メディアグランプリ

仕方ない。今度は私が夜釣りに出よう。


 

記事:小笠原 雫さま(ライティング・ゼミ)

 

「うわー、どうしよ」

 

ある日、私はメールチェックをしていて、思わず声が漏れた。というのも、製品モニターに当選した連絡を受け取ってしまったからだ。

 

いや、まさかね、当たるとは思ってなかったんですよ。だから、ソレをお借りして何に使おうかなんて、何も考えてなかったのです。

 

私と、ソレとの出会いは他の人が使っているのを見たからでした。

「うわー! 今の製品はここまで進化していたのか!」

何にでも感化される私は、目の前にあるソレを触りたかったのですが、その人と私はあまり親しくなかったので、触らせてもらうのは諦めて、いつか実店舗で触ってみようと思っていました。

 

そんな時です。製品モニターの募集を見たのは。

触ってみたいけど、どうせ当たらないだろう。そんなダメモトな気持ちで応募しました。でも、そんな時に限って当たるものなんですね。

 

いやー、困りました。

 

触りたいけど、どう使おうかなんて考えてなかった。安易な気持ちで応募したことを激しく後悔しました。でも、もうすぐテレビでよく見るアレが私の元にやってくる。

 

使い道が思い浮かばないうちに、アレが届きました。

コレって、機能がシンプルだから、使い道が限られてるんですよ。ほとんどの使い道は公式サイトで紹介されてある。

 

何か、コレの新しい使い道は無いものか。

考えても思い浮かばないので、開き直ることにしました。

私は、コレを持って釣りに行くことにしたのです。夜釣りに。

 

そういえば昔、父の夜釣りに何度か同行したことがあります。もう、そこはゴツゴツした岩場で、毎晩が大シケ。波と風の音で私の声なんて届かない。全く釣れないなんて、当たり前。

 

でも、そんな父の釣りは大した道具が無くても数年に一度は大物が釣れていました。今はもう父の夜釣りに同行させてもらうこともなくなりましたが、もし今まだ生きていたら。そして、この製品さえあれば。数年に一度どころじゃない、もっとたくさんの大物に出会えたことでしょう。でも、そんな父ももういない。

 

だから、今度は私が夜釣りに出る番です。

テレビでよく見るアレを持って。

 

コレをお借りした期間は1カ月。

今日から毎晩、私は自分の脳にボイスレコーダーという釣り糸を垂らす。

私の寝息は静かだろうか? 大シケだろうか?

何が釣れるかさえも分からない。

単調なイビキの音しか拾えなかったらどうしよう。

それでも私は糸を垂れる。

『面白い寝言』という、大物が釣れる可能性を信じて。

 

そう考えると、この文章の冒頭で「何に使おうか」と頭を抱え込んでいた自分が滑稽に思えてきた。こんな素晴らしい釣り道具をお借りできたことを光栄にすら思えるようになった。

 

やっぱり、コレはすごい。

「私たちの耳」という道具でしか仕留めることの出来なかったものが、コレを使えば百発百中だ。その代わり、無音も寝言も全て掻っ攫ってくる。でも大丈夫。何せこれは、録音をしながら無音と寝言を振り分け、無音になると自動で録音が一時停止される機能が付いていて、なおかつ早送りで再確認することができる。それからコレの何がすごいって、「私の知らない世界を聞かせてもらえる」ことだ。

 

実際に使ってみた。

結果から言うと、寝言は一言も拾えてなかった。残念だ。しかし、私の呼吸が少し変わっていることが分かった。「息を吐かない」無呼吸だったのだ。

 

私の無呼吸は早朝に始まる。

息を吐く際、鶏の「コーコッコッコ」と似たような高めの声で「カッ……カッ……カッ……」と少しずつ息を吐き、そして残りの4分の3を、待ってましたと言わんばかりに「ハァーッ!」と吐き出していた。息くらい普通に吐けばいいのに……私はニワトリか!?

 

かつて父も「睡眠時無呼吸症候群」だった。

仕事から帰ってきてビールを飲み、リビングでうたた寝とは名ばかりの大イビキが始まり、そして突然呼吸が止まる。

 

「おとうさん、しんだ?」

 

家族3人で父の顔をのぞき込む。すると1分ほどで息をする。心配になった母は、イビキ解消グッズを買ってきた。しかし、どんなに家族が心配しても「俺はイビキやら、かきよらんし、息もしよる!」と、絶対にイビキ解消グッズを使おうとしなかった。

無呼吸の治療は当時まだ行われてなかったけど、あのときボイスレコーダーがあれば、そして息をしていない自分を知ったら、イビキ解消グッズを使ってくれたかもしれない。

 

いつも無口で、ゴツゴツした岩場のように、しかめっ面だった父は、「ハイッ! スイッチ押しましたぁ~」「何メーターや?」「さっさとせんかー!」などと、仕事絡みと思われる寝言を次々と繰り出していた。ヘビースモーカーでもあったため、寝ていて痰が絡むのか、咳が出る日も多く、口をモゴモゴさせていたが、ムクっと起き上がると、「痰を吐く所を探す夢やった」と家族を笑わせた。ある時は「雫ちゃん、ありがとう!!」と高校入試の合格発表前日に、寝言で合格を予言してくれたこともあった。

 

父の寝言は、最期の最後まで続いた。

ここ2、3日がヤマという病床にありながらも、笑ってしまうような名言を遺して逝ってしまったのだ。だから今からでも遅くない。天国で眠る父の枕元に、このボイスレコーダーを置いてみたい。きっと、天国でも面白い寝言を言っているだろうから。

 

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2016-03-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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