メディアグランプリ

パープルの紙ナプキン


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記事:曽我部うらら(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
先日、天皇誕生日の新聞に天皇と皇后の睦まじい写真が新聞に出ていました。私たちは、自分にとって大切な人たちに囲まれて生きています。両親、兄弟姉妹、夫や妻、子どもたち、会社の同僚……。毎日、いえ少なくとも時々会えて、会話を交わせる相手が多いと思います。一方で、あなたには、ほとんど会うことができないけれど、大切な存在はいますか?
 
私にとってのそんな存在との出会いは、18歳のときでした。
 
私は、高校卒業後、多くの同級生が選ぶ大学進学の道ではなく、アメリカの高校の最終学年に入りなおす、という道を選びました。「早く英語をマスターして、発音もネイティブみたいになりたい。それには、ホームステイしながら学校に通える高校留学が最適だ。費用も大学より安いし」という理由からでした。
 
初めての出会いは、アイオワ州の州都にある空港で、私を迎えに来てくれたときでした。ロバート・ブラウンさん。当時50歳前後でしょうか。身長180センチ程ですらっとして、とてもきれいな青い瞳でした。地元の銀行の副支店長だったのですが、チェックのシャツにカーキのチノパンといったラフな姿で、私の記念すべきアメリカでの最初のディナーに、マクドナルドに連れて行ってくれました。
 
ホストファミリーはブラウンさんと奥さんのジュディー、娘のメラニーの3人家族でしたが、私はブラウンさんと一番仲良しでした。彼はDIYが大好きで、ガレージにはたくさんの工具がかけられ、よくガレージの中で作業したり、芝刈りをしたりしていました。ガーデニングも好きで、娘のメラニーが好きな紫のアイリスを植えて大事にしていました。
 
週末は一緒にたくさん映画を見て、いろんな話をしました。私のつたない英語でも彼は一生懸命聞いてくれ、私も彼の話の半分以上わからないながら、辞書で単語をひきつつなんとか理解して、一緒に食べて、買い物して、笑って、たくさんの時間を過ごしました。
 
それは、私が自分の父親にしてもらえなかったことでした。私の父は、仕事のため平日5日間は出張のため不在で、週末にしか家にいませんでした。おまけに、戦中生まれの亭主関白系で、週末の夕食時も仕事の疲れからかムスっとしていて、威圧感があり、「いつも怖い」「できるだけ話したくない」父親でした。私は、ブラウンさんに出会うまで気づかなかったのですが、父親らしい愛情に飢えていたのだと思います。
 
それなりに覚悟はしていたのですが、アメリカでの日々は想像以上に孤独でした。私は、当時、アメリカの片田舎で、必死に言葉の通じない世界で戦っていました。そんな、毎日日本に帰りたいと思い、時々泣いていた日々を支えてくれたのは、ブラウンさんでした。
 
私はロータリークラブの奨学金を得ており、9か月の滞在期間中に2つの家庭に滞在する、というロータリーの決まりのため、アメリカについて最初の4か月しか一緒にいなかったことになります。
 
しかし、ブラウンさんは私にとってまさに、アメリカの第二のお父さんとなりました。帰国後も、誕生日、父の日、Xmas、バレンタインデーにカードを送り、稀に電話で話したりもしました。そんなやり取りが、30年以上も続いているのです。また一度、私に会いに、東京に彼一人で遊びに来てくれたこともありましたし、私がアメリカに会いに行ったことも2度ほどありました。
 
そして最後にあったのが、2019年3月。ブラウンさんは79歳でパーキンソン病を長く患っており、今回会うのが最後になるだろう、と思っていました。12年ぶりに再会して空港でお互いの姿を見たとき、私たちはともに涙ぐみました。お互いこれが最後になるとわかっていたからだと思います。
 
彼は病のために歩くのもつたなく、話すのも以前のように闊達ではなかったのですが、変わらない優しい笑顔と青い瞳で私のことを温かく見つめてくれました。滞在中、キッチンにある小さなテーブルで食事の後、「うららボックスがあるんだけど中身を見る?」といってファイルボックスを見せてくれました。そこには、私が留学前に送ったプロフィールと写真、帰国後送った手紙のすべてが入っていました。プロフィールを読みながら、「好きなこと」に「自然の中で過ごすこと」って書いてある、全然変わらないね!なんて話していると、「Urara ‘90」と銀色の文字が入ったパープルの紙ナプキンが出てきました。それは、私が高校卒業するときにお祝いディナーのために紙ナプキンに文字入れしてくれたもので、それまでもとっておいてくれたのでした。私はそれをみて、なんとも言えない気持ちになり、本当に娘のように思ってくれていたのだと、改めて感謝の気持ちでいっぱいになりました。
 
昨夜、あるきっかけがあって、たまたまフェースブックを開けたのです。そこに飛び込んできたのは、ホストシスターのメラニーの「父が今日、亡くなりました」という投稿でした。
 
昨年末もXマスカードを贈ってくれ、私もバレンタインカードを送ったところでした。あまりに突然で、実感がわかず、またそれがいつも一緒にいる人ではなく普段から離れているため、余計になんだかよくわからない状態になりました。けれど、メラニーがFBに投稿したブラウンさんの40枚余りの写真を眺めていたら、徐々に、もうこの世にいないんだ、ということが体に染み込んできました。
 
一つ確かなことは、彼がいなかったら今の私は存在していない、ということです。彼がいたから私は本望通りの人生を生きられました。それくらい大きな存在でした。まったく血のつながりもなく、一緒にいた時間もたった4か月です。それでも、私という人間の成長を、32年間見守ってくれたブラウンさんとこの出会いに本当に感謝しています。
 
みなさんにも、そんな存在がいるかもしれません。今はいないけれど、これから出会うのかもしれません。そんな存在がいたらいいな、という気持ちでこの話を終わらせていただきます。
 
 
 
 
***
 
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2021-03-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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