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憧れが冷たさをつれてきた暖かな冬の日


さとうえりさん 憧れが

記事:サトウエリ(ライティング・ゼミ)

 

「なんか遠い存在になってしまった気がする」

2016年、1月。
いつもだったら、この時期は目の前が見えなくなるほどの吹雪の日が多かった。
昼間でも薄暗い空を思い出すと気が滅入った。
数年前のクリスマスは吹雪で
目の前が見えなくなる中で車を運転するのが怖いこともあったっけ。
きっと今年も冷たさが足先までしみこむほど寒いだろうな。
そう腹を括って、タンスにしまいっ放しになっていた厚手のセーターを引っ張りだし、
貼るカイロも買って新幹線に乗り込んだ。
夏休み以来に、北国にある実家に帰省をしたのだ。

ところが、新幹線のホームを降り立ったところで拍子抜けした。吐く息も白くはない。
毎年ゆううつだった冬はそこには無かった。
いつもであれば雪に覆われているはずの駅のホームはコンクリートのままだった。
歩きだすと、防寒対策のためにと思って着込んだセーターが暑い。
じんわりと汗をかきながら思い込んでいた季節感と肌で感じる現実の違いに戸惑った。

今回の帰省は、年に数回しか会えない両親への親孝行のほかに、
卒業以来10年ぶりに開かれるという同窓会に出席することだった。
つい去年まで暮らしていたはずの地元も少し離れると違和感があるのだろうか、
そう思いながら夏休みの帰省以来の実家で羽根を伸ばすことにした。

そして、向かった同窓会で、開口一番に言われてしまったのだ。
「なんか、眩しい、遠い」と。10年なんてもんじゃない、1年ぶりに会う、彼女に。

この1年で何が変わったのか。
私は昨年、社会人になってからずっと勤めていた会社を辞めて上京をした。
ずいぶん反対もされたけれど、半年ほどを費やしなんとか理詰めで納得させた。
立つ鳥、できるだけ後を濁さずにしたいと思いながら、
その時の私ができる限りの円満退社に持ち込めるように気を回したつもりだ。

転職した先の会社では前職以上に時の流れが速かった。
「この会社だと1年過ごすと1.5年か2年分の濃さがある」と何度も思ったし、
実際に仕事に割く時間も長かった。
体力が持たずに倒れかけたこともあったし何度もくじけたけれど、
その度に持ち直して1年が経った。
肝心の年収も前職の労働時間と比べたらマイナスかもしれない。
見る人が見たら「失敗」と言われても仕方ない身の振り方をしているにも関わらず、
悪くはないと思って過ごしている。
それはなぜか。

「我慢」をしなくていいからだ。

上京前にずっと抱えていたのは「ぼんやりとした不安」。
周りを取り巻く不穏な空気から指をさされないように、
目立たないようにと思って過ごしていた。
口でどのように説明したらいいか分からない。
誰かから、一挙一動を監視されて批判されているかのような
常に自分を殺して生きているような息苦しさだった。

その「不安」は、嫌でも行動しなければならない環境の変化と、
伴ってついてくるささやかな結果を積み重ねて、
自分を取り巻く空気を自由に感じられるようになると自然に小さくなっていった。
もともとずば抜けて明るい性格ではないものの、
実家で暮らしているときは普段以上にめそめそと落ち込んでしまうことも多かった。
そんな時期も数年間続いていて、
冒頭の言葉を伝えてくれた彼女とは、
「めそめそしていた」時間を一緒に過ごすことが多かったと思う。

随分と私自身にとってマイナスだと感じる時間が長かったからだろうか。
いつだって変わっていくのは周りだと思っていた。
その変化に追いつくこともできず、
変わらない、いや、変わることができないのは私ばかりだと思っていた。
学生からうまく社会人にシフトしていく学生時代の友人たち。
対して、少しでも動いたら自分の腕や足がもがれていくんじゃないかと思うくらい、
物事の流れに乗ることのできない私。
焦って、もがいて、どうにかしたかった。
ずっとこのまま下から上を見上げて暮らすのかと思っていた。眩しさに憧れた。

たった1年。されど1年。
何かが変わったつもりは私の中には全く無かったけれど
彼女は私に、数年前の私が強く思っていたものを見ていたのかもしれない。

憧れだった「眩しさ」という言葉がこんなに冷たく届くことがあるんだ、と思った。
彼女に声をかけた。「今年も遊ぼうよ、私、何も変わってないからさ」
そう、きっと変わっていない。
元から持っていた自分自身に新たな環境が
アップデートの機会を与えてくれただけだと自分に言い聞かせながら。
素直な言葉で私に自分の気持ちを伝えてくれるだけの彼女とは
拒否をされない限り、付き合いが薄くなるのは悔しいんだ。

家に着いた頃に携帯電話を開いた。
もう5年は会っていないだろうまた別の、学生の頃の友達とも、連絡を取り合っていた。
彼女とは、数日単位で返信をしあうゆっくりとしたメールのやりとりをしていて
互いに予定を合わせて近々会うことになっている。
だいぶ顔を突き合わせてはいないけれど、
メールの文面やテンポ、会話の内容や好きなものは不思議なほど変わっていないと思う。
久しぶりに会う約束を取り付けた彼女は、私を見て何というのだろうか。
「遠い存在」それとも……。

 

***
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2016-01-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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