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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:笠原 康夫(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
まるで池の中の鯉がエサを奪い合うように4、5人の60代後半から70代のシニアは次々に私に向かって質問攻め。
「昨日、変な画面が出てきたのよ。怖くてもう触れないわ」「夜中に電話でもメールでもないのにピーピーと音が鳴るのよ」……
内心、「聖徳太子じゃないんだから同時に質問されても困っちゃうなあ……」と思いつつ、平然と「順番に伺いますから少々お待ちくださいね」と優しくいさめる。
最近、巷の携帯ショップで日常になりつつあるスマホ教室のひとコマ。
 
国民の8割以上がスマホを所有する時代。手のひらの上で手軽に様々な情報を手に入れたり、家族やお友達とのコミュニケーションにも欠かせない道具となった。
 
ここ10年余りの間に一気にスマホが普及したが、シニア層と呼ばれる高齢者の多くがスマホの使い方に慣れず、困っている。
そこで某通信会社は数年前からシニアがスマホの基本操作や活用方法を無料で学べるスマホ教室を始めた。
 
私はこの3年にわたり、そのスマホ教室の講師を務めている。
ショップの一画に教室スペースを設け、受講生を募り、教室形式の授業を無料で開催している。
 
受講生の反響はいたって好評だ。
スマホの取り扱いに困っているシニアは多いようで、コロナ禍もどこ吹く風とばかりに、連日、スマホ教室は多くの受講生であふれかえっている。月に20コマ以上受講する人も珍しくない。
 
3年前、この仕事をし始めてまもない頃は、シニアによくある、こんな態度に悩まされた。
 
人の話を聞いてくれない。
自分が聞きたいことだけを我先に聞こうとする(周囲への遠慮がない)。
プライドが高い(現役世代に活躍していた男性に多い)。
なかなか覚えてくれない(もしくは覚える気すらなく暇つぶしで参加する人もいる?)。
そもそも何が分からないかが自分でも分からず参加している。
 
ある意味、幼児より接し方が難しい。純粋無垢な幼児のほうがあやし易い。
 
ただ、受講生は皆、ショップの大事なお客様。誠実に対応しないといけない……
なんとかして上手く対応する方法はないかと試行錯誤の日々が続いた。
ただ根気よく受講者と向き合っていると、半年くらい経つ頃には、徐々にシニアに接するコツがつかめてきた。
 
それが、私が行き着いたシニアと上手に接するための魔法の言葉だ。
 
その1 魔法の言葉 「さしすせそ」
シニアとの会話における5つのつなぎ言葉の頭文字。
 
「さすが!」、「知(し)ってますか?」、「すごい!」、「せっかくですから」、「そうそう」
 
受講生が新しいことができたら「さすが!」「すごい!」と褒める。
退屈そうにしていたら「知ってますか?」と促して注意をそそる。
遠慮がちな人には「せっかくですから」もう一息がんばりましょう! と背中を押す。
受講生の発言は、決して否定はしないで「そうそう」と受け止める。
これらのつなぎ言葉をクッションにするだけで受講生は不思議と明るい表情になり、次の会話がスムーズになっていく。
 
その2 魔法の言葉 3つの「あ」
シニアにすり込む3つのキーワードの頭文字。
 
「あわてず」、「あせらず」、「あきらめず」
 
シニアの方々にはある共通する傾向がある。
スマホが苦手なことを恥ずかしいと感じていたり、負い目を感じていると、操作する際に、あわててしまう。
ちょっとプライドが高い人は、やりたいことが出来ない自分を受け入れられずあせる。
また、自分には使いこなせないのではないか、自分には向いていないんだ、とあきらめてしまう。
 
そんなシニアには寄り添って、耳元で優しく「あわてず」、「あせらず」、「あきらめず」の魔法のキーワードを繰り返し、すり込む。すると安心してやる気を出してもらえる。
 
この魔法の言葉を使うようになってから1ヶ月もすると受講生の態度に明らかに変化が現れ始めた。
不思議とこちらの言うことに対して、素直に耳を傾けてくれるようになった。
そうすると講師の私も余裕が出てきて、受講生ひとりひとりのいいところに気づけるようになった。
そして、そのいいところを丁寧に褒めてねぎらうようにした。
 
また、年齢を重ねても向上心を持って、時間を割いて通ってくれる姿勢に対して敬意を表して接するようにした。
 
考えてみれば私よりも何十年も長く生きてきた人生の諸先輩方ばかり。若輩の私よりもずっと世の中の酸いも甘いも経験されているはず。
教えようなんて気持ちは抑えて、自分の親や親戚のおじさんおばさんとお話しする感覚で接するようにした。
 
そして次第に私と受講生の間に信頼関係も生まれ、お互い楽しく教室の時間を過ごせるようになった。
 
こんな楽しい時間を過ごしていると自分なりのシニアの理想像も浮かびあがってきた。
自分も将来はこの人みたいな「謙虚で利口で物分かりの良いシニアになりたいな」というように。
 
ある時、80代前後の女性の受講生が参加されていた。ぼんやりとその人のことを眺めていると、見た目や仕草がなんだか故郷で暮らす私の母親に重なって見えた。
 
受講生がよく口を揃えてボヤく一言がある。
「娘にスマホの操作を聞くと喧嘩になるのよ」
仲がいい家族ほど気軽に聞ける半面、お互い遠慮がないため、喧嘩になるらしい。
確かに私も帰省した時に両親からスマホの操作を聞かれてもついつい邪険な対応をしてしまう。
もしかすると遠く離れた故郷の母親は、地元の携帯ショップの講師にお世話になっているのかもしれない。
 
遠くに住む家族より近くの他人を頼るように。
そうやって、近くに暮らす人々が支え合いながらうまく世の中は上手く成り立っているのだろう。
 
時々、こんなことを思う。
私もいつかはシニアになる。
その頃には、今は想像もつかないような斬新なモノや道具が生み出されているに違いない。
それに対応するためにいつかは自分が若い人から教わる立場になっているだろう。
 
その時は、謙虚でお利口で物分かりの良いシニア受講生でいたい。
ちょっと気が早いけど、ぼちぼち「近くの他人」と上手にお付き合いする準備をしておこうかな……
などと頭の片隅で空想しながら、今日もシニア受講生の前でスマホ教室の教壇に立っている。
 
 
 
 
***
 
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2021-06-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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