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スターバックスでの注文に迷うあなたへ

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peconokoさん スタバ

 

記事:Peconoko(ライティング・ゼミ)

 

大学1年生の冬のこと。私は大学最寄りの駅前にあるスターバックスコーヒーで、バイト先の先輩と向き合っていた。

バイトを辞めるか、続けるか。その当時の私にとってもっとも大きかった悩みについて、先輩の彼女に相談するためだった。

彼女と私は日常的に特に親交が深いわけでもなかった。しかし同大学同学部の先輩でもあるということで、その日彼女はそこにきたのであった。その距離感と申し訳なさと、バイトを辞めたい、と伝えることへの気まずさから、私はいささか緊張していた。

思い返してみれば、私には常に悩みがある。

友人のこと、家族のこと、所属するコミュニティについて、恋愛について……悩み癖がある人、というやつだと思う。わりと何でも真剣に考えて、これだ!という答えにたどり着くまで動き出せない、難儀な性格。

選択肢が二つある中で、Aを選んだ場合とBを選んだ場合、それぞれでの今後の自分について考えに考え、未来を思えば思うほどに私は決断ができなくなってしまうのだ。
彼女は私の悩みについて、大まかな話は聞いているはずだった。しかし、あらためて面と向き合って話すとなると、どのように話を切り出したらよいものかわからない。

寝る前に、電車の中で、授業中に、先輩との会話のシュミレーションしてきた甲斐もむなしく、私は居心地の悪さを感じながら、だんだんと熱さを失っていくコーヒーカップを見つめていた。
私より5分ほど遅れてやってきた彼女は、寒いね、とカップで両手を温めるようにしながら、唐突に話し始めた。

「わたしさ、これ頼むまでに、下のレジで散々悩んだのよね。これさ、キャラメルマキアートね。ホットのショート」

はぁ、と、気の抜けた返事をしてしまった。彼女はわたしにかまわず話す。

「ショートにするかトールにするか、ものすごく悩んだの。ショートだとなんとなく足りないような気がするし、トールだと多すぎて、最後までおいしく飲みきれないかなって」

私もスタバのレジ前では、かなり迷う方である。その日も目の前のホットのカフェモカ、トールサイズに心を決めるまで、かなりメニューとにらめっこした。
友達が、最近はまっているの、といっていたキャラメルスチーマーにするか、お気に入りのカフェモカにするか。結局私は安定感あるおいしさを求めて、その日は後者を選んだのであった。その悩みには同感であったが、うまい相槌もできそうになかったので、私は軽くうなずいた。

「でさ、無理して飲むのもなんだしな、と思ってショートにしたわけだけど。やっぱり少し足りない気がするな。もしトールにしていたとしてもわたし、きっと飲みきれたと思うのよね」

つまりさ、と彼女は穏やかに言った。

「どっちにしたって、その程度の問題なわけよ。きっとどっちでも多少の後悔はするけど、それなりに満足もするんだよ」

ショートでもトールでも、後悔も残るし満足もする。ようやく、彼女のいいたいことがなんとなくつかめた。

どっちだって同じなのだ。後悔のない選択なんてない。

もしもわたしがキャラメルスチーマーを選んでいたら、友達と同じようにそのおいしさに感動したかもしれないし、最後のひと口を飲みきるころには、甘すぎるその味に後悔したかもしれない。思ったより甘いものが得意でない、新しい自分に気づいたかもしれない。
もしもショートではなくトールを選んでいたら、家に帰ってから夕食前に大きなカフェモカを飲んでしまったことを後悔することだって、あるかもしれないのだ。しかしそんなことは、その選択をした未来の自分にしかわからない。

話したいことはすべて話したと、とばかりに彼女は、満足気にうなずいて私を見た。

「どちらにしても、今日はここにキミの話を聞きにきたわけで、最後にはまあ、なんでもいいかって」

中学・高校と、部活と勉強しかしてこなかった私にとって、途方もない自由を与えられた大学生活は、非常に困難に感じるものであった。なにに時間を費やすことが正解なのか、途方に暮れてしまうほどに、そのときの私には正解がわからなかったのだ。

「話しにくいかも知れないけどさ、今日は聞くつもりでここに来たから、とりあえず何でも言ってみなよ」

そう言われたころには、なんだか私の心は不思議と晴れ晴れしていた。
時が過ぎてしまえばもはやなにを悩んでいたのかも思い出せないくらいのこと。
心に残るのは悩みに悩んだ二つの選択肢ではなく、選んだ先で見つけたものと出会った人と、思い出なのである。

以来、私は選択に悩まなくなった―――なんてきれいに締めたいところだが、根っからの優柔不断、そうそう簡単には決められない。
今日も今日とて、スタバのレジ前で悩むのであった。
もちろん、福岡天狼院のレジ前でも、毎度長々メニューを眺める。
非常に申し訳ないので、みなさま、どうぞお先に!

 

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2016-01-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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