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カラスウォー


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:河口真貴子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
垣根を抜けると、
「がぁーがぁーがぁがぁかぁ」
けたたましくカラスが鳴いている。
街灯の上にとまっている少し大柄なカラスがけたたましく鳴いているのだ。
 
普通の鳴き方ではなく、非常に興奮した鳴き方だ。
何かの警告音のようにけたたましい。
 
垣根を抜けたこのエリアは、馬を放牧するためのエリアで、1頭ずつ柵で作られたサークル内に放して自由に過ごしてもらうための場所だ。サークルが5つあり、さらに草を食む広めの場所もある。
 
馬を放牧するための準備でいつも通りにこの場所に訪れたのだが、今日はどうも様子がおかしいのだ。
 
いつもなら、カラスも馬のための水桶で水浴びをしたりして、馬も人もカラスも平穏に過ごしているはずなのだ。
 
注意を払いつつ、普段通りの行動を心掛けた。
だが、けたたましく鳴いているカラスが留まっている街灯のそばを通り過ぎようとしたところ、突然私の頭を何かが当たってきた。
 
カラスだ。
 
カラスが私の頭を狙って攻撃してきたのだ。
頭皮には傷はついていないまでも、明らかに髪の毛の間にカラスの足か爪が入ってきて、つかまれるような感覚があった。
 
たまたまか? と思い、特に慌てず、逃げず、行動していると、
二回目の攻撃が来た。
さっきと同じように後ろから頭をつかまれるようなな攻撃だ。
 
上空をよく見るとカラスは二羽いる。
二羽とも明らかに私を見ている。
攻撃してきたのは少し大きい体のカラスだ。そのカラスは木の上に留まり、完全に私を二つの目で真正面からとらえ、くちばしを前に突き出して、全身を使って大きな声で鳴いている。もう一羽はスリムな体だ。スリムな体のほうを見た後に、攻撃してきたカラスを見ると、体ががっしりている。体の太さがあるのだ。厚みがあり、どっしりとしている。人間でいうところの胸板が厚い感じだ。
わたしはあいつに攻撃されたのか。恐ろしさを感じ、一気に緊張感が体を駆け抜けた。
 
おもわず、地面にあったバケツを武器に持った。
木の上に留まっているあの大きなカラスとまだ完全に目が合っている。
くそ、負けてたまるか。
こっちにだって対抗策があるんだぞ!
バケツに入っていた水をかけるつもりで宙に振りまいた。
だが、当然ながら木の上に留まっているカラスに届くはずもなく、むなしく少しの雫が宙を舞っただけだった。
今度はバケツを大きく振り回し、手足を大きく動かして、威嚇行動を続けた。
 
しかし、あっちもひるみそうにない。
こっちを見てしきりに鳴いている。
 
これはいけない。
同じ土俵に立ってはいけない。
いったんこのエリアから立ち去ろう。
 
そう思っていると、私と同じように放牧の準備をするために人がやってきた。
 
「カラスに襲われたー!」
と報告しながら、足早に危険地帯と化している放牧エリアから立ち去った。
 
用を終えて、もう一度あの、カラス危険地帯と化した放牧エリアへ行くと、
「私も襲われたよー。いなくなった後、3回も襲ってきた!」
 
どうやら、人を手当たり次第攻撃しているようだ。
 
実は、そのエリアでは、朝からすでにたくさんの人が襲われていたのだった。
 
私たちが襲われたのをきっかけに、どんなふうに襲ってくるのか、人が集まり、検証が始まった。さながら現場検証のようだ。
垣根の外側から、危険地帯と化した放牧エリアの状況を観察する。
バラバラと5,6人が一気に放牧エリアに足を踏み入れる。
カラスも鳴くものの、直接攻撃をすることなく、空中から警戒しているだけにとどまった。
 
「一人じゃないと襲ってこないんじゃない?」
 
危険地帯にいた人がわらわら撤収する。
一瞬、誰がいけにえになるのか……と思っていると、
 
「俺、行くわ」
 
勇猛果敢にも一人で半袖ポロシャツ、帽子もかぶらずに無防備な軽装で放牧エリアを進む。
私が2回目に襲われた付近に差し掛かると、まさにあの大きなカラスが、背後から高い位置から頭を狙って急降下した。
二羽が見事な連携プレーを見せながら、人の頭の後ろ、人の死角を狙って襲うのだ。
 
不謹慎だが、カラスの飛行技術、アクロバット飛行を見て、おぉーすごい、などと感心してしまった。
 
この二羽はツガイなのだそうだ。
その日の朝、二羽のヒナが地面に落ちていて、人がそのヒナを移動したらしい。
まさに、放牧エリアの隅の石の上にヒナを移動したというのだ。
 
そりゃぁ仕方ない。
ヒナを守るか、取り返そうとしていたのだ。
 
そうとは知らず、反撃してしまったではないか。
喧嘩開始! と言わんばかりに、攻撃に対して真っ向から対抗してしまったではないか。
 
あの二羽が必死になっていたわけだ。
あの様子からするとヒナがまだ二羽の元に戻っていないのか?
大きな体のカラスはさしずめお父さんか。頼りがいのある頼もしいお父さんではないか。
 
あのけたたましく鳴いていたのは、正に警告、警戒の鳴き方だったのだ。
警戒・警告の鳴き声と気づけなくて申し訳ない気持ちになった。
 
自然とうまく付き合うためには、警告音のような音だ、と思ったわたしの勘を信じるべきだった。
攻撃に対して、攻撃で反応してしまった。
パワーに対してパワーで対抗してしまった。
人間としては、動物の習性を考えながら冷静に知恵を使って対処するべきだと思うのに。
 
翌日もカラスたちの警戒行動は続いていた。親戚のおじさんなのかなんなのか一羽加わって三羽体制となり、守るエリアがすこし移動して、さらには広範囲になっていた。
 
そのまた翌朝、放牧エリアを訪れると、打って変わって、いつもの平穏な空気が流れていた。カラスがいない。静かだ。彼らはどこに行ったのだろうか?
 
一人で勇猛果敢にいけにえ役を買って出た方が話しかけてきた。
 
「カラスいないですよね?」
 
昨日の夕方、少し離れた人通りのある場所でヒナが発見され、すぐ近くの林に数人で傘で守りながらヒナを移動できたのだと教えてくれた。
 
馬も人も、そしてカラスにも平穏が戻った。
 
 
 
 
***
 
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2021-06-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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