メディアグランプリ

彼女は片付けに失敗したのか?


近藤さん 彼女は

 

記事:近藤ゆかり(ライティング・ゼミ)

 

片付けが苦手だ。
根がずぼらでちょこまかと体を動かすのが億劫だし、割と混沌とした状態にいると落ち着くし、モノ作りが仕事でも趣味でもあるので、必然的に所有物も増える。
でも、整理整頓されてすっきりした空間はやはり気持ちがいいなと思うし、かつて引っ越しをしたときに一世一代の片付けをした時の快感、そしてその後の生活の快適さを思い出すにつけ、そろそろやらねば、と思うのだ。

そう思っても、これがなかなか捨てられないんだよね……、などと話をすると、友人たちとの会話はすぐ盛り上がる。だいたいの人は増え続けるモノのことで何かしら頭を悩ませているのだ。かつての経験談や、笑い話が披露される。

「そういえば、どうしても捨てられなかったものがあるんだよ」

ひとりの友人が言った。

「捨てたんだけどね、大好きなマンガで、結局3回も買い直しちゃった」

「3回も!」

皆驚き、そして笑った。
そのマンガはマンガ好きならほぼ知っている人気作品で、しかも長編だ。たしかに、置いておけば場所をとる。もう、あれだけの量をそうそう読み返しはすまい。大好きだったけど、捨て時かな……。
きっと、そんなふうに思って、感謝と共に手放したのだろう。

「でもね、ふっと思い出して、1冊だけ読みたいなーって古本屋で買っちゃったりすると、とまらなくなっちゃって、結局全巻そろえちゃうの」

「それを3回!?」

「そう」

再び、皆は笑った。それは捨てなければ良かったね、それだけは失敗だったねえと。

でも。
そうなんだろうか。
彼女のしたことは失敗だったのか、もったいないことをしたんだろうか。
もちろんちょっとした笑い話で、誰も深刻な失敗とか大変な無駄遣い、などと思ってはいないのだけれど、皆と別れてからもなんだかやけに気になって、そのことを考えた。

今、私が片付けられない、つまりはモノを減らせないと悩んでいる大部分はこれだ。これを捨ててまた使う時がきたら困るんじゃないか、後悔するんじゃないか。そういう逡巡が、思い切った片づけをためらわせ、遅々として進まないのだ。

でももし私が件のマンガの作者なら、こんなに嬉しいことはない。自分の描いた作品がそれだけの価値があったことを示す、これほどの証拠があるだろうか?
「あなたのマンガが好きで、同じのを3回買いました」
これより嬉しい褒め言葉はそう簡単にきけるものではないと思う。

そして、彼女にとっても、3度もそろえるほど面白いマンガに出会えた、好きなものに出会えたことは幸せだし、むしろ「3回も買った」ことではじめてそれほど好きだということが実感できたのではないか。
本というのは定価だから、「私はこれが一番好きだから他のより高く買います!」ということはない。いくら好きだからと言ってコレクターでもないかぎり3冊一緒に買って「好きさを表現」することもない(サイン本とか握手会用とか、“その個体”や、数を買う事自体に意味があればまた別だが)。

さらに、また読みたくなった時に買えるほど、その作品が流通し続けているという事実がまためでたい。その事実に気づけたことも幸せだ。これはこじつけかもしれないが、そうやって昔買った本を手放した先で、誰かがはじめて廉価で手にとり、その作品を知るきっかけになって、ファンが広がり、作品の寿命が延びたという事だってあるかもしれない。

なんだ、誰も、失敗も損もしていないじゃないか。
むしろ、「モノやヒトを生かす」という意味で、大成功じゃないのか。

もし私が今迷っているものを手離し、再び買い直すことがあったら、「買い直せるほど良いもので良かった」と思えばいいのだ。あるいは、「またこれを買える日がきて良かった」と思えばいいのだ。

成功、失敗など、事実に対する当人の認識の違いに過ぎない。
今、私は将来の自分がどう思うかよりも、この現在の自分にふさわしい環境と気持ちに一番快適な場所をつくることを考えるべきなのだ。

そうだそうだ、そもそも迷っているもののいくつかは、逆に「これがあるから何かをしなきゃ」と、私の行動を縛ろうとさえしている。かつて支払ったぶんを「損しない」ために、なんとしてもこの死蔵品を使う方法を考えなくてはいけない、とどこかで私は考えている。楽しいから、したいからやる、のではなく、だ!ああ、仕事でもない、たかが趣味のために、なぜそんな義務感にかられなくてはいけないのか。そしてなまじ、これまでそうやって「有効利用を無理やりしてきた」せいで、私は何かを買う時に、「足りないより余ったほうがいいし、少しでも安い方がいいから」と多めに買ってしまうのではないか。

そう思ったとたん、これを喜んで使ってくれるかもしれないところがある、とひらめいた。善は急げとメールをすると、即歓迎の返事をもらい、トントン拍子で受け取りは終わった。
自分でも捨てるには惜しいと思っていたそれらは、これから活用したいという相手には本当に喜んでもらえたと思う。

これだ。この調子で、失敗などないと信じて、私は今の自分にあわせた片づけをしていこう。もしかしたら、彼女のように「3回買うほど好きなもの」を知ることになるかもしれない。それはそれで、楽しみじゃないか。

でも、もし本当に「失敗」したら……?
その時は、こうやって文章にでもして、皆に笑いのネタとして提供すれば、それはそれで大成功……ということにしようと思う。

 

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2016-01-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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