼそぼそ説明してくれた。
それまでの羊のイメージは、「ふわふわした可愛い動物」だったが、草や水を求めて荒野を歩く羊は想像以上に動きが早く、深い谷も急斜面もひょいひょいと進んでいく。見失わないように、でも絶妙な距離感を保ちながら後を追う。距離を取り過ぎたり、羊が急に移動をしたりして見失うことも多々あった。そんなとき重要なのが糞。40頭近くいる羊は歩きながら誰かしら糞をする。なので、最後に見た場所から時刻や水場などを考慮し、ロビーが大まかな方角に見当をつける。そして、あとは新鮮な糞がないか杖で確認しながら群れを探していた。今はGPSなど便利なものがあるが、こんなふうにヒントを見つけながら地道に追いかけるのも悪くない。度々糞に助けられていた私は、いつのまにか羊の糞が可愛く見えてしょうがなくなっていた。
 
そんな過酷ながらも楽しい日々のなか、急にエリーから「今日から羊はいいから家の片づけをして」と言われ、ショックを隠し切れなかった。でも、オーナーの言うことに逆らえないので、しぶしぶ受け入れたその日から生活は一転した。羊と共に太陽の下を歩き回る時間に、電気もつかない薄暗い家の雑用をひたすら行う。朝晩の食事の準備も当たり前で、挙句の果てには毎晩オーナー親子、そして時々やってくる親戚のマッサージまでしていた。この状況はおかしいと伝えるべきだったが、語学力にも自信がない私は、しょうがないと言い聞かせ日々を過ごしていた。そんな時、羊飼いから戻ったロビーが「君の役割は家政婦じゃなくて、羊飼いだろ?」と背中を押してくれた。その瞬間、モヤモヤを解消し羊飼いに戻りたい! スイッチが入った。だけど同時に、クビ! と言われる不安もあり不健康なドキドキにも襲われた。でも、貴重な時間を無駄にしたくない思いが勝り、ありったけの英語力を駆使して羊飼いとして雇われたことなど抱えていた思いを伝えてみた。最初は難色を示したエリーも理解し、ようやく羊飼いに戻れることになった。
ボランティアの立場で、約束が違うと伝えるのはとても難しかった。友人の顔に泥を塗りたくもなかったし、どこかで嫌われたくなかった。でも、覚悟を決めて伝えることで羊飼いの仕事に戻れ、今まで以上にスムーズにコミュニケーションを取れるようになり、豊かな日々が戻ってきた。
 
最後に、ここに来なければ羊の糞を愛でることはなかったと断言できる。でも、環境は容易に価値観を変え、面白い視点を沢山与えてくれた。ライフラインが整っていなくても豊かな生活ができることを教えてくれた。そして、心地の良い山羊牧場では気づけなかった自分の弱さに気づき、成長することができた。楽しいのはもちろんだけど、成長するためにも、やっぱり未知の世界への旅はやめられない。
 
 
 
 
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2020-12-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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