メディアグランプリ

おしゃれに必要なのは、センスじゃない。


鈴木さん おしゃれ

 

記事:鈴木彩子(ライティング・ゼミ)

 

おしゃれが、苦手です。いや、おしゃれが分かりません。どうすればおしゃれになれるのか? そもそも何をもっておしゃれとするのか? 聞くところによると、今おしゃれだと言われているものも、しばらく経つとおしゃれじゃなくなったりするんでしょう? それはどのタイミングで「おしゃれじゃない認定」が下されるのでしょうか? そして、おしゃれじゃないとされた服は、その後どうなっちゃうのでしょうか? まさか、まだ着られるのに捨てられちゃうとか⁉︎ もったいない……。

おしゃれに興味がないわけではないんです。ファッション雑誌をめくってみることもあります。そして、キレイなモデルさんたちがキレイな格好をしてポーズを決めているのを見るたびに思うんです。「あぁ、似合うなぁ。この人達には」もしくは、「これ……が、今おしゃれとされているものなのか? そうなのかっ?」我ながら身も蓋もありません。付け加えるなら、「なぜこのTシャツがこんなに高いんだっ⁉︎」

商業施設内のアパレル店を巡ってみることもあります。モデルさん並みにキレイにしているアパレル店員さんたちが独特の言い回しで「いらっしゃいませ~。どうぞご覧くださいませ~」とさえずるように繰り返す中を、迷子のようにキョロキョロしながら歩きます。すると、ものの15分くらいで疲労の蓄積を実感します。申し上げておきたいのは、「疲れてきます」なんて生やさしいモンじゃないということです。「疲労の、蓄積を、実感」するのです。

更に申し上げるなら、店員さんたちの目線にちょっと怯えながら歩いています。おしゃれの欠片もないような私の姿を一瞥するなりスッと目線を外すアパレル店員さんもいらっしゃれば、「こいつは当然ウチのテイストじゃないけど、じゃあ一体どこで何を買う気だ?」という視線を感じることもあります。もちろん全員じゃありません。ごくごく一部です。私の被害妄想も多分に入っていると思います。しかし不思議なもので、おしゃれじゃないという自覚がある状態で、疲労の蓄積を実感しながら迷子のごとくさまよっている身には、キレイに着飾ったおしゃれさんたちの視線が驚くほど強烈に突き刺さってくるのです。例えるなら、ロールプレイングゲームで敵が出てきたときみたいな状態とでも申しましょうか。「アパレル店員さんの視線の攻撃! どうする?」「もちろん逃げる!」です。そんなことばっかりやっているから、うちのクローゼットの中身は何年経ってもほとんど入れ替わりません。

それでも、普通に生活しているときはまだいいんです。ニットにジーンズとかで無難に生きていけますから。また、結婚式のようにフォーマルに振り切った状況も、どうにか対応できます。困るのは「がちがちのフォーマルだと浮くけど、カジュアルだと失礼」という、絶妙に気のきいた格好をしなければならなくなったときです。こうなるともう、一大事です。敵陣の中にひとり丸腰で取り残されたときってこういう気分になるのかなぁ……ぐらいの一大事です。

先日、その一大事が襲いかかってきました。妹が結婚することになったので、両家の顔合わせをするというのです。私は援軍として、いや軍師として、元アパレル店員の友達に買い物に付き合ってほしいと頼みました。彼女は二つ返事でOKしてくれて、むしろ私よりもウキウキしながら言いました。
「じゃあ、待ち合わせはお店が開く11:00ね。たぶん1日がかりになるから」
「お、おぉ!」
……ん? 1日がかりとな?
「もっと遅くてもいいけど、混んじゃってゆっくり見れなくなると思うんだよねー」
「な、なるほど。うん、11:00待ち合わせにしよう!」
どうやら服を買うというのは、思っていた以上に体力と戦略が必要な行為のようです。

買い物当日、友達と落ち合うと、まずは安くてデザイン性が高いと評判のお店へ向かいました。入り口からすぐのところに蛍光色で露出度が高めのワンピースがつるしてあるのを見た瞬間に「このお店の服は、私にとってはちょっと攻めすぎかもしれんぞ。大丈夫か?」と思いましたが、友達はその辺には目もくれず、どのフロアに目当てのものがありそうかパパッと検討をつけてスイスイと進んでいきます。ラックにギュウギュウに掛っている服をバババッと手際よく見ながら、ときどき「わー、これかわいい! ごめん、ちょっと、ちょっとだけ着てみていい?」なんてウキウキと自分の買い物もついでに楽しむ彼女。しかもそのかわいい服というのが、ラックに掛っている時点では決してかわいいように見えなかったのに、その子が袖を通すと確かにかわいいのです。裾をちょっちょっと引いたりして体にフィットさせ、後ろ姿などもチェックしながら鏡の中を見つめる様子に、私は思いました。なるほど、ピンと来たものは必ず試すのが大事だから時間がかかるのか。そして、時間がかかるのが分かっているからこそ、探すまでの手際を良くして時間を節約するのか、と。

1軒目ではピンと来るものがなかったので、2軒目のお店に向かいました。道すがら、我が軍師は言いました。
「とりあえず、ワンピースにするか、パンツかスカートとブラウスにするか、その辺は決めといた方が探しやすいと思うんだよねー」
確かに、その時点で伝えていたのは予算と用途だけ。あとは正直、こう言ってもらうまで特に何も考えていませんでした。気に入ったのに出会えれば、それがワンピースでもブラウスでも何でもいいや、と。でも先ほどの彼女の時間の使い方を目の当たりにした今なら分かります。そんな気持ちで買い物に臨むなんざ、アマゾン川をふんどし一丁で泳ぎきろうとするようなものだと。知らないというのは、かくも恐ろしいことなのですね。

私たちはワンピースに狙いを定め、2軒目のお店に入りました。1軒目よりも落ち着いた雰囲気のデザインが多いお店です。ここでも彼女の「ラックに掛っている時はそうでもないのに、着てみるとめっちゃいい服」を探し当てる目が冴えわたります。あ、いや、実際はラックに掛っている時点で魅力的な服なんだろうと思うのですが、おしゃれの分からない私にはそう感じられる、という意味です。
初めは友達の様子にただただ感心して後をついていくばかりだった私も、だんだんとこの状況に慣れてきて、よく分からないなりにちょっと良いなと思った服を、頼れる軍師殿に見せに行くようになりました。するとそこでも彼女はすごかった!

「この形のワンピースだったら、ベルトでウエストをキュッと絞ってやるのもいいかも! ちょうどいいベルトどこかにないかな~」
「この襟の形だとちょっと甘めな感じになるかもね。普段のイメージとはちょっと違うけど、小物を使えば甘さを抑えられるし……せっかくだから挑戦してみちゃう?」

私が選んできた服をひと目見るなり、それを着るとどんな印象になるかをササッと分析し、分かりやすく説明してくれるのです。しかも、今回の用途に合っているかどうかをしっかり意識しつつ、選んできた服の傾向から私の好みを探り出し、「だったらこれは?」と、もっとしっくりくる感じの一着を提案してくれるのです。まるで同時通訳のような鮮やかさ!

ここまで来て、私は奇妙な事に気づきました。もうかれこれ3時間はアパレル店をうろうろしているのに、「疲労の、蓄積を、実感」していないのです。むしろ新しい発見だらけで、楽しいことこの上ない!
理由は明白でした。私が漠然と描く「なりたい自分」のイメージを、具体的なファッションアイテムの組み合せに落とし込むことで的確に表現してくれる「通訳」が、一緒にいてくれたからです。この優秀な通訳さんは、ファッションにもアイテムという「単語」があり、コーディネートという「文法」があるということを教えてくれました。流行語やネットスラングのように、基本的な知識では太刀打ちできない応用編のファッションももちろんあるけど、基本的には「なりたい自分のイメージ」さえ決まっていれば、自ずと選ぶ「単語」も使う「文法」も決まってくるということを教えてくれたのです。おしゃれに必要なのはセンスではなかった。おしゃれという世界の言語と文化、そしてその楽しみ方を分かりやすく教えてくれる「通訳」こそ、私のようなおしゃれが分からない人間には必要だったのです。実際、彼女のおかげでアラビア語並みにサッパリ分からなかったおしゃれの世界がグッと身近になりました。そして、これは裏を返せば、自分にはファッションセンスがないんだ……と悲しい思いをしながらおしゃれを諦めたりしなくてもいいということなんじゃないかと思ったのです。

結局、買い物スタートから約5時間。優秀で楽しげな通訳さんのおかげで、適度にきちんとした絶妙なワンピースを手に入れることができました。柄も、形も、自分ひとりで買い物に来ていたらきっと出会っていなかった一品です。顔合わせ当日、昔からニットにジーンズしか着ていない私を誰よりもよく知っている両親が、そのワンピースに身を包んだ私を見て、「ほほぅ。いいじゃん」と、最大級の賛辞をくれました。

それからというもの、私の中でおしゃれが「さっぱり分からないもの」から「何だかちょっと楽しいもの」に昇格しました。もちろん、人間そう簡単には変わりませんから、相変わらずニットにジーンズですし、アパレル店員さんの視線にもビクついています。でも、話の分かりそうな店員さんに声をかけられたときには思い切って相談してみることにしました。もちろん、店員さんにはノルマとかもあるでしょうから、友達に付き合ってもらったときのようにいかないのは重々承知しています。それでも、映画の字幕や小説の訳文が翻訳者によって個性が出るように、我が優秀なる通訳さんとはまた違った角度から、おしゃれの楽しさを教えてもらえるかもしれませんから。

 

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

【東京/福岡/通信】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?〜《最高ランクの「ゼミ」に昇格して12月開講!初回振替講座2回有》

 

 

【天狼院書店へのお問い合わせ】

TEL:03-6914-3618

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。

【天狼院のメルマガのご登録はこちらから】

メルマガ購読・解除

【有料メルマガのご登録はこちらから】

バーナーをクリックしてください。

天狼院への行き方詳細はこちら


2016-01-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事