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【私的福岡】あの配管工の兄弟が冒険に出発した理由

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Koikeさん 配管工

 

記事:Ryosuke Koike(ライティング・ゼミ)

 

テレビをつけていると、懐かしいBGMが流れてきた。
画面を見てみると、あるファーストフードの子ども用セットに、景品として「スーパーマリオ」のおもちゃがついてくるというCMだった。

「スーパーマリオ」を知らない人はいないと思うが、簡単にまとめると、キノコ王国のお姫様がさらわれたので、とある兄弟が助けに行く物語である。
一説には配管工を営んでいるとされる兄弟が、襲ってくるキノコや亀を踏んだり蹴ったり、レンガを叩いて壊したり土管に入ったり、飛んでくるハンマーやスパナを避けたり逆に火の玉を投げつけたりして、悪の親玉を倒しにいく物語である。

この「スーパーマリオ」が、テレビゲームをこの世に広めたといっても過言ではない。
30~40歳代の男性であれば誰しも一度は、赤色の帽子を被った兄か、緑色の帽子を被った弟を駆使して画面の中の冒険に出発したに違いない。

さて、兄弟といえば誰を思い浮かべるだろうか。
頭に浮かんでくる人物が誰かで年齢がばれてしまうと思うが、有名人で言えば、お笑いの中川家だろうか。千原兄弟だろうか。マジシャンの山上兄弟だろうか。ミュージシャンで言えば、藤井フミヤと藤井尚之だろうか。

ちなみに、福岡県では福岡市と北九州市は兄弟のように扱われている。
商業都市である福岡と工業都市である北九州。両者とも全国に20ある政令指定都市である。新幹線の「のぞみ」はどっちの都市にも止まるし、空港もある。
一方、「兄弟」ということもあってか、よく比べられる。
政令指定都市に先になったのは工業が盛んな北九州市だったが、人口では福岡が追い抜いていった。それぞれ本拠地を持つサッカーでは、ダービー対決が盛り上がる。

そんな「兄弟」だが、ゲームのあの配管工の兄弟のように、海を渡り冒険に出ていることを知っているだろうか。

福岡県民にすら知られていないかもしれないが、福岡市や北九州市は、それぞれ水道の分野で海外へビジネスを展開している。
北九州市はカンボジアへ、福岡市はミャンマーへ、市の職員を派遣して、民間企業と一緒になって水道に関する仕事を行っているのだ。

最近「インフラの輸出」という言葉が出てきている。
電気、ガス、下水道、道路、住宅……と、社会資本が整備された日本にとってみれば、今現在急激な都市化と経済成長が進んでいる新興国というのは、技術力の優位性を活かせるビジネスチャンスである。
これらのインフラの中でも、何といっても「水」が、人間が生きていくうえで必要不可欠なものであり、一番重要なものだと思う。
世界では水道がない、水道があっても使える地域が限られている、飲み水には使えないといった国は今もなお数多く存在する。
海外旅行で、売っているペットボトルの水を飲むように言われたことがないだろうか。何日か滞在していると、水当たりで腹痛になったことはないだろうか。

この「水」について、福岡市や北九州市は高い技術力を持っている。例えば、水道管から漏れる水の量の割合を占める漏水率では、福岡市は2.6%と、日本はおろか世界でもトップクラスである。
その技術力は、安全な水がない国の課題を解決する一方、インフラ技術の輸出という産業となっている。

直接の経済的な効果だけではない。
「スーパーマリオ」に戻ると、このゲームは関連作品を含め何十というゲームソフトが発売されているが、キノコ王国のお姫様は、これでもかというほど悪の親玉にさらわれている。
いったいあの兄弟は何度助けに行けばすむのか。私があの兄弟なら3回目にはとっくにあきれているだろう。
が、段々とわかってきたのである。
彼女が何度もさらわれたのは、単に間抜けなのではなく、2人の成長のためを思ってのことなのかもしれないのだ。

福岡市と北九州市の高い技術力についても、未来永劫安泰というわけではない。
使わない能力は衰えていく。磨かれない技術は廃れていく。
海外でのビジネス展開には、技術力の維持・向上といった点もあるのだ。

けれども、あの兄弟は、金銭的な価値のために冒険に出たのだろうか。
いや、違う。
それでは、自分たちの能力を伸ばす修行のために冒険に出たのだろうか。
いや、違う。
そこには、ただ純粋に「助けたい」という思いがあったにちがいない。

水ビジネスのため海外に派遣された職員の現地レポートを見る機会があった。
異なる言葉や文化の違い、慣れない生活、自分しか日本人がいない状況。地方自治体の職員が、海外で仕事をしようと思うのはどういうことなのか。
そこには、異国の課題を少しでも解決したいという思いがストレートに綴られていた。

毎晩、寝る前には水を飲むことにしている。人間は就寝中にコップ一杯ほどの汗をかくそうだ。
台所の蛇口をひねる。何の疑問もなく、いつもと同じように、透明な水が流れ出てくる。
当たり前の光景かもしれないが、この裏には、これまでの多くの人の努力と、この瞬間の多くの人の労力が隠れている。
そして、遠い地でこの光景の実現に向けて、日夜励んでいる日本人がいる。

久しぶりにあの兄弟と冒険に出発したくなった。

 

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2016-01-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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