メディアグランプリ

愛情の格差


中井さん 愛情

 

記事:中井康人(ライティング・ゼミ)

 

もうずいぶん前の話になるが、友人のN夫はスキーが本当にうまかった。そのN夫が僕の友人と何人かでスキー旅行に行くことになった。そのグループの中には僕の知り合いでもあるキャリアウーマンのS美もいた。S美は上場企業に勤務するバリバリのいわゆるキャリアウーマンだ。それに対してN夫はスキーはうまいと言ってもまだまだ学生で、次の春には就職活動が控えていた。そして、S美はスキーが初心者だったこともあって、このグループで一番スキーがうまいN夫がS美にスキーを教えることになったのだ。

S美はスキーは初めてであったが、ウィンドサーフィンはとてもうまく、琵琶湖一周を成し遂げてしまうくらいの腕がある。そういうS美であったので、スキーも飲み込みが早く、またN夫が教えたこともあって、二日目にはN夫について上級者コースを滑り降りられるレベルまで到達してしまったのである。

N夫はいつもサービス精神旺盛で、人に教えたりすることは好きだし、それになんでも自分から進んで行動するタイプだ。N夫は親元から離れて一人暮らしをしているが、生活費もアルバイトで稼いでいるようだし、なにしろ掃除洗濯炊事の全てをこなすことができる。そしてどちらかと言うとみんなから愛される人柄だ。

そんなN夫とキャリアウーマンでスポーツもできるS美だが、スキー旅行から帰ってほどなくS美とN夫の二人は付き合い始めたようだ。ぼくとS美はなぜか何でも話せる間柄で、しかもN夫はぼくの友人だったため、S美はN夫との付き合いの内容をときどき話してくれた。最初はどこそこに遊びに行ったとか、いろいろ話してくれたものだ。そしてN夫が一人暮らしのため二人は半分同棲するような状態になっていった。

そんなある日、S美から「ちょっと聞いてほしいことがある」と連絡があり、なんだか相談事があるように思えて、二人で会うことになった。S美によれば、N夫はなーんにもやってくれないということだ。

えーっ、そんなことはないだろう。N夫はサービス精神旺盛だし、掃除洗濯炊事の身の回りのことはできるし、性格には全く問題ないし。そう思っていた僕はS美にどういうことか聞いてみた。

「そうなのよー。付き合ったころは本当に楽しかったわ。N夫といることが本当に楽しかった。彼はなんでもできるし、友人も多いでしょ。だから大学でのお付き合いやお友達とのお付き合いもどんどんやっていいよって言ってたの。それに私も自分のことをしたいときがあるし。そういうところは理想的だと思ったわ。そしてN夫がいないときは、ときどき私が掃除やら洗濯やら炊事をやってあげるの。私はそうしてあげることが好きなのよ。だけど徐々にN夫は感謝しなくなるし、私が相談事を持ちかけても話半分で適切なアドバイスもくれないし、そしてなにより会話が少なくなってきて、今ではほとんどないのよ。どう思う?」

そんな相談を受けた僕は「とにかくN夫に会って話ししてみるよ」としか言えなかった。そして心の中で「N夫、どうしたんだよ。S美は美人だし、スポーツ万能で、仕事もできて、そして本当に女性らしい女性なのに」とそう思いながらN夫に会いに行った。

「お前が話したい理由はわかったよ。なぜS美との会話がなくなっていったかだろ。そりゃS美はよくやってくれるよ。でもさ、俺が愛情を注ぎたくても注ぐところがないんだよ。たとえば、食事に行ってもS美のほうがいい場所知っているし、金も持ってるから出してくれる。ときどきうちにもきてくれて、勝手に掃除洗濯炊事を全部やってくれるよ。さらには俺にはなんでも相談してくれるので、本当に愛情を感じるよ。だけど、俺は社会人の経験ないから相談に答えてあげることもできないし、どうみても経験値はS美のほうが多いから、自分の経験値のなさを知られないために、だんだん話ができなくなるんだよ。そしてS美はウィンドサーファーだろ。夏だけでなく定期的にウィンド仲間たちと海や湖に行くよ。そういうときは俺も誘われるけど、俺なんかやったこともないんで、全くの初心者だよ。とてもそういう仲間に入っていって教えてくださいなんて言えないよ。そうなんだよ、最初はスキーを教えることができたよ。そして最初はお互いの環境の違いが大きかったんで、それが面白かったよ。でもさ、だんだん重くなってきたんだよ。そして俺は自分の愛情の注ぐところをS美の中に見いだせないんだよ、今でも」

僕は単純にN夫は子供だなと思ったが、それは仕方のないことだった。どうみてもS美のほうが経験値が高く、それはだれもが承知していることだからだ。そしてそういうS美だから自分の持てる愛情も100%近く出せることができる。それに対してN夫は100%の愛情を注がれるだけでは負担になる。自分も愛情を注ぎたい。だけど100%どころか1%も出せなくなる。

それにしても女性にはそういうところがあるなと思った。たいていの場合は家事関係は女性のほうが上手である。だから家事に関しては男に愛情の100%を注げるのだ。すると男は家事については相手に愛情を注げなくなるのだ。

ということはお互いに愛情を50%づづ出せる間柄が一番いい間柄になるんじゃないかなと思った。50%とは言えなくても4:6くらいの割合でもいいだろう。しかし、1:9とか、2:8になるとかなり危険じゃないかな。実際そういう関係になると別れる可能性も高くなりそうだ。

ほどなくして、N夫とS美は別れることになった。もちろんN夫は自分のふがいなさを嘆いた。だけどどうしようもない。そしてS美はいまだに独身だ。S美ほどのできる女性がと思われがちだが、ぼくにはその理由がわかる。そしていつもS美には「男に尽くしすぎはよくないよ」ってアドバイスしている。だけどS美の性格がそういう性格だから、変えるのは厳しいかなと思う。それでも今度は愛情の格差について話してみようと思う。愛情格差が1:9まで広がるとダメだってことを。しかしその1:9が良いって言われたどうしようかと今から悩んでる。まあそういう女性がいてくれてもいいんだけどね。S美には幸せになってほしいなと思う。

 

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

【東京/福岡/通信】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?〜《最高ランクの「ゼミ」に昇格して12月開講!初回振替講座2回有》

 

 

【天狼院書店へのお問い合わせ】

TEL:03-6914-3618

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。

【天狼院のメルマガのご登録はこちらから】

メルマガ購読・解除

【有料メルマガのご登録はこちらから】

バーナーをクリックしてください。

天狼院への行き方詳細はこちら


2016-01-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事