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メディアグランプリ

わたしだけのためのエンターテイナー


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記事:鈴木彩子さま(ライティング・ゼミ)

演劇しかり、音楽しかり、お笑いしかり。
通常、エンターテインメントというのは、舞台に立ったエンターテイナーが、大勢のお客さんの前で、その大多数を楽しませるためのパフォーマンスを行います。
たまに「客いじり」という手法で特定の観客とやりとりする場合もありますが、これもエンターテイナーの意識は、いじっている相手ではなく、そのやりとりに注目しているその他大勢のお客さんの方に向いています。
つまり、わたしひとりを楽しませるためだけに全力を尽くしてくれるエンターテイナーは、きちんとギャラと劇場を用意した上でオファーしないかぎり存在しないということになります。さらに言うなら、そんな財力はありません。

しかし先日、わたしは出会ってしまったのです。
小1時間ほど、わたしひとりを全力で楽しませてくれた、エンターテイナーに。

その日、わたしはバラエティショップの化粧品コーナーをうろうろしていました。よく落ちるメイク落としを探していたのです。
わたしは、普段からあまり化粧をしません。しててもすっぴんに間違われます(ここは非常に不本意です)。行きつけの飲み屋の店長さんが、たまたまその場に居合わせたメイク上手な常連さんに「このコに化粧を教えてあげてください」と頼んでくれて、まさかの「そのままカウンターに道具を広げてお手本見せてもらいながらのメイク講座」が始まったくらい、化粧っ気がありません。
でも、せっかく教えてもらったので、たどたどしい手つきで慣れないアイラインなんぞを引いてちょっとずつ練習していたら、手持ちのメイク落としではそのアイラインをうまく落とせず、よく分からないビミョーな目力が残ったままになってしまいました。このままだと肌にもよくないだろうしなぁ……ということで、よくわからないままに、とりあえずバラエティショップに来ていました。

さすがに何の下調べもしなかっただけあって、どれがいいんだかサッパリ分かりませんでした。しかしドラッグストアよりもちょっと価格帯が上なので、できれば失敗したくありません。う~ん、どうしたもんか……と、勘で手に取ったメイク落としを握りしめたまま途方に暮れていると、左ナナメ後ろから声がしました。
「ここのブランド、いいですよね。わたしも使ってるんですよ」
振り向くと、明るくて人懐っこくて、でも芯がしっかりしてそうな、チャーミングなお姉さんがニコニコとこちらを見ていました。

東急ハンズやロフトなどのコスメコーナーで、エプロンをつけた販売スタッフさんが大勢立っているのを見たことはありませんか? 週末になると結構な人数が立っていて、なかなかの頻度で声を掛けられますよね。店員さんに話しかけられるのがニガテな方にとっては、「販売スタッフさんがいる棚=鬼門」という感じで、避けて通られる方も多いかもしれません。
わたしも以前はそのタイプでした。「聞きたいことがあったらこちらから話しかけるから、とりあえずほっといてください」と思っていたんですが、登録制のバイトで週末だけの販売スタッフを経験してからは、とりあえずちょっとだけは話を聞くようになりました。あの人たちも仕事だもんね、と。

それに、その登録制バイトの経験を通して、販売スタッフさんにも大きく分けて2種類存在することに気づいたんです。
ひとつは、ただただ商品のいいところを一方的に言ってくるだけの、売り込み型。こっちの反応などお構いなしで、とにかく力技でグイグイくるタイプ。これで押し切られて不本意な買い物をさせられた人が、販売スタッフさん嫌いになっちゃうんじゃないかなぁと思いました。
もうひとつは、お客さんにどんなものを探しているのかを聞いて、必要なら自分のところ以外の商品まで紹介してくれちゃう、世間話型。このタイプの販売員さんに当たると、ものすごく楽しいです。話上手で聞き上手で感じのいい人が多く、その日の買い物が5割増しいい思い出になります。

どちらのタイプかは、ちょっと話してみると何となくの感じで分かるので、いままで販売スタッフさんに声をかけられたら条件反射で断っていた方も、ほんのちょっとだけ立ち止まって話を聞いてみると楽しいかもしれません。大丈夫。自分に合わないタイプの販売スタッフさんだった場合は「すみません、ちょっと今、時間が無いので」という魔法の言葉を発すれば、すぐに離脱できます。

メイク落としを握りしめて立ち尽くしていたわたしに声をかけてくれたチャーミングなお姉さんは、間違いなく販売スタッフさんです。でもちょっと不思議な感じがしました。わたしが立ち尽くしていたコーナーのブランドをオススメに来た人ではなさそうなのです。うまく言えないのですが……ある特定のブランドをオススメに来ている販売スタッフさんって、商材の近くを定位置にして、そこからあんまり離れないんです。商品に興味を持ってくれたお客さんにサッと話しかけられるようスタンバイしていなければなりませんから、当然です。でもそのお姉さんは、もっと自由にあちこち歩き回っている感じがしたんです。だから一瞬、そのバラエティショップ自体の社員さんで、化粧品コーナー担当とかなのかな? とも思いました。だったら、売り場全体がテリトリーですからこの自由な雰囲気も納得がいきます。でも、そういう立場の人が一般客に自分から声かけをしているところは、販売のバイトをしていたときも、お客としてお店を利用している時にも、見かけたことはありません。

「このお姉さん、何者だ?」
そんな気持ちが顔に出ていたんでしょうか? そのお姉さんは
「安心してください、わたし、このブランドの人じゃないんで」と言って、お日様みたいに笑いました。
何かこの人、楽しそうだぞ。わたしのアンテナが反応しました。どこのブランドの販売スタッフさんかは分からないけど、間違いなくわたしよりも化粧品には詳しそうだし、この人に相手をしてもらおう。
わたしはアイラインをするっと落とせるメイク落としを探していることや、メイクについてお恥ずかしいくらいに無知なことを打ち明けました。するとお姉さんは、わたしの手の中にあるメイク落としを見て、
「だったら、これじゃ難しいかもしれませんね。わたしが個人的に使ってみて良かったものがあるんですけど、見てみますか?」
そういって、そのブランドとは全く関係のないコーナーに連れて行ってくれました。

「わたし、けっこう肌が弱くていろいろ試してるんですけど、これはホントよく落ちて、こすらなくていいから肌の負担も少なかったんですよ。実際に落ち方を見てみると分かると思うんですけど……」
そういってキョロキョロと辺りを見回した後、
「ちょっとこちらまでいいですか?」と、メイク落としのテスターを持ったままテクテク歩いて、今度はアイライナーがいっぱい置いてあるコーナーに連れて行ってくれました。

「見ててくださいね」
お姉さんはウォータープルーフのアイライナーのテスターを自分の手の甲にサッとひと塗りして、パタパタと軽くあおいで乾かした後、持って来たメイク落としのテスターをその上にワンプッシュして優しくクルクルと撫で始めました。面白いほどサーッと落ちていきます。
「わ! ホントだ、すごいですね!」
素直に驚いたわたしに、
「いいリアクションありがとうございます!」と、お姉さんはにっこり笑いました。

その後も、
「もうひとつオススメのメイク落としがあるんですけど、このお店には置いてないんですよね~」と、スマホでその商品の情報を見せてくれたり、どんな流れでそうなったかはもう覚えていないのですが、そのお姉さんが愛用しているファンデーションの販売スタッフさんに口を利いてくれて、プロのテクニックを使って試し塗りをしてもらって「おぉー、ナチュラルだー! さすがプロ!」なんて二人で盛り上がったりしていました。もはや、コスメに詳しい近所のお姉ちゃんが買い物に付き合ってくれているみたいな状態。ついさっき出会ったばかりの販売スタッフさんと一般客とはとても思えないほど、わたしはすっかりこのお姉さんが好きになっていました。
しかし、ここまでずーっといろいろ教えてくれているのに、お姉さんは自分が何をオススメに来ている販売スタッフさんなのかについては、ひと言も話さないのです。

「いやぁ、むちゃくちゃ楽しかったです。ありがとうございました。お仕事中なのに、ずっと付き合ってもらっちゃってすみません。……で、お姉さんは何をオススメしに来ている人なんですか?」
もう、直球で聞いちゃいました。
販売スタッフさんって、ノルマとか目標とかが絶対あるはずなんです。わたしに付き合ってくれている間、もしかしたらお姉さんの商材に興味を持った人がいたかもしれません。このお姉さんのキャラでひと押ししたらスッと買ったかもしれない人を、いっぱい逃していたかもしれないわけです。もちろん予算に上限はあるけど、お礼の気持ちもこめて、お姉さんのオススメしている商品は買っていこうと思っていました。

「じゃあ、ちょっとだけ聞いてもらってもいいですか?」と、ちょっと恥ずかしそうに、お姉さんはやっと自分の売り場にわたしを連れて行ってくれました。お姉さんがオススメしていたのは、フェイスパックでした。通常は5枚1パックで売っているのですが、30枚入りの大袋バージョンが出たようで、そちらをメインにオススメに来ていたようでした。
さっきまでと同じように、自分で使ってみた感想を教えてくれながら、顔にべたっと貼る分まるまる1枚をテスターとして取り出して、わたしの手の甲に貼ってくれました。気持ちいい……。それまでの時間で構築されたお姉さんへの信頼もあって、このフェイスパック、アリだなぁという気持ちがどんどん強くなっていました。
もちろん、手の甲と顔では肌の強さが違いますから、いきなり30枚入りで冒険するわけにはいきません。1~2枚の時点で肌に合わないと分かった場合、残り全部がゴミになってしまいますから。そこでわたしは、とりあえず5枚入りを買って帰ることにしました。

ところが無かったのです、5枚入りが。売りきれちゃってたんです。申し訳ない気持ちでいっぱいのわたしに、お姉さんがまたお日様みたいな笑顔で言いました。
「5枚入り、その辺のドラッグストアで売ってますから、よかったらそっちで試してみてください」
そしてハッとしてチラッと周りに視線を配ってから
「あと、このバラエティショップの系列店でも扱ってるので……って言っとかないと」と、今度はちょっといたずらっ子のような笑顔で言いました。

結局その日、わたしはさんざん楽しくおしゃべりして、化粧品についてのいろいろな情報をもらったあげく、そのお姉さんのお仕事にはまったく関係のない、肌に優しくてよく落ちるメイク落としだけを買って帰りました。
帰り道、わたしは劇場で大好きな舞台作品を観てきた後のような充実感に浸っていました。販売スタッフさんに木戸銭(チケット代)を払いたいと思ったのは初めてでした。
そして思ったのです。販売という仕事は、たったひとりの観客に向けて全力を尽くすエンターテインメントなのかもしれない、と。

そういえば、登録制のアルバイトで実演販売をやったときもそうでした。
そのときはコスメではなく、調理器具でした。生のかぼちゃをサクッと切れる包丁とか、玉ねぎを切っても涙が出ない刃物とか、キャベツの千切りができるピーラーみたいなやつといったアイデア商品を、実際に野菜を切って見せながら紹介する仕事で、勤務場所は確か埼玉の方のバラエティショップだったと思います。

近所の八百屋さんで野菜をいっぱい買ってお店に行くと、売り場責任者さんがにこやかに迎えてくれました。そして言ったんです。
「新宿とかではどうか分かりませんが、こっちの方だと、販売スタッフさんが来てくれること自体がちょっとしたイベントなんです。もちろん売れるに越したことは無いんですが、それよりも、お客さんを楽しませてあげてください」

そして、販売業務がスタートしました。楽しませると言っても、わたしの場合はしゃべりがすごい実演販売のプロと違って、通りすがりの人に「いかがですか~?」などと声をかけながら、興味を持ってくれたお客さんに商品の説明をするという、至って普通のスタイルです。それでも、やはり売り場責任者さんが言っていた通り、単発で現れる販売スタッフは珍しいと見えて、いろいろな方が興味を示してくれました。

とりわけ印象的だったのは、高校生が来てくれたことでした。
女子高生のグループが来て、涙が出ない玉ねぎ包丁を試しては「わ~、すご~い」なんて喜んだり、「おうちでお手伝いとかするんですか?」と聞くと、「わたしは、ときどきやってます」と答えてくれた子が、お母さんにも使わせてあげるのだと玉ねぎ包丁を買って行ってくれたりしました。

さらに面白かったのは、男子高校生の反応でした。わたしが販売に立っていたのはエスカレーターの近くで、休憩用のベンチがずらりと置かれていたのですが、3~4人の学ランを着た集団が、一番遠くのベンチから明らかにこちらをチラチラ見ているのです。わたしは目が合ったひとりに、ジェスチャーと口パクで「やってみる?」と呼びかけてみました。すると、待ってましたとばかりにわらわらと集まってきました。そして恐る恐るかぼちゃに包丁を入れては「おぉーっ!」と喜び、玉ねぎをガシガシ切っては「何だこれーっ!」とテンションを上げていました。わたしは「面白いでしょ? そちらのお兄さんもやってみます?」と場を回したり、「野菜はこう……猫みたいな手で持って、手を切らないように気をつけてくださいね」と家庭科の先生みたいなことを言いながら、楽しむ彼らをサポートしていました。

また、40代くらいの主婦の方は、わたしが単発で入っているスタッフだと知らずに、「人へのプレゼントを探しているんですけど、予算1000円くらいで、10個ほどそろえられる、何かいいものないかしら?」と話しかけていらっしゃいました。わたしは正直に状況をお話しし、「わたしがご紹介しているアイテムの中ですと、こちらがご要望に沿えるかと思います」とお答えしたあと、他に良さそうなアイテムが無いか、実演販売ブースの周辺だけではありますが、一緒に探したりもしました。
その女性はいったん他の売り場も回った後、わたしのところに戻ってきて「せっかくオススメしてもらったから」と、わたしの紹介していた商品をごっそり買って行ってくれました。この一連の出来事が、お友達にプレゼントを渡す時に添えるちょっとしたエピソードトークになれたなら、こんなに嬉しいことはありません。

販売スタッフさんって、本当に大変なお仕事だと思います。ノルマとか販売目標とかのプレッシャーがなかなかなものだと思いますし、お客さんの中には脊髄反射で「そっとしておいてください!」などと怒りだす人もいるので、不愉快な思いをすることも少なくないと思います。
それと同時に、販売スタッフさんから声をかけられるのがものすごく苦手という気持ちも分かります。休日の買い物くらい、自分のペースで好きにさせてくれって思いますもんね。

でも、もし販売スタッフさんが、その場の販売数だけを追うのではなく、自分自身をその商材の広告塔やイメージキャラクターだという認識でお仕事するようになったら、どうでしょう? もちろん、そうするためには販売スタッフさんを雇っている側の意識も変えていかなければなりませんが、少なくとも、売り込み型の販売スタッフに押し切られて不本意な買い物をさせられる人は減るのではないでしょうか? 実際、わたしは後日ドラッグストアにいって、あのお姉さんがオススメしていたフェイスパックを購入しましたし、今後もよっぽどのことが無い限りはリピートするつもりです。これは、商品が肌に合うかどうかに加えて、あのお姉さんとの楽しい思い出が付加価値として乗っかっているからです。機会があれば友人にも勧めるかもしれません。

また、お客さんの方も、販売スタッフさん全体を「話しかけられると面倒な存在」として一緒くたにするのではなく、思いがけず出会うエンターテインメントの種だと思って、いったん話を聞いてみるようにするというのはどうでしょうか? 語り口が心地よくて、自分が欲している情報を持っていそうだったら、ビッグチャンスの到来です。きっとそこから、あなただけのためのエンターテインメントが開幕しますから。

 

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2016-03-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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